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1日目 「真田 孝介」の場合

真田孝介さなだ こうすけ21歳、輪島町でコンビニアルバイトをしていた。


あの事件が起こるまではーーー




「・・・くーん、真田くーん、おーい、起きてる?」


バイトの先輩に呼ばれると真田は目を覚ました。


「・・・ああ、先輩どうしたんです?」


とまだ眠い目を擦りながら真田が問いかけると、


「どうしたもこうしたも・・・真田くん、シフト終わってからもずっとスタッフルームで寝てたからさ、流石

にそろそろ起きたほうがいいんじゃないかなーって思ったのよ。」


と先輩が呆れたような顔で答えた。


真田「そんな理由で起こしたんですか・・・どうせ家帰っても飯食って寝るだけなんで起こさないで欲しかったですよもう・・・ていうか、先輩店番いいんですか?スタッフルームで雑談してる間に商品盗まれても知りませんよ?」


先輩「だーいじょうぶ!ここには監視カメラがあるでしょ?ほら、このモニターで店内見れるし。」


真田「ああ・・・ずっとスタッフルームの端っこで埃かぶってましたけどまだ使えたんですね。」


と、そんな他愛もない雑談をしていると、突然2人のスマートフォンが鳴り出した。


真田「ん?何だ・・・?災害情報、ですね。」


先輩「そんな事画面見れば私にだって分かるわよ。ほら、この街の研究所で爆発事故ですって。検体の動物が何体か逃げ出したから戸締りを厳重に、か・・・今日はコンビニ閉めていいかな?」


真田「流石にコンビニはダメでしょ。よっぽどの事がない限り先輩の独断で締めるのはマズいですよ。」


先輩「それもそうかぁ〜・・・あ〜あ、帰りたいなぁ〜」


真田「ハハハっ、あと3時間頑張って下さいね〜!お先に失礼しまーす!」


そう言って真田は荷物をまとめて先輩の「ずるーい!手伝ってよー!」という声を後ろにコンビニから出た。


真田「ふぅ・・・帰るか。家になんか食べるものあったっけなー。」


そんな事を一人つぶやいて歩き出した真田だが、歩いている途中で後ろからドタバタと騒がしい音が聞こえ始めたことに気が付いた。


真田「ん?何だ?やけにさっきより騒がしいな・・・」


そう言って真田が振り向くと



そこは地獄と化していた。




「・・・は?」


真田が見たものは、少し遠くでボロボロになった人型の化け物が走る人達に追いすがり、噛み付き、ぐちゃぐちゃと音を立てて食い散らかしているところだった。


「え・・・?何だよこれ?俺の目がおかしいのか?何かの企画か?ドッキリか?ありえねえだろ・・・?」


と真田が固まっているところに、あの化け物を走って振り切ったのだろう、かなり息を切らした男性警官が声を掛けてきた。


警官「オイあんた!何立ち止まってんだ!走って向こうまで行かないと死ぬぞ!?」


真田「お、お巡りさん!これは一体なんなんですか!?この街に何が起こったんです!?」


警官「私にも詳しい事はわからない・・・さっきの災害情報に出た検体が暴れ回っているんだと思う。私が見た限り検体に襲われた人物もまた人を襲い出すみたいだ。だからどんどんあんな化け物が増えていって・・・クソッ!」


真田「そんな・・・そんな事ってあるんですか?だってそんなまるでゾンビみたいな・・・」


警官「ゾンビ・・そうか、奴らはゾンビだよ。馬鹿みたいだけどそうとしか考えられない。そうだろ?まぁ、このままでは奴らにすぐ追いつかれてしまう。早く君もこの先にある学校に避難するんだ。いいね?」


真田「あ、待って下さい!あの、あの化け物達の向こうにあるコンビニ、わかりますか?そのコンビニにまだバイトの先輩がいるんです!なんとかなりませんか?」


警官「・・・すまないが、私に助ける事は出来ない。こんな状況になったんだ、取捨選択が必要なんだよ。第一、奴らの波に飲まれたのなら多分もう、その先輩さんは・・・」


真田「いいえ、先輩とは最後にスタッフルームで会話したんです!あの後すぐに化け物が押し寄せてきたとしたら・・・きっと鍵付きのスタッフルームに閉じこもるはずです!どうか先輩を助けてください!」


