表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/35

ハルカの通信機

「そういえば、ハルカから着信があったとき、変わった番号が表示されてたけど、携帯じゃないよね。固定電話なの?」

「通信機。気がついたら、この通信機を持って、この場所に倒れてたの。だから、この通信機で誰かと連絡がとれないかと思って……」

「それで、僕の携帯にたまたま、つながったって訳か。僕以外に、誰かとつながらなかったの?」

「蒼太だけ。二回つながって、二回とも蒼太だったの」


 偶然……なのかな。っていうか、通信機って何だよ。携帯につながるのか? いや、実際つながってるし。ダメだ、僕の頭では理解できない。彼女はーーハルカはいったい何者なんだ。そもそも、何で僕なんだよ。


「……蒼太……迷惑だった?」

「いや、違うんだ。ただ、僕の頭の中でいろいろ処理しきれなくて……全然、迷惑なんかじゃないんだ」

「よかった。私には蒼太しかいないから、蒼太としか話せないから、蒼太と……つながってたいから……」


 ハルカには僕しかいない……そうか、僕しかいないんだ。僕が何とかハルカを……まてよ、この電話、切ったらどうなるんだ……


「ハルカ、この電話、切ったらどうなるの? また、僕の携帯につながるの?」

「わからない。どうやってつながったのか、わからないの。だから、また、つながるかどうか……」


 最初にハルカとつながったのは、一ヶ月以上も前だ。今、通信を切るとまた一ヶ月……いや、もしかしたらもう二度とつながらないかもしれない。


「僕の携帯から発信してもダメかな?」

「わからない。でも、もしつながらなかったら……」


 いつまでもこのままってわけにもいかない。一か八か……


「ハルカ……僕らを結びつけたのは、運命だと思うんだ。ハルカの持ってる通信機が、僕の携帯にしかつながらないっていうのも、偶然とは思えないし。だから、きっとまた、つながると思うんだ」

「蒼太……ありがとう。私も、運命を信じる」


 そして僕たちは、いったん通信を切り、携帯の着信履歴からすぐに、ハルカの通信機の番号にかけてみた。

……ダメだ。何度やってもつながらない。少し待ってみたが、ハルカの方からもかかってこない。


 次の日も、その次の日も、僕は、待ち続けたーーしかし、ハルカからの連絡はいっこうにこない。


ーーあれからちょうど一週間ーーハルカからの連絡がないまま、今日も朝を迎える。

 深夜のバイトを終え、家に帰ってシャワーを浴び、トーストとカフェ・オ・レで軽めの朝食をとる。


ーー今日は、バイト休みだし、ゆっくり寝るとしよう。

 そんなことを考えながら、僕は、カフェ・オ・レをひとくち、口に含んだ。すると突然、静寂を切り裂いて、携帯の着信音が部屋中に鳴り響く。


「あっ、蒼太」


 電話の向こうの声は、ハルカではない。


「姉ちゃん……何なの?」


 二つ年上の姉だ。


「何なのってことは、ないでしょ。あんた今日、バイト休みだよね。チョット、買い物つき合ってくれない?」

「今から寝ようと思ってたんだけど……」

「昼からだったら?」

「しょうがないなぁーーじゃあ、一時くらいにそっちに行くよ」

「サンキュ! じゃあ、待ってるね」


 電話を切ると、さっさと食事を済ませ、ベッドに潜り込んだ。



ーー携帯が鳴ってるーーはっ、ハルカ!


 慌てて携帯をつかんだ僕は、それが、十二時にセットしたアラームの音だと気づいた。

 寝ぼけていたのか、あるいは、ハルカの夢を見ていたのかもしれない。

 三時間ほどしか眠っていないが、それほど気怠さは感じない。



 姉の住むアパートは、電車で二駅ーー街までの途中の駅ということになる。

 僕は、車やバイクなどの運転免許証は持っておらず、移動手段といえば、電車か自転車になる。


 駅から歩くこと十分、二階建ての真新しいアパートに到着した。二階の角部屋、そこが姉の部屋だ。


 インターホンを押すと、間も無く少しだけ玄関のドアが開いた。内側からかけられたチェーンが、ピンと張っている。僕の姿を確認すると、姉は、待っていましたと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべる。そして、僕を部屋の中に招き入れ、そそくさとメーク道具を片づけたかとおもうと、あろうことか、弟の前で着替えはじめたではないか。


「ゴメンね、チョット寝ちゃってて。すぐ着替えるから」

「いいよ、別に」


 とりあえず僕は、目を逸らして素っ気なく応えてみた。姉とはいえ、女性が目の前で着替えるというのは、いささか抵抗がある。そういう所が、彼女ができない原因なのかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