ビフォーアフター
彼女の衝撃の告白はこれにとどまらなかった。シリアス展開が続いたが僕はもういっぱいいっぱいだった。よし、考えることを放棄しよう!彼女にかかわることは危険だ。
「ごめん。君の理解が追いついていないところ悪いんだけど話を先に進めたい。たぶんこれが一番インパクトある話だから気を付けてね。」
彼女はまだ何かあるのだという。だがごめんだ。「今」彼女にかかわるのは放棄する。そう決めたばかりだ。
「・・・僕は正直なところ、もう君の話は聞きたくないよ。怖すぎる。人の人生を体験するなんて大それた話、僕は聞くべきだったのか今でも判断に困ってる。きっとほかにも適任の人がいるよ」
僕は、彼女にそれができるなら何の問題もないことが頭の中に浮かんでいた。この点を整理して考えると、彼女の能力には何らかの欠陥がありそれを僕に補ってほしいという風に聞こえてくる。
「だからもう何も言わない。帰ってくれ。」
また沈黙。僕らはどれだけの間、沈黙を重ねればいいのだろう。今度は彼女が理解できていないようだった。今僕が放った言葉のシンプルなナイフが彼女の心臓にしっかり刺さってしまったのだろう。明らかに動揺している。頬のあたりがぴくぴくしだして、顔も紅潮してきた。やっと状況が理解できたのか。さあ帰ってもらおう。
「あなたは馬鹿ですか」
うんっ・・・何かの聞き違いだろうか。僕は丁寧に断るって告げたはずだ。今この場でふさわしい彼女の言葉は「そうですか。無理言ってスミマセン。私、帰りますね」とかそんな言葉になるはずだ。だから今の言葉は無視しておこう。何かの間違いだ。
彼女の目がさっきよりも怖くなっている。顔は真っ赤なままで、なおも僕に何か言いたげだ。ただここは折れたら負けだ。ここは、涼しい顔でノーコメント
「んっ----あのスミマセン。ひどくないですか。私も一応感情はあるんです。だってあなたに洗いざらい状況を話してるわけじゃないですか。そしてこれからが話の肝だって言ってるわけです。なのにあなたは帰れって今、言いましたよね。さんざん人のことは蔑んでおいてどういうつもりなんですか。弁明、するまで私は帰りません!」
困った客だ。そもそも僕はお水を置きに来ただけなのだ。これ以上面倒な話をされては、何かに巻き込まれそうでシンプルに怖い。
「いや、あなたの家の事情に対して僕の感情を素直に言ってしまったことに関しては謝ります。ただそもそも、僕はあなたに協力するいわれはないじゃないですか。特段仲のいいわけではないあなたに協力はできないので、何も注文しないなら帰ってくれって言ってるんです。」
それを聞いた彼女は、何かをあきらめたように語り始めた。
「私ね。さっきも言ったように死んだ人の痕跡をたどることができるの。そしたら普通、この思念体に真実を伝えることや、消滅させることも難しくないと思うでしょ。」
「いやだから、何、話を続けようとしてるの。そんなこと僕は聞きたくないって言ってるじゃないか。お引き取りください。」
彼女は当初の印象とは裏腹にバカなようだ。やめてくれと言っているのに、まだ話を進めようとしてきた。
「・・・私、毎回、最後に死んじゃうの。」
うーん。言っちゃった。あれだけ言うなってくぎ差したのに言っちゃったよ。たった一言、されど一言、そのインパクトは計り知れない。しゃべらなくていいって言ったのに彼女はしゃべった。
「おいっ。なんで続けたんだ僕には関係ない。そんな面倒事、僕の耳には聞こえない。あーあー」
僕は聞こえないふりをした。何言ってるかホントわかんない。マジでやめてほしい。「死」がかかわってる時点で、僕はこの場からフェードアウトだ。
ーーぐすっ、ぐすっふぐっーー
変な擬音が耳に入ってくる。無視だ無視。裏に戻ろう。
僕の制服の裾の端っこを引っ張っている。だが僕の視界には何も映っていない。泣いてる女の子とか、全然見えてない。
「うえええぇ―ん。この人でなし。グスッ。あんなひどいこと女の子に言っといて自分は最後まで俯瞰するなんて普通の人間にできることじゃないわ。ねえ、ここのマスター呼んできて。じゃないと私の気が収まらないの!」
いったい僕の目の前にいるのはどこのどなたなのでしょう。さっきまでのポーカーフェイスも、口調も面影はすでにありません。泣きわめくという行為に出られるとは正直思っても見ませんでした・・・