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1三十歳を迎えた

「とうとう、この年まで処女となってしまった」


 栄枝実乃梨さかえみのりは、本日元旦、めでたく、三十路の誕生日を迎えた。


 そこから、彼女の不可解な体質の苦悩が始まることとなった。




「これは、さすがに異常事態だわ……。まさか、ね」


 十年後、実乃梨は四十歳となる。彼女はこの年になっても独身を貫いていた。恋人も作らず、のんきに自由を満喫していたら、自然と独身となってしまったのだ。しかし、彼女はこの事実に特に悲観はしていなかった。女性の社会進出が世間に広まり、四十歳を過ぎても独身の女性は少なくない世の中。彼女が異常事態だと言っている理由は、彼女自身の異変であった。


 彼女は年を取らなくなってしまった。言葉のままの意味である。旅行などで撮りためた写真を整理しようとしていたときに、ようやく自分の身体の異変に気付いた。


「いやいや、そんなまさか、私はもしや、童顔だったのか……」


 手元の二枚の写真を見比べる。そこには、三十歳の時に友達と一緒に行った旅行先で撮られた写真と、十年後に同じ友達と一緒に旅行した際に撮られた写真があった。


「いや、それはないか。童顔だと言われていたアヤだって、確実に十年分の年を取っているし、マナもカエも年相応の顔で映っている。私だけが、その場に取り残されている……」



 最近、会社でいつまでも若いわねえ。何か若さの秘訣でもあるのか、などと言う質問をされることが多くなった。その時は特に何も疑問に思わなかったのだが、あれはお世辞ではなく、事実、彼女が年を取っていなかったからの疑問だったのだ。


「でも、さすがにそんなことが、私の身に起こるわけがないか……。もし、そうだとしたら、私は実は人間ではなくて、吸血鬼とか、不死鳥とかその類の、想像上の生き物ということになるのかな」


 自分の容姿が変わらないことに恐怖を感じた彼女だが、それでもこの時はまだ、恐怖だけだったので、何も対処せず、日々の生活を送ることにした。




「これは、いよいよ、私が実は『化け物』だったという事実が浮上してきたわ……」


 さらに十年が経過した。栄枝実乃梨は五十歳となった。この日も、写真の整理をしようと突然思い立ち、今まで撮りためた写真を自室の机に並べていた。すでに、自分が年を取っていないということに確信を持ちつつあった彼女だが、それでも認めたくなくて、心の奥にその事実をしまい込んできた。


しかし、それもそろそろ限界である。三十歳の時の写真と、現在取られた五十歳の写真の中の自分はほとんど変わっていなかった。服や髪型、体型こそは変わっているが、それ以外に顔にしわが増えたとか、髪の量が減ったなどと言う、老化現象が写真からは見受けられなかった。


三十代と五十代の写真を見比べているのに、そんなことは、普通ではありえない。年を取るのは当たり前で老化するのは当然だ。それなのに写真の中の実乃梨は。



「見た目が変わら居のと、このお腹のあざは、何か関係があるのかな」


 三十歳の誕生日を迎えた夜、突如、彼女の下腹部には、謎のあざがくっきりと浮かび上がっていた。風呂で石鹸やクレンジングを使っても落ちない深紅のあざのような紋様は、五十歳になった今も、実乃梨の下腹部から消えることはなかった。



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