カフェから始まる青春ストーリー(1)
町中から少し外れた郊外にひっそりと佇むカフェがある。僕はそこでバイトをしていて、今日は出勤日のため、その店に向かっている。働いている人は僕を含め3人で、細々と経営を続けている店である。
「ケイくん、こんにちは。今日もウェイターお願いね。」
「こんにちは。外はあいにくの天気でしたね。」
いつものように店に入って身支度する。
「そうね。ちょうど常連さんが来る時間帯に雨が降るなんて何かの嫌がらせかしらね。最近の天気はホントにたちが悪いわね。ケイくんも、たちが悪いって言ってもここまでじゃないし・・・」
パソコンに目を向けながら彼女はそういうと、視線を僕に向けてきた。そしてため息をつく。
「ケイくん、あなたはもっと恋をしたほうがいいわよ。女心がまるで理解できてない」
僕の全身を見て、服装に文句を言うのも毎度のことだ。
困り顔でつぶやく彼女にはどうも突っ込みづらい。ホントにたちが悪いのは、悪意がない風に見せかけて立ち振る舞う彼女のような人種だろうと最近は思い始めている。
とまぁ、毎度のようにブラックジョークを出会い頭に投げつけてくる彼女は、きっとなにかしらの意図があってこんなことをやっているのだろうと思うのででまだ放置しているが、これには少し困っている。
「そんな含みのある言い方しないでくださいよ。僕の勤務態度はいたって真面目じゃないですか。服のセンスは関係ないですよ。だってここの制服着れば問題ない訳ですし」
「あなたの服、暗い色で固めすぎよ。気分が下がっちゃうわ。それにセンス以前の問題よ。特徴がない。」
今日はやたらとダメ出しが強い。なんかグサッとくる。
こうやって出勤早々、いつも僕に声をかけてくる人は花村コトミさんである。人当たりがよく美人で、近所の評判もいい女性である。有名大学を卒業後、大手の飲食店関連の会社に入社。その後、紆余曲折あって地元のカフェに落ち着いたらしい。こういっては何だが、コトミさんの経営手腕があってこそ最近は客数も増え始め、何とかなり始めた状況である。亡くなったお父さんが経営されていた時は店がつぶれる寸前にまで追い込まれていたそうだ。
「モラル。もっと守ったほうがいいですよ。」
さっきの僕のセリフの続きで、なんとなく思ったことを言った。別に反撃したくて苦し紛れにはなった言葉ではないのだ。
「相変わらず手厳しいのね。軽く場の空気を和ませようとしただけよ」
これっぽちも気にしてない様子でコトミさんが返す。
そうこうしているうちに、コトミさんの妹が返ってきた。妹の名前は花村ユイ、お姉さんに負けず劣らずの美少女だ。
「私は、今日も店の手伝いをしなきゃでしょうか。お姉さま。今日はあいにくの雨です。客足も芳しくないであろう今日なら、遊びに行かせてあげることもやぶさかではないのではないですか。」
帰ってきていきなりこれだ。
「うん。いいわよ。遊びいってきても。」
あっさりと受け入れられた妹は拍子抜けした顔で固まっている。状況が受け入れられないといった様子だ。
「えっ・・・今なんて。ちょっとびっくりして聞き取れなかったよ。」
「今日は客足もそんなに多くないだろうから、あなたは今月、シフトに入らなくてもいいって言ってるのよ。」
「給料は」
「もちろんなし」
しばしの沈黙が訪れる。ユイは状況の整理が追いついていない頭で歩き出す。ネット通販に、友達との今後の予定・・・
今月の給料が出ないと聞いて、いつも遊ぶお金をかつかつで回している彼女は明日を生きる気力もないといった顔で店のドアから出ていった。あまりにも悲しい後ろ姿
ーーカランカランーー
店のドアベルが虚しい音を鳴らしている。今日は一段とその音が胸に響いてきた。
そんな出来事はつゆ知らず、数分後、また同じドアのベルが鳴った。今度はお客さんが入ってくる音だ。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」
僕が席を案内する前から、お客さんは窓際の席に向かって座った。
いつものように。接客をしようと、お水をもって客の席へ向かう。
「こんにちは。会えてうれしいわ。ケイくん。」
聞き覚えのある声、そしてなんとなく察してもいたこの状況。そこには見知った顔が座っていた。