全てぶん殴ろう
合田さん(仮名)から聞いた話だ。
彼は建築現場で足を折り、複雑骨折で入院することになった。四人部屋で毎日キツいリハビリに通いながら治療に励んでいたのだが、夜、よく悪夢を見ることがあった。
その夢は悪魔や、または亡者、不気味な女に幽霊など不吉なものばかりが出てきて、深夜にうなされて起きることも多かった。しかも悪夢を見た翌日は必ず骨折箇所が悪化していた。
医者も三十代の彼の骨折が予定通り治らないことを訝り、様々な療法を試してみたが経過が良くなかった。
ある時、彼は決意した。
今日から夢に出てくる異形たちは全てぶん殴ろう。殴って引きずり回しぶっ◯そう。
そして、動く上半身だけでも軽くストレッチして両目を閉じた。
その夜の悪夢は頭や顎のない大量のマネキンたちだった。彼を囲んで襲いかかってくるそれらと合田さんは大乱闘の末、何体か粉々に破壊したそうだ。
起きると気分爽快で翌日もリハビリに励み、また彼は夜を迎えた。
翌日は2体の顔のない着物姿女と従者だった。親しげに話しかけて執拗に合田さんの名前を聞き出そうとする女に
「お前の名前は?」
合田さんは問いかけ続け、決して答えない女の髪をいつの間にか掴んで彼は引きずり回していたそうだ。その朝はベッド脇の転落防止の柵を掴んで彼は汗塗れで起きたそうだ。
それからも悪夢の中、異形の者と戦い続け、倒す度に合田さんの足は回復していき、予定通りに退院できたらしい。
この話を聞聞き終わり、自分が
「夢でも何でも無事治って本当に良かったですね」
と声をかけると彼は苦笑しながら
「病院の一階ホールから出るときに、背後から、男の声で2度と来んなよ。と言われて振り返ると誰も居ませんでした。何か本当に居たのかもしれませんね」
そう言っていた。