警官「・・・わかった、そこまで言うなら手伝おう。しかし私は学校に少し用事があるんだ。だから一緒に行く事はできない。」


真田「そんな・・・じゃあ手伝うって!」


警官「まあ待て。代わりといっては何だが君に私の特殊警棒を渡そう。これで化け物と渡り合えるはずだし、実際さっきも何回かコイツのお世話になっている。使ってくれ。」


真田「特殊警棒・・・でもそしたらお巡りさんはどうするんです?」


警官「私にはまだ拳銃がある。第一まだ学校には奴らの手は及んでないはずだからね。君も先輩さんを助け出したらなるべく早く学校へ来るんだ。分かったね?」


真田「は、はい!ありがとうございます!」


真田がお辞儀をすると警官は敬礼をして学校の方へと走り出していった。


真田「よし・・・いっちょやるか。」


そう言って真田はゾンビ達が蠢く通りへと歩を進めていった。




真田「・・・ふぅ。もう少しだな。」


もう通りを大分進んだだろうか、真田は完全にゾンビ達の集団の中にいた。

何回もゾンビに襲われたが、特殊警棒のお陰でなんとか噛まれることだけは避けていた。

また、特殊警棒の扱いにもだいぶ慣れ、ゾンビをほぼ一撃で仕留められるようになっていた。


真田「よし、コンビニが見えた!」


ようやくゾンビ達の切れ目からコンビニが見えたので真田はそこへ走り出す。

途中ゾンビが掴みかかってきたが無理矢理振りほどいて走り続けた。


真田「はぁ…はぁ…だいぶ荒らされちゃったな。」


コンビニの外装は、ショーウインドーは全て割られ、商品棚は倒れ、地面にバラバラと商品が散らばっている、という悲惨なものだった。


真田「先輩・・・どうか無事でいてください。」


そういって真田がスタッフルームの扉の前まで行くと、ゾンビが数体スタッフルームのドアに群がっていた。


真田「化け物が群がってる・・・って事は先輩はまだこの中に・・・?」


真田がそう呟くと、それに反応したのか群がっていたゾンビの中から一体のゾンビが真田へと向かってくる。


真田「邪魔だっ!」


そう言って真田は向かってきたゾンビの首筋に思い切り警棒で一撃を加える。

グエッと声を上げたゾンビを横に蹴り倒し、続けてドアに群がっている二体の頭を続けざまに警棒でかち割る。


真田「先輩!僕です!真田です!助けにきました!開けてください!早く!」


真田がドアを叩きながら叫んでも先輩に届いていないのだろうか、ドアが開く気配はない。

そして叫び声に触発されたのか、外から何十体ものゾンビ達がゆっくりと迫ってきた。また、さっき倒したはずのゾンビもまだダメージが足りていなかったのだろうか、ゆっくりと起き上がり始めた。


真田「ああまずい・・・先輩!いるんでしょ!?早く開けてください!」


ドアが開く気配はない。

ゾンビ達もどんどん近付いてきた。

そしてとうとう真田に手がかかる、という瞬間に




ガチャリ




ドアが開いた。

そして中から先輩の手が出てきて真田は思い切りスタッフルームへ引っ張りこまれる。

続けてゾンビ達も入ってこようとしたが無理矢理ドアを閉め、また鍵をかけた。


真田「はぁ…はぁ…ふぅ。先輩、ドア開けるの遅いですよ!」


先輩「あはは・・・ごめんね。開けるのが怖くて・・・」


真田「ああ・・・まぁあんな化け物にずっとドアの前にいられたんじゃあしょうがないですよ。」


先輩「そっか・・・ありがと。ねぇ真田くん。アレは一体何なの?」


真田「アレは・・・いわばゾンビですかね。もう外は大パニックですよ。」


先輩「ゾンビ、かぁ。てことはさっきの災害情報で言ってた研究所から発生したのかな。一体何の研究してたんだかね。」


真田「さぁ・・・この騒動が収束したらきっと警察や政府が問い詰めてくれますよ。そうだ、先輩、このコンビニから脱出しましょう!少し遠いですけど向こうにある学校が避難所になっているんです!」


