デート②
カフェの扉を開くと、暖かみのある柔らかなオレンジの照明が、店内を優しく包み込んでいる。白一色で統一された、漆喰塗りの壁や天井が、無垢材の床と相俟って、清潔感のある落ち着いた印象を僕に与える。
二十席ほどあるテーブルの内の三分の二ほどは、すでに埋まっていて、僕と姉は、一番奥の壁沿いに並んだ席に案内された。
床と同じ無垢材のテーブルや、所々に配置された観葉植物など、目に入る全てのものが、居心地の良さを感じさせる。
しばらくすると、ミルクティーとシフォンケーキのセットが二セット運ばれて来た。ひとつは僕で、もうひとつは姉が注文したものだ。
これぞ至福のひと時と、甘党の僕は密かに喜びを噛み締める。男ひとりでは、カフェでケーキなど縁の無いはなしなのだが、こういう時こそ姉に感謝すべきなのだろう。
フォークで、シフォンケーキをひとくち分切り分け、ケーキの横に添えられた生クリームを少し乗せて、口に運ぶ。そして、温かいミルクティーをひとくち、
ーーなんて幸せなーー
「相変わらず、甘い物好きだね」
さすがに姉だけあって、僕のことをよく知っている。
しばらくすると、至福の時も終わりに近づいてきた。皿の上にはひとくち分のケーキ、大きめのマグカップには、ミルクティーが三分の一ほど残っている。
僕は、最後のケーキを口に運び、すぐさまミルクティーを少し含む。そして口の中のケーキがなくなると、残りのミルクティーを飲み干し、姉の支払いでカフェを後にした。
そして、しばらく姉のウィンドウショッピングにつき合ううちに、街のイルミネーションは色濃くなっていった。
「蒼太、お腹すいた?」
「うん」
姉の問いかけに頷くと、近くのファミレスに足を運んだ。
ーー食事を終えると、姉は満足したのか、自然と駅に向かって歩き出した。
「今日はつきあってくれてありがとネ」
「意外と楽しかったよ」
「また、つき合ってくれる?」
「……う、うん」
少しためらったけど、たまにはこういうのも悪くは無いと思い、頷いてみせた。
電車に乗ると、姉は言葉を発することなく、寂しげな表情で窓の外を見ている。今日、姉のこんな表情を見るのは何度目だろうか。
僕は、今まで姉は強い人間だと思っていた。しかし、それは表面だけだったのかもしれない。あるいは、失恋が姉をそうさせてしまったのか。
僕は、初めて見せる姉のそんな表情に、かける言葉さえみつからない。
「じゃあ、また電話するネ」
駅に着くと、姉はそう言って僕に優しく微笑みかけ、電車を降りていった。
ーー部屋に戻ってくると、とりあえずシャワーを浴びる。九時を過ぎているということもあり、いまさら風呂を沸かす気にもなれない。
シャワーを終え、髪を乾かしたところでテレビをつけ、ベッドに横たわる。