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27あの方の指示

 あれから、相沢は昨日とは変わり、始終ずっと気味の悪い、媚びへつらうような笑顔で実乃梨に接してきた。まるで今までの口下手で真面目な相沢は演技であるかのような態度に違和感を覚える。もしかしたら、今の態度が演技かもしれないが、真意はわからない。


「先輩、さっき荷物を受け取ったとき、配達員の方から何か受け取っていましたよね?何を受け取ったんですか?ラブレター?」


仕事が一段落して、お茶でも飲んで休憩しようと、実乃梨は給湯室にやってきた。実乃梨を追いかけて、相沢も給湯室に入ってくる。その場に実乃梨と自分の二人きりであることを確認してから、機嫌よく話し出す。


「ラブレターではないと思います」


 荷物を受け取った時にもらったメモを指摘された。実乃梨はまだ、メモの中身を見てはいなかった。相沢が付きまとってきたため、ポケットから取り出す暇がなかった。相沢の指摘に素直に答えるが、そこで一つの疑問が頭に浮かんだ。


 どうして、相沢はメモの存在を知っているのだろうか。



 しかし、それよりも相沢の態度の豹変が気になった。


「先ほどから、性格が変わったみたいな話し方になっていますが、何か理由があるのですか?」


「理由なんて、一つしかありません」


 だって私は《《あの方》》の指示でここにいますから。



「そう、そう言うことね」


「私のことを質問攻めにしないんですか?今の私の言葉だけで、理解できたとは思えないんですが」


「いや、大体の事情は察することができたわ。相沢さんが話してくれるというのなら、それに越したことはないから、話は聞くけど」



 実乃梨は言葉通り、今の状況を大まかに把握することができた。相沢は《《彼女》》が変装しているのではなかった。昼休憩後にやってきた配達員こそが《《彼女》》だったのだろうと推測する。


 せっかく給湯室にやってきたので、お茶でも飲もうかという軽い気持ちだったのに、なぜかとんでもない事実が明らかになった。やはり、この相沢という女性も、先日の《《彼女》》とつながりがあった。まさか、自らではなく、おとりを使ってこちらに接触するとは思わなかった。


 とりあえず、ここで動揺して、冷静を失うわけにはいかない。お茶でも飲んで落ち着きながら、話を聞くことにしよう。実乃梨は深呼吸をして、話を聞くそぶりを見せながら、急須に茶葉を入れて、お湯を注ぐ。給湯室に緑茶の良い香りが充満する。


「まあ、今ここで話すにはずいぶんと情報もりだくさんで、時間が足りないくらいです。定時後、夕食でも取りながら詳しくというのはどうでしょう?」


 湯呑みを二つ準備して緑茶を注いでいく。ちょうどよい具合に蒸された緑茶の濃い緑色に目を落とす。


「私には護衛がついているけど、護衛付きで夕食を取ってもいいのなら、誘いに応じるわ。これも《《あの方》》とやらの指示なの?」


「黙秘します。まずは、お茶でも飲んで気分をリフレッシュしましょう?いい香りがしますね。私の分も入れてくださったんですね。有り難くいただきます」


 二つある湯呑みの一つを手に取り、ゆっくりと口に運ぶ様子は、二十代にしか見えないが、話を聞く限り、それより年を重ねているだろう。とはいえ、どうせ今から、相沢の正体を知ることになる。今は深く考えても仕方ない。実乃梨も、淹れたての緑茶を味わうことにした。



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