先輩「うん・・・行きたいのは山々なんだけどさ、多分私は無理だよ。」


真田「先輩?まだ諦めるには早いじゃないですか!避難所なら優先的に救助してもらえるかもしれませんが、ここなら誰にも気付かれないかもしれないんですよ!」


先輩「いや、精神的とか体力的なアレじゃなくてね・・・私、あの化け物に噛まれちゃったのよ。」


真田「・・・え?冗談でしょう?だってホラ、元気そうですし・・・」


先輩「あはは・・・私も冗談だって思いたいよ。でもホント。コンビニのレジからスタッフルームに入るまでの間に捕まって二の腕噛まれちった。」


先輩「元気そうって言ったけどそれは虚勢張ってるだけだよ。ホントはすごく辛い。少しでも気を抜いたら倒れちゃうかもね。あはは・・・」


真田「そんな・・・じゃあ先輩はどうするんですか?」


先輩「うーん、真田くんが来るまではスタッフルームに救助が来るまで立て篭もるつもりだったんだけどねー。真田くん来ちゃった上に私も噛まれた事でいつかはあの化け物になっちゃうって衝撃の事実知っちゃったし。そうだなぁー・・・じゃあ、真田くん出ていって!」


真田「はい?」


先輩「私噛まれてるじゃん?間違いなく足手まといになるし多分もう助からない。だから真田くんだけでさっき言ってた避難所へ行って。お願い。」


真田「そんな・・・僕は先輩も助けたいんです!」


先輩「もう助からないんだよ!!今だってずっと視界がグラグラしてる。傷ももう痛くないし体もだるくなってきた。もう、ダメだよ・・・」


真田「・・・」


先輩「そうだ、私どうして欲しいか決めた。」


真田「・・・何です?」


先輩「殺して。私のこと。」


真田「・・・」


先輩「お願い。あんな化け物になりたくないの・・・私は人間の心を持ったまま死にたい。それにほら、貴方だって私という後ろ髪なく避難所に行けるでしょ?」


真田「先輩・・・」


先輩「いいよ。もうどこも痛くないの。麻酔をかけられたみたいにフワフワしてる。多分もう時間がない。殺して。」


真田「・・・」


真田は無言で特殊警棒を持って立ち上がる。


先輩「真田くん・・・ありがとう。こんな時に言うのもアレだけどさ、私真田くんの事、好きだったよ。あはは・・・」


真田「先輩・・・僕も初めて会った時からそうでしたよ・・・」


先輩「そっか・・・もっと早く告っておけばよかったなぁ・・・まぁいいか。ありがとね。」


真田「・・・先輩・・・ありがとうございました・・・そして、さようなら・・・」


先輩「そんな泣かないでよ・・・うん、さようなら。」


真田は先輩の頭に思い切り警棒を振り下ろした。









この町でバイオハザードが起きてから何時間経ったのだろう。1日が終わろうとしていたが、真田は未だにスタッフルームにいた。


真田「先輩・・・」


ドアの向こうには真田の事を嗅ぎつけたゾンビ達が大量にいるのだろう、先ほどからずっとバンバンとドアが叩かれている。恐らく明日の朝まで保たないだろう。


真田「先輩・・・俺やっぱり先輩のこと置いていけませんでした・・・俺も多分、すぐにそっちへ行きますね・・・ははは・・・先輩、おやすみなさい・・・」


真田は先輩の事を思い出しながら恐らく今寝たら二度と覚めないであろう眠りについた。




それから約一時間後、スタッフルームの扉がゾンビによって破られた。


真田 孝介 生存日数 1日

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