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目標その1:仲間のいる街まで行きましょう 参

鳳梨が目覚めると、ズボンとパンツは乾いていた。ただ、独特の匂いを放っており、不快である。鳳梨は着替えたい、と率直に思った。着替えなど持っていないので、叶わぬ願いだが。

この状態に陥った元凶は、未だ鳳梨の側で眠っていた。


(逃げなきゃ)


日の出前ではあるが、歩くのには充分な程に明るくなっている。今なら逃げられる、と思った鳳梨は立ち上がり、駆け出した。


が、突然足が何かに引っ掛かり転んでしまった。


「あぶっ!?」


綺麗に前のめりに倒れ、顔面を強打する。足を見て引っ掛かったものを確認すると、何やら白い物が後方から伸びてきて足を絡め取っている様だった。この白いものを伸ばしているのは、言わずもがな、例の蜘蛛である。


(今度こそ食われる!?)


一度脱したと思われた状況に再び陥り、頭が真っ白になる。そんな鳳梨に蜘蛛はゆっくりと近付く。そして、何故か鳳梨の下に履いているものを両方剥ぎ取った。


「!?!?」


あれですか、食事の邪魔とかそういうことですか? と、蜘蛛の行為は鳳梨の混乱に拍車をかける。一応片手はお見せできないものを隠している様だ。

一方、蜘蛛は剥ぎ取ったものをしげしげと見つめ、森に捨てた。


「あぁあああ何してるんですかぁああ!?」


一張羅を失い、思わず叫ぶ。それを聞き、蜘蛛がぴくりと身を振るわせた。纏っていた温厚そうな雰囲気が一転し、何やら冷たいものに変わる。


(これはやってしまった)


慌てて口を塞ぐが、もう遅い。蜘蛛の放つ冷たく重い空気に恐怖を覚え体を震わせる。

だが、鳳梨を襲う等の行動をとるわけでもなくその場でじっとしている。


(何がしたいんだ……?)


不審に思い、逃げずに観察する。鳳梨の足には已然として白いものが付着してるため、逃げようもないのだが。

しばらくすると、蜘蛛は足を空中でかさかさと動かし始めた。足には何やら白いものが付着している。どこから出ているかは不明。しかし、鳳梨には蜘蛛の扱う白いものとして、蜘蛛の巣しか思い付かない。今鳳梨の足についているのも蜘蛛の巣だろうと予想していた。


数分経つと、蜘蛛の手には真っ白のズボンとパンツの様なものが乗っていた。色こそ違えど、先程蜘蛛が捨てたあれらと同じ形をしており、鳳梨は思わず感嘆する。

蜘蛛はそれを、鳳梨の方に差し出した。


「……?」


もしかして……と、その新しい服に手を伸ばす。触り心地は悪くない。蜘蛛の巣といえばくっつく様なイメージしかないが、そんなことはなく、普通に布だった。


(着ろってことだよな……)


意を決して、それらを穿く。履き心地は、さっき捨てられたものよりいいかもしれない。


「えっと、ありがとうございます」


鳳梨はお礼を口にする。蜘蛛は満足げな雰囲気を醸し出し、鳳梨に更に近づいた。それに気付いた鳳梨はびくっと体を震わせる。

蜘蛛は、鳳梨の背後に回り込むと、鉤爪のついた足で器用に鳳梨を持ち上げそのまま背にのせた。


「ななな、っ、何!?」


動揺する鳳梨を余所に、蜘蛛は歩き出す。進行方向は鳳梨の向かっていた方。どうやら、鳳梨を目的地まで送るつもりの様だ。しかし、鳳梨はそれに気付かず、誘拐されるのではと身を固くする。それでも、背に乗せられている以上逃げることはできないので、大人しく身を委ねた。


◇◇◇


しばらく歩いたが、蜘蛛は一向に森に入ろうとしない。それどころか、その後ちょいちょい出てきたモンスターを倒しながら先に進む。

その様子に流石の鳳梨も、蜘蛛の意図に気付いた様だ。思わぬ味方を得て、鳳梨の旅はかなり快適になった。


「なんでそんな、木いちご程度でここまでしてくれるんですか?」


返事がないのは分かっているが、聞かずにはいられない。

案の定、蜘蛛からの返事はなかった。だよな……と呟きながら空を見る。日はまだ高い。


(このペースなら、今日中に着けそうだな)


蜘蛛は、昨日の鳳梨の何倍もの速度で移動している。昨日の時点でどこら辺まで進んでいたのかは定かではないが、村人の一日で着くという言葉を信じるならばもうすぐ着くはずだ。


◇◇◇


「町だ!」


お昼過ぎ、蜘蛛と共に木いちごを食べながら更に進むと町が見えてきた。あの村を出てから約一日半ではあるが、人工的な建築物がやけに懐かしく感じられる。


「蜘蛛! ありがとうございます!」


町の入り口に来ると、蜘蛛は鳳梨を下ろし、早く行けと促した。


(やっぱり、町の近くにモンスターがいると倒されちゃうのかな)


本当はもっと別れを惜しみたい……もっと言うならこれからの旅に同行してほしい。が、背中を鉤爪で押すという危険極まりない急かし方だったため、鳳梨は町中へと足を進めることにする。


「本当に助かりました、どうぞお達者で……」


蜘蛛と目を合わせ、そう伝えるとそのまま背を向け町の入り口である門に向かう。

いざ……と、門に足を踏み入れる直前。


「あぁ、あんたこそ達者でな。我が主よ」


また会おう。と耳元で囁かれる。声色からして男性だろう。肩には手が乗せられている感覚。背中には微かに人の様なものの体温を感じた。

鳳梨は慌てて後ろを振り向くが、誰もいない。先程までいた蜘蛛も消えていた。


「今の誰……」


そう呟くと同時に、再び背後に人の気配を感じる。


(今度は何!?)


再び門の方を向くと、銀色の髪に、━━なんとも珍妙ではあるが━━犬だか狼だかの耳と尻尾を持つ青年が立っていた。


「お待ちしておりました桃太郎様!」


パタパタと尾を振り、無邪気な笑顔を浮かべる彼。鳳梨はやっと、人語でコミュニケーションを取れる仲間を得たようだ。


◇◇◇


「ふふふ、死んでくれるなよ……」


そして、町に程近い木の上から鳳梨と犬の様子を伺う者は、敵か味方か。

とっとと町に着くためにモンスターとの戦闘をカットするという暴挙に出ました。

異世界感がないって!?わいもそう思う。


戦闘はいつか番外編で描きたい。

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