表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/35

ハルカ

 当たり前のことが、当たり前のように過ぎていく。僕の思っている日常とは、そんなものだ。



 季節は、秋から冬へと移り変わっていく。



 僕の生活はというと、特に変わったこともなく、ただ規則正しく時が流れていくばかりだ。



 休日の夕方、カップルたちで賑わう街を、僕はひとり目的もなく、ただ、ぶらぶらと徘徊している。


 日が暮れるにつれ、明るさを増していくクリスマスのイルミネーション。

 そう、十一月にもなると、だんだんクリスマスの装飾が、街を彩りはじめる。

 しかしそれは、僕にとって虚しさを倍増させるだけだ。寂しさを紛らわせるために街にでてきたというのにーー


 街の灯りは、夜空の星さえ隠してしまう。ただ、まっすぐに続く、街路樹のイルミネーションが星屑のようで、僕の心を少しは癒してくれる。

 街路樹に沿って、歩道をまっすぐ歩いて行くと、駅が見えてくる。駅に近づくにつれ、さらに、賑わいが増してくる。



 帰宅の途中、立ち寄った近所のコンビニで夕食の弁当を買い、ひとり寂しくテレビを見ながら食べていると、マナーモードに設定していた携帯が、机の上で震えだした。

 ディスプレイを見ると、知らない番号が……いや、前にいちど……そうだ、あの時の! 慌てて通話ボタンを押すと、


「あっ……つながった……」


 聞こえてきたのは、確かにあの時のあの声だ……今にも消えてしまいそうな、透き通ったあの声。


「君はいつも、知らない誰かにかけてるの?」

「えっ? だれ? 私を知ってるの?」


 驚いた彼女の声を聞くと、何だか楽しくなってきた。


「二度目だよ、この携帯につながったの。覚えてない?」

「も、もしかして、あの時の……覚えてる。あの時は、ほんの少ししか話せなかったけど、覚えてるよ」


 また、記憶を失くしたかと思ったけど、覚えててくれたみたいだ。


「名前、思いだした?」

「ううん、何も思いだせない。でも、前にあなたと話したことは、ちゃんと覚えてる。とても嬉しかったから」


 さて、どうしたものか。聞きたいことは山ほどあるけど、おそらく、何ひとつ答えは返ってこないだろう。


「名前……教えて」


 突然の彼女からの問いかけに、少し驚いてしまった。


「かっ、葛城蒼太、僕の名前だよ」

「ソウタ、素敵な名前ね。私にもあったのかな……素敵な名前」


 何て答えればいいのか、言葉に詰まってしまう。


「そうだ、私に素敵な名前、つけてくれない?」

「僕が? 君の名前を?」


 困ったぞ、予想外だ。急に名前をつけてくれと言われてもなぁ……


「名前かぁ、うーん……」


 ダメだ。思いつかない。


「ゴメンなさいーー急に名前つけてって言われても、困るよね」


「……ハルカ」


 突然、僕の頭の中にその名前は飛び込んできた。


「どこにいるのかわからない、手の届かないどこか遠くーーはるか遠くにいるような、そんな気がしたから。だから、ハルカ」

「ハルカ……それが私の、名前……ありがとう、とても素敵な名前」


 よかった、気に入ってくれたみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