猫好きに悪いやつはいない
2022年2月22日の今日はスーパー猫の日らしいです。
でもたぶん時代設定はかつてのヤンキースケバンの時代。
「おらぁっ!」
「ぐはっ!」
その出会いは鮮烈だった。
「あたしのツレに手ぇ出すなんて良い度胸してんじゃねえか!」
「ち、ちがっ!」
「うっせえ!」
「ぐほぁっ!」
俺は彼女の頭突きで地面に倒れた。
彼女は強かった。
俺は昔から天下無敵だった。
怖いもんなんて何もねえ。
俺に敵うやつなんていやしねえ。
ずっと、そう思ってた。
それを、彼女はぶち壊した。
「いいか!
二度とあたしの大事な後輩に手ぇ出すんじゃねえぞ!」
「だ、だから、ちが……」
「ああん!?」
「……す、すいませんでした」
「先輩!
素敵!」
「いくぜー」
「はい!」
俺は悪漢に襲われそうになっていた女の子を助けただけだが、俺が女の子を助け起こそうとした時に彼女が現れた。
衣服の乱れた女の子の手を引っ張る俺。
彼女の魅力に、その流れに便乗することにした女の子。
俺の言い訳は、言い訳にしかならなかった。
そして、俺は彼女にこてんぱんにぶちのめされた。
女だからとかじゃない。
彼女は普通に強かった。
タイマン張っても俺は勝てないかもしれない。
それに何より、
彼女は、とても美しかった。
その後、彼女の学校を調べて、どんな人物なのかを調べた。
調べると、彼女の偉業がごろごろ出てきた。
女子高に通う彼女はそこの女子たちの憧れの的らしい。
不良ではあるが、正義感が強く、曲がったことが嫌いな彼女はセクハラ教師をぶっ飛ばしたことで全校生徒から慕われるようになった。
眉目秀麗な彼女自身の噂を聞いて、他校の不良どもが手込めにしようと思って学校に乗り込んできたりもしたが、彼女はそのすべてを撃退。
さらには周りの女子たちが親衛隊を作って彼女を守ることになり、もはや生ける伝説となった。
そんな彼女の勢いは留まることを知らず、ちょっかいを出してくる奴らを撃退していくうちに県内トップレベルの存在になった。
最近転校してきたばかりの俺は知らなかったが、彼女はすごい女だったのだ。
まあ、転校初日に学校のトップになった俺が言うのもなんだがな。
だが、だからこそ気に食わん。
ただの勘違いで変態野郎の烙印を押されるのは堪らない。
こうなれば、何か彼女の弱点を探ってやる。
決して、彼女にもう一度会いたいからとかではない。
そう、決してな。
「来たぜ!」
「あんたもしつこいね!」
その後、俺は何度も彼女の前に現れた。
その度に彼女にボコボコにされるのだが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
もしかして、俺はそっちの気があったのか?
いやいや、そんなの彼女だけだ。
しかし、彼女は弱点がない。
弁当は手作り。
バイトを掛け持ちして家計を助け、道行く知らないおばあちゃんの荷物を持ってやる。
そして、絡まれている女の子を助ける。
ううむ。
素敵だ。
「お兄ちゃん、この辺でいいよ」
「お、そうか」
「ありがとねぇ、おぶってくれて」
「なーに。
俺もこっちに用があったんでな。
じいさん、気をつけて行きな」
そして、またしばらく彼女を観察して、ようやく彼女の弱点を見つけた。
「……」
彼女が河川敷の橋の下で何かを見つめている。
いったい何を見てるんだ?
ま、まさか死体!?
「……」
彼女が何かを呟きながらしゃがみこむ。
やっちまったのか?
その処理に困ってるとか?
まさか、彼女に限ってそんなこと……。
俺は彼女にバレないようにひっそりと近付いてみた。
「……ーん」
ん?
なんか鳴き声みたいのが聞こえるな。
「にゃーん」
「おー!
よしよしよしよし!
かわいいねぇ。
かわいいねぇ。
捨て猫かい?
かわいそうにねぇ。
うちで飼えたらいいんだけど、母ちゃんがアレルギーなんだよ~。
新しい飼い主が見つかるまで、あたしが面倒見てやるからね~」
「にゃーん!」
「ああ、そうかい?
嬉しいのかい?
あ、そー!
そーかい!
かわいいねぇ」
「……」
「はっ!」
子猫に頬擦りしていた彼女がようやく俺に気が付く。
「……」
「……」
「……殺す」
「いや待て!」
いきなり俺の首を絞めにかかる彼女を何とかなだめる。
「誰にも言わん。
心配するな」
「……ホントーだろうな?」
真っ赤な顔でこちらを上目遣いで睨み付ける彼女。
いや、かわいすぎる。
なんだか彼女自身に耳としっぽが生えている気がしてきた。
「あたしの沽券に関わるんだよ」
難しい言葉知ってるんだな。
俺には意味は分からんが、評判的なことなんだろう。
彼女のしっぽがしゅんってなってる気がする。
「誰にも言わねーよ」
「ホントか!」
耳がピョコン!
かわっ!
「にゃーん」
「ああ!
ごめんな~。
おまえのこと無視してたわけじゃないよ~」
「……」
彼女も子猫もお耳ピコピコ。
「はっ!」
「いや、続けてくれ」
かわいいから、ずっと見てられるわ。
「おお~い!
やぁっと見つけたぜぇ!」
「!」
「む!」
そこに、ずっと彼女に交際を申し込んでは断り続けられてきた強面野郎登場。
お仲間いっぱい。
「今日こそはおめぇを俺のスケにしてや……ぶふぇ!」
セリフの途中で彼女の頭突き。
1発で気絶する名前知らんやつ。
「なっ!
くそっ!
やっちまえ!」
親分やられて躍起になるモブら。
「はっ!
上等!」
受けて立つ彼女。
「おらぁっ!」
「なっ!」
参戦する俺。
驚く彼女。
かわいい。
「邪魔すんなよ」
「……子猫にほこり被せたくねえんだよ」
「……なら許す」
ほんのり顔を赤くして嬉しそうに微笑む彼女。
マジ天使。
んで、当然のように瞬殺。
親分連れて散っていくモブ。
「おまえ、意外とやるやつだったんだな」
「へへ、まあな!」
「あたしにはいつもボロ負けだけどな」
「……うっせぇ」
いつも、おまえのかわいさに見とれてるんだよ。
「なっ!
おまえなに言ってんだよ!」
「え?」
うそ、今の声に出てた?
「バ、バカじゃねえの!」
真っ赤な顔でプイってする彼女。
でも、耳としっぽはピコピコ。
うん。
もはや尊い。
「あ、その子猫。
俺んとこで飼うよ。
すでに2匹いるからよ。
もう1匹ぐらい何とかなるぜ」
「ホントかっ!」
「うおおう!」
パッと顔を明るくして俺の両手を包み込む彼女。
待ってくれ。
俺の心臓のハートビートが16ビートどころの騒ぎじゃない。
「ああ。
俺の家族はみんな猫好きだからな。
心配するな」
これはマジ。
おかげで猫が苦手な舎弟に避けられてる。
「あたしも行く!
この子の住む家を知りたい!」
「マジか!」
てか、両手を握りしめたまま、そんなキラキラした大きな目で上目遣いしないでくれ。
マジで俺のハートがミルキーウェイまっしぐらだぜ。
それから彼女は俺の家に足繁く通うようになる。
それから先はどうなったかだって?
それを聞くのは野暮ってもんだぜ。
「にゃ~ん」