かまいたち
ここ1年ほど、午前3時などに起きるようになってしまい、時間がもったいないので、日が出る前に歩くことにしている。
午前4時とかに出るので懐中電灯で照らしながら田舎町をゆっくりと歩いていく。
荒れた地域でもないので99パーセント何も起こらない。危ない目にも遭わない。
極稀に人とすれ違うが、早朝出勤の自転車に乗ったお兄ちゃんや学生、ランニングしているおばちゃんなどで、おかしな人も居ない。
ただ1人を除いては。
いくら特定できないとは言え、人物描写をするのもなんとなく憚られるので、ぼかして書くが、河原近くの遊歩道で、真冬にすれ違ったその人は痩せた不気味な女性だった。
暗闇の中からボウッと浮き上がるように出てきて
「おはようございます」
と言った自分の挨拶を無視して通り過ぎていった。
すぐに左上腕と右のスネに痛みを感じて確認すると、ジャケットの右腕部分が裂けていて、スネには太いミミズ腫れが出来ていた。振り返るとそこには誰も居なかった。
彼女はなんだったのだろうか。
後日、友人のオカルト好きの田中さんに話をすると
「かまいたちだな、それは」
「風が起こす自然現象の?」
「いや妖怪の方だ、こんな南に生息していたのか、しかも人間に化けているとは……今度、散歩に誘ってくれ」
「その人に会ったルートは避けてる。切られた上着高かったんやけど」
「リアル妖怪と上着とどっちが大事なんだ!」
詰め寄ってきた田中さんに
「上着……」
と自分は答えた。




