銀座のホストクラブ 聖夜②
香と智子が銀座のホストクラブに、冴えないおじさん2人を連れて入るや否や、早速手荒い歓迎を受けた。
『いらっしゃ……、ちょっ、お客さん、ナンスカ?うち地下アイドルグループの二次会会場じゃないんすよね!』
チャラい男が先ず喧嘩を売ってきた。
『聖夜くんいる?』
香は気にせず話しかけた。
『おい!ブス!お前が聖夜さんに会えるわけねーだろ!』
そう言ってチャラ男Aは二人を摘まみ出そうとした。
空かさず香は智子のクレジットカードを差し出した。
『た、タワーを!聖夜くんに、何なのあれって云う、あのタワーを作りたいの!』
香は追い出されまいと必死だった。
『おいっ!かせっ!』
そう言ってチャラ男Aはカードを奪いレジで使ってみた。
『おっ!使える!使える!有り難うございました。』
チャラ男Aは早速もう会計を済ませ、聖夜の所へ走って行った。
『香!ちょっと!タワーっていくら位するものなの?』
智子が心配そうに聞いてきた。
『500万くらいじゃない?知らないけど。』
香は平然としていた。
暫くするとチャラ男がやって来て、聖夜のところに二人を案内した。
『どうも、聖夜です!タワー!僕のために有り難うございます!』
聖夜が上機嫌で挨拶してきた。
『うわ、悪そうな顔してるわね。虫酸が走るわ。』
香はいきなり喧嘩を売った。
この聖夜という男は、飯島陽子に、かなり酷い事をしていた。
聞くに耐えないエグいことを沢山していたのだ。
ビルから飛び降りざる負えない状況だったのは、至極当然としか言えないほどであった。
『ちょ、いきなりキツいなぁ、お客さん、名前何て言うの?』
聖夜が少しムッとしている。
『香です。』
香は回りを見渡しながら答えた。
『そのとっちゃんボウヤ2人は?香ちゃんのストーカー?』
聖夜は香にくっついてる二人の冴えないオヤジに興味を持った。
『ちょ、聖夜黙れ!』
香は完全にシカトしている。
周りのホストたちは一生懸命タワーを作っている。
『あ?何だ、お前?いい加減にしろや!』
聖夜がキレた。
『あの、このタワー作ってる人で、ここのホスト全員?』
香が質問した。
聖夜は鋭い目で睨んでいる。
『あの、聖夜くんにもう1つこの下らないタワーを作って!』
香がまた智子のクレジットカードを差し出した。
聖夜は訳がわからなかったが、あまりの気前の良さに、また態度が変わった。
『香ちゃん、どうしたの?お金持ってるね?』
聖夜は香のお金の出所に興味深々だった。
香はタワーを作っている人が足りていないのを確認して、ここの従業員の数を大体把握した。
『ねぇ、聖夜くん、香ね、ここで喧嘩の強い人三人用意して欲しいな。』
香が突然おねだりし出した。
急にまた香が変な事を言い出したので、聖夜は少し戸惑ったが、香を手懐ければ、かなりの金を搾り取れると思い、直ぐに接客モードに戻った。
『香ちゃん、喧嘩の強い子が好きなの?うちには結構慣らしてきたのがいるよ!呼ぶね!』
そう言って聖夜は喧嘩慣れした男を3人呼んできた。
『香ちゃんどう?この三人?昔は相当悪かったんだよ。』
聖夜が得意気に話している。
香は三人を見渡して、
『じゃあ、その3人、好きな包丁持ってきて、私に襲いかかってきて。』
そう言って香は変な構えを取った。
『私を刺したら一回1000万円、あ、げ、る。』
香が挑発した。
『え、香ちゃん?何やってるの?格闘マニアなの?』
聖夜がキョトンとしている。
周りもみんなキョトンとしている。
『か、香?その変な構えなに?』
智子も何のギャグなのか今一分かっていなかった。
『これはね、私が考えた戦闘モードの構えよ。この構えが私の急所総てを守る確率が一番高いの。』
香は、まだ変な構えをとっている。
『香、格闘した時ないでしょ!みんなちょっと引いてるよ。』
智子がうるさい。
『良いのよ、大体知ってるから。相手の重心を見極めて、体制を崩し、あとは急所を突けばいいのよ。』
