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目標その1:仲間のいる街まで行きましょう 弐

日が沈み、月が出てきた。元の世界で言うところの月の様なものが、この世界には三つある。ちなみに、時間の流れも元の世界と大差ない。

そして、時計のない鳳梨には確かめようもないが、歩き始めてから約10時間が経過していた。


「疲れた…………」


道端に腰を下ろし、木いちごを一粒食む。頭上には満天の星空。辺りに光源がないため、星がよく見える。しかし、足元は月明かりに照らされるだけなのでよく見えない。


(今日はここで野宿かな……)


夜になり、いつモンスターと遭遇するか分からない。鳳梨は、この状態で先に進むのは危険だと判断した。しかし、拭い切れない恐怖が彼の神経を尖らせる。このままでは、休むこともままならない。


(火を起こそう!)


温もりと光を得ることによって、少しでも心を落ち着けようと手頃な木材を探す。しかしながら、火起こしについてはうろ覚え程度の知識しかない。丁度良い素材がどんなものか等見当もつかない。

なんとかなるだろ! とポジティブに考えキョロキョロと辺りを見回す。道に木など落ちているはずもない。少々の……いや、多大な恐怖心が邪魔をして振り向けずにいた森にも仕方なしに目を向ける。手頃な位置には枝はない様である。分け入れば枝もあるだろうが、そんなことはしたくないとその選択肢を思い付くと同時に脚下した。


(火は諦めるしかないか)


ため息つきながら、体と顔を元の位置に戻す。と、同時に何かの黒い物体が視界に入る。それが何なのかを確認するため、鳳梨は少し落としていた視界を上げる。

そして、見なければよかったと鳳梨は酷く後悔した。そう、そこには━━━━━


巨大な蜘蛛がいた。


「ぎゃあああああああ!」


絞り出した様な声が辺りに響く。

蜘蛛の大きさは、座った鳳梨とほぼ同じか一回り小さいくらい。もしかしたら、モンスターとしては小さい方なのかもしれないが、蜘蛛としては十二分にでかい。八本の太い足があり、その先には月明かりに照らされ、鋭く光る鉤爪。顔には青紫の光を放つ大きな目。鳳梨をその鉤爪で引き裂くことが容易にできる距離にまで接近している。もはや、スライムと対峙した時の様に、回避行動をとることもできない。


(あ、これ死んだ……)


頭を懸命に回すが、パニックになった鳳梨は打開策も、何も思い付かない。頭が真っ白になるとはこのことであろう。ズボンや下着を温かい液体が濡らしていくのも感じる。走馬灯すら見えた。

ただでさえ恐怖に戦く鳳梨に追い打ちをかけるように、その命を刈り取る様に、蜘蛛は足を……鉤爪を持ち上げる。


「ごめんなさい、凡人なんです」


期待を込めて鳳梨を送り出した村人たちへの謝罪を、人生最後の言葉として口に出す。そして、自分を死へと誘う鋭い痛みに備え、唇を噛み締め目をぎゅっと瞑る。


蜘蛛は、すっと鉤爪を鳳梨に向けて降り下ろした。これにて、鳳梨の人生は幕を下ろす。





なんてことはなった。

いつまでもやって来ない衝撃を不審に思い、目を開ける。そこには先程と変わらない大きな蜘蛛。一つ、違う点を上げるならば、足の1本が鳳梨の腹に乗っている。


「……え?」


鳳梨は蜘蛛の意図が掴めず、再び混乱する。


(一回落ち着こう)


とりあえず死ぬことはないだろうと信じて、深呼吸をする。そして蜘蛛を観察していく。

そうすると、蜘蛛の足がピンポイントできびだんごの袋が入ったポケットに乗っていることと、どこか物欲しそうな雰囲気を醸し出してることに気付いた。


(モンスターであろうこの蜘蛛がきびだんごを欲しがるはずないよな)


蜘蛛の指差す位置にあるのは、きびだんごと木いちご。もっと下を指しているなら鳳梨の内蔵ということもあり得る。しかし、いつまで経ってもその蜘蛛としては大きな口の中にある、牙を鳳梨に突き立てたり鉤爪に力を込め腹を引き裂こうとしないので、それはないだろうと踏んだ。

ならば、なんだ。何を求めてるんだ。


「……袋を取り出したいので、足を退けていただけませんか?」


声を震わせながら蜘蛛に提案する。やはり機嫌を損ねて、殺されないかという不安がまだ残っている様だ。

蜘蛛は素直に言うことを聞き、足を退かす。鳳梨は震える手で袋を取り出した。そして、その袋から木いちごをいくつか手の平に出して蜘蛛に見せる。


蜘蛛は本来、肉食で他の虫を捕食して生きている。故に、鳳梨は自分が食べられてしまうのでは? と怯えていた。そんな蜘蛛が木いちごを食べるのだろうか。


(きびだんごでも、僕でもないならこれしかないけど……)


不安気な面持ちで蜘蛛を見つめる鳳梨。蜘蛛は、顔をその手にゆっくりと近づける。そして、口を開き木いちごを口にくわえ、もぐもぐと咀嚼する。


(よかった……正解だ……)


出ている分を食べきると、蜘蛛は頭を鳳梨の手に擦りつけた。


「あ、えっと、おかわり?」


よく分からないのでまた木いちごを手に出す。蜘蛛は再びそれらを食べる。どこか幸せそうである。


何度かその行為を繰り返すと、蜘蛛は満足した様で、鳳梨の隣にドサッと体を置いてそのまま眠った。

鳳梨も一応危機は去ったのだと認識し、半ば気絶する様に眠りについた。


ズボンとパンツについては明日考えよう。

でっかい蜘蛛で異世界感出るかなとか思っていた書き始めの頃の自分をぶん殴りたい。

次回!次回こそは異世界感を……!

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