犬と散策
忙しくて更新してる暇がないです。
「うまっ」
鳳梨は、犬……もとい蜜柑が先程仕留めた鳥━━コカトリス━━を、蜜柑に調理してもらいそれを食していた。
蜜柑の持っていた調味料や香辛料を使い味付けをして、ただローストしただけなのだが、大変美味な様だ。
「これでも料理上手なことで有名なんですよ」
鳳梨の反応を見た蜜柑は得意気に笑う。
「そうだったんですか……すごいですね」
(人は見た目に寄らないんだな)
相槌を打ちながらも咀嚼を止めない。まともな料理を食べるのが二日ぶりだったため、より美味しく感じているのだろう。まさに止められない止まらないである。
鳳梨は快調に食べ進め、数分後、コカトリスのローストは骨だけになっていた。
「桃太郎様って、大食漢なんですね」
今後の食料、大丈夫かな……。と蜜柑は心配そうな顔をする。
「いや、たまたまですよ」
確かに、人よりは少々食べる方だが、大食漢ではない。今回は空腹だったからだ。等のことを伝えると、蜜柑は納得した様に頷いた。
「では、予定通りの量で足りそうですね。今ので調味料も無くなりましたし、買い物に行きましょう」
腹ごしらえを終え、街に戻ってきた二人。先程は街並みを眺める余裕のなかった鳳梨は改めて町を見渡す。
レンガ造りの建物が立ち並び、思いの外文化的である。狼とつく位だから、知能も低いのだろうと勝手な想像をしていた。しかし、それをいい意味で裏切られ感心する。
「桃太郎様、こちらですよ?」
「えっ、あぁ、すみません」
感心するあまり、あらぬ方向に向かっていた様だ。蜜柑が慌てた様子で鳳梨の手を取る。
「ちゃんと着いてきてくださいね」
蜜柑はそのまま、目的地に向かい出す。子供にする様な対応に鳳梨は赤面した。
中心部に近付くにつれ、人通りが増える。羞恥に耐えかねた鳳梨は、口を開いた。
「ちゃんとついていくので、手を離していただけませんか?」
手汗もかき始め、そろそろ限界の様だ。しかし、蜜柑は「だめです」とそれを一蹴する。
「人狼は肉食です。一人で歩いているのを見付かったら、桃太郎様なんて頭からばりばり食べられてしまいますよ」
「何があっても手を離さないでください」
鳳梨は蜜柑の手を強く握り締める。つい数分前までは羞恥に赤く染まっていた顔は今や真っ青になっていた。
(つか、救世主食うなよ)
救世主の顔も知らないってどういうこと……と心の中でツッコミ、蜜柑を少し急かした。
◇◇◇
しばらく歩くと街の中心部━━商店街についた。沢山の店が出店し、多くの人狼で賑わっている。そのなかを意気揚々と歩く蜜柑。その隣には蜜柑の腕にしがみつき、口を手で押さえながら歩く鳳梨。
鳳梨はこの商店街に漂う血の香りにやられた様だ。それもそのはず。営業している店の殆どが肉屋。八百屋も日用品を売る様な雑貨店もない。
そして、肉屋に陳列された肉は血抜きが施されていないのか大量の血を流し、店頭を濡らしている。嗚咽する程の生臭さが、鳳梨の顔をより蒼白にする。
「慣れないとキツいですよね。すみません」
蜜柑はそんな鳳梨を気遣い、少しでも早く買い物を済ませようと歩を速める。
「少しの間だけ我慢してください」
申し訳無さそうな顔をする。が、先程食べたコカトリスが口からこんにちわしない様に耐えるので精一杯な鳳梨には見えていない。吐き気により、視界が極端に狭くなっているのだ。
幸か不幸か。そのお陰で彼には見えていない。肉屋に並べられた商品の中の、人のものとおぼしきそれが。
「ぷはぁ」
程なくして、肉屋の密集地を抜けた。まだ血の臭いはするもののかなり薄まり、気にする程のものではなくなっている。
「つきましたよ桃太郎様。ここが目的地です」
雑貨店や呉服屋の並ぶ地区の一角にある、生肉以外のものの食料品店。そこを蜜柑が指差す。
「ここは桃太郎様の様な旅人向けの店なので、血の滴る様な肉は置いてないですよ」
「それならよかったです……」
とはいえ、食われるという言葉にも怯え、不安げな面持ちの鳳梨。それを元気付けながら共に入店する。
中には保存食や、スパイス等の調味料が売られていた。
「おぉ……スーパーみたいだ」
少し懐かしさを感じる光景に思わず安堵する。
「何か欲しいものがあったらいってくださいね」
蜜柑は握ったままの鳳梨の手を引き、店の奥へと誘導する。鳳梨は親子で買い物をする時みたいだな、と苦笑し蜜柑の後に続いた。
子供の頃を思い出し、家族の顔を思い浮かべる。
そこでふと、鳳梨は思った。
家族に会いに行きたいな、とか、懐かしいなという想いはある。しかし何故か急がないのだ。お盆になったら帰省しよう、とか、年末年始になったら、とか、その程度の認識でしかないのだ。
普通見ず知らずの土地に、突然放り出されたら人は何を想うだろうか。多くの人は、早く帰りたいと思うだろう。
しかし、今の鳳梨は帰れたら帰ろう、くらいにしか思っていない。モンスターや人外がうようよいる危険な場所であるにも関わらず。
━━何故僕は、何がなんでも帰りたいと望まないのだ━━
ここは異世界。人成らざる者の住まう場所。
異世界だよ!!!ここ、異世界だよ!!!!
次回は年明けかな!!!!ごめんなさい!!!!