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5栄枝実乃梨という女性

「また、誕生日が来てしまった」


 朝、自然と目が覚めた実乃梨は、ベッドから起き上がり、部屋に置かれた姿見の前に立つ。そこで自分の顔を見てため息を吐く。ついでとばかりに、着ていたパジャマの裾と下着をめくりあげる。


「やっぱり、消えてない。今年もまた、私は年を取らなかった」


 実乃梨の下腹部には赤い紋様が刻まれていた。



栄枝実乃梨さかえみのりは、外見は三十歳ほどに見える。しかし、実年齢はすでに百歳を越え、今年で百五十歳を迎えた。


「新年を迎えて、気分新たに頑張ろうっていう人もいるけど、私にとって、今日は改めて人生が続くのだ、という絶望を迎える日だわ」


 三十歳の誕生日を迎えた日から、実乃梨は年を取らなくなった。年を取らなくなり、見た目が変わらないと気づき始めたのは、四十歳を越えてからだった。周りの人間が年齢を気にし始めたころ、自分の十年前の写真と今を比較して驚愕した。写真を比較すると、まったく容姿が変わらない、まるで写真の日付が一年以内かと思えるほど、容姿に変化がなかった。


 五十歳を機に今まで勤めていた会社を辞めた実乃梨は、ある治験のバイトをすることになった。その時に、自分が不老不死という体質になってしまったことを聞かされた。


 聞かされた当初は、そんな物語上の体質などありえないと、バカにしていたが、それを覆すような事件が実乃梨の身に降りかかる。


 治験という名の不老不死の身体の研究のために病院に通った帰り道、実乃梨が信号待ちをしていたところにトラックが突っ込んできた。トラックは実乃梨をはねて、近くの店に突っ込んだ。トラックは全壊し、運転手は生死をさまよう大怪我を負った。彼女自身も大怪我を負い、本来なら死んでもおかしくないような深手を負った。それにも関わらず、彼女が死ぬことはなかった。トラックの運転手が全治するのにかかった時間の半分もかからずに、実乃梨の怪我は完治してしまった。


「次のニュースです」


 実乃梨は、病院で不老不死体質だと言われてからは、職を転々としてきた。自分が不老不死だと気づかれるたびに仕事を変え、住居を変えて生活をしてきた。しかし、最近は、実乃梨のような不老不死の人間が徐々に増え始め、彼女たちの人権を守るよう、国が動き出した。とはいえ、世間からは未だに不老不死の力を得た彼女たちに対しての風当たりが強い。


「昨日の深夜、女性が殺害されているのが見つかりました。女性の名前は佐々岡未来亜ささおかみくあ、七十歳。ナイフを腹部に刺されたことによる失血死とのことです。現場には先日殺害された女性の現場にも置かれていたメッセージカードが添えられていました。先日の女性殺害の犯人と同一犯の可能性が高いと、警察は調査を続けています」


 朝食のお雑煮を食べながらテレビを見ていると、正月元旦の朝から、物騒な事件が報道されていた。


「殺害された女性は七十歳とのことで、不老不死認定を受けていたとのことです。しかし、殺害された女性の身体には不老不死の証拠である紋様がなく、彼女の身体には男性の体液が付着していました。男性にわいせつ行為を受け、その後殺害されたと考えられています。なお、不老不死になった人間は死ぬことはありません。ある条件を満たすことにより、その力を失いますが、それは」


 そこまで聞いた実乃梨は、テレビの電源を落とす。テレビを切ったため、部屋には彼女の朝食を食べる咀嚼音のみが響き渡る。


「いってきます」


 実乃梨は支度を終えると、玄関から部屋の中に向かってあいさつする。一人暮らしをしているため、その声はただ部屋に響くだけだった。



栄枝実乃梨さかえみのりです。今年もよろしくお願いします。どうか、今年こそ、不老不死から解放されますように」


 毎年のように通っている神社に今年も初詣に参っていた。実乃梨は、いつもの年と同じように手を合わせた。


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