香がそれらしいことを言っている。
『ほら!一回刺したら1000万よ!』
そう言うと、一人が本気で香を刺しに来た。
周りもどこまで本気でどこまで冗談か分からなかったが、香がお金を沢山持っていることと、1000万という金の力で、三人はもう狂い出していた。
『おらっぁぁ!』
一人が勢い良く香を刺しに来た。
香はそれをサッと避けると同時に、その男の胸を肘でトンと突いた。
香の黒く長い綺麗な髪がバサッと靡いた。
男はそのまま胸を押さえて倒れこんでしまった。
一瞬の出来事だった。
周りはシーンと静まり返っている。
『安心して、心臓が数十秒止まる程度だから。』
香が平然としている。
『このブス!舐めやがって!』
二人目が今度は香の顔を刺しに来た。
香はまたもさっと避けた。
『やだっ、顔面、男らしい!』
そう言って香は、2人目の肋をドスっと突いた。
男はウッと肋を押さえ前屈みになった。
男が肋を押さえ前屈みになると同時に下がった顎を、香はまた肘で一突きし、男は倒れこんだ。
香の黒く長い綺麗な髪が、またも美しく靡いていた。
『大丈夫、只の重めの脳震盪だから。』
香が淡々としている。
三人目は、香がただ者では無いことに気が付き、戦闘モードに入っている。
暫く沈黙が続いたが、三人目が距離を取って攻撃するために、蹴りを出した。
香は女であるため先ず受けはしない、一撃目の蹴りをサッと避けると、重心を支えている軸足の足を蹴り、重心を一瞬で崩し、男が崩れ落ちたところを、膝で顎を一撃した。
『大丈夫、重めの脳震盪だから。死にかける程度よ。』
香が聖夜の方をキッと見た。
すると、それが気にくわなかったのか、残りのホストが急に襲ってきた。
『調子乗んな!こら!』
四人目と五人目が床に落ちていた包丁を持って、香の背後を刺しに来たかと思うや否や、それまで黙ってみていた警視庁の風神と雷神が、四人目と五人目に襲いかかった。
一瞬の出来事だった。
『あはぁひきに、ひゅひらひてふぅ。』
見ると、四人目は顎が外れ口をあんぐりと開け、涎をだらだら垂らしながら何かを話している。
五人目は、両の手首がだらんと変な方に曲がっていた。
もともとチャラく生きてきた周りのホストたちは、あまりの恐怖にみんな静まり返っていた。
『じゃあ、聖夜くん、お仕置きに入るわね。』
そう言うと、風神と雷神は、自分のナイフを各々取り出し、風神は香の右後方で、雷神は香の左後方で、香と背を向け会うようにして、それぞれ殺しの構えをとり、周りのホストを威圧した。
香はいきなりポケットから細い紐を取り出し、聖夜の首をキツく絞め出した。
聖夜がバタバタして苦しみ出した。
『ちょ、か、香!何やってんの?』
智子はあまりのえげつなさにビックリしている。
『大丈夫よ、殺しゃしないわ!』
香は20台の女の子が絶対言わないであろう台詞No.1を口にした。
『脳に数分酸素を送らなくするだけよ。これでこいつの脳細胞が少し死ぬわ、そうすれば、人を利用する側から利用される側になるわ。散々女を利用してきたんだもの、償いを受けてもらうわ!』
そう言って香は聖夜の首を数分締め続けた。
その絵面はあまりにもエグいものがあった。
『か、香、ほどほどに~。』
智子は、ちょっと道徳的にどうなのコレ?と、かなり引きまくっていた。
それは周りのホストたちも同感だった。
聖夜は遂にぐたっとなった。
聖夜がぐたっとなって暫くして、香は今度は聖夜を蘇生し始めた。
聖夜は意識を取り戻し、他の三人も意識を取り戻した。
聖夜はポカンとしていた。
聖夜の顔つきがかわいくなっていた。
『聖夜くん、これからは陽子ちゃんのお世話になりなさい。』
そう言って香は智子の方を見た。
『じゃあみんな帰るわよ。』
それと同時に、今まで微動だにせず、右手にナイフを持って殺しの構えをとっていた風神と雷神が、すっと構えを解き、また冴えないオヤジに戻った。
4人はそそくさと店を後にした。




