出発の朝、パイナップルは恋をする
描写の練習用に書いた茶番回。
ここからは神視点で書いていく予定です。ちなみに「鳳梨」はパイナップルの漢名です。
足元には大きな血溜まり。そこに映り込んでいるのは、一本角の鬼。酷く歪んだ笑みを浮かべている。片手には大きな刀が握られており、それは血で濡れていた。鬼自身の髪や、身に付けている衣服も同様である。鬼の周り転がるのは、最早何だったかも判別できぬ程に切り刻まれた肉塊。
その光景はまさに阿鼻叫喚。その中に佇む一人の女。鬼は、彼女の元にゆっくりと歩を進める。
◇◇◇
「……夢じゃなかった……」
いや、あの鬼のやつは夢だったけれども。
鳥の囀ずる音で目を覚ました鳳梨は、昨日の出来事は全て夢であってくれ、と願い目を開けた。しかし目飛び込んで来た景色は、そんな幻想を打ち砕く。
見慣れない天井、壁、床。それは昨夜、寝る前に見たものと同一で、今のこの状況が夢ではないことを証明する。仮に夢であっても、まだ終わっていない。その事実全てが彼を絶望させた。ただ、あの悪夢だけは正しく夢であったことに安堵する。
昨日、宴会の後案内されたのは村長の家であった。大層立派な邸で、その一室で鳳梨は村長から説明を受けた。この村から鬼達の拠点である鬼ヶ島までの道のりや、桃太郎には欠かせない三匹のお供…犬、猿、雉の居場所等々。
その三匹は至極強いと言われており、その気になれば鬼の一人や二人など目ではないらしい。しかしながら鬼達のボス、「茨木童子」は桃太郎でないと倒せないのだそうだ。桃太郎のみが扱える特別な装備があり、それでしか茨木童子にダメージが通らない。故に桃太郎の到来を、ここの村人達は待ちわびていたのだ。
たが、そんなこと鳳梨には知ったことではない。
(行きたくない行きたくない行きたくない)
行ったって、成す術なく殺されるに決まってる。だって僕は凡人だもの。
先日までただのモブだった鳳梨には荷が重すぎた。何より、昨夜見た悪夢が彼の恐怖を駆り立てる。ただの夢だったが、彼の心を折るには充分だった。彼の中のイメージで作り上げられた架空のものだとしても。
今日の午後、彼のもとに「桃太郎」と呼ばれる装備が届くという。それが届き次第鳳梨は鬼ヶ島に向けて発たなければいけない。それまでになんとか逃げ出せないものか、と鳳梨は思案する。
あぁでもない、こうでもない、と様々な策を考えていると、襖の外から声をかけられた。
「桃太郎様おはようございます、朝食の用意が整いました」
若い女性の澄んだ声が耳に届く。
(まぁ……ご飯食べたら考えよう……お腹空いたし)
思考を一度止め、寝床から這い出る。昨日の料理も美味しかったし、きっと朝食も素晴らしく美味しいのだろう、と期待しながら襖を開けた。
そこにいたのは、昨夜お酌をしてくれた彼女達なんて霞む程の美女。朝食と逃げることで一杯だった鳳梨思考は、瞬時にその美女一色に染まる。恐怖と絶望で冷えきった体は途端に体温を上げ、心臓が激しく脈打った。そして不思議と、初めて会った気がしない。
(なにこの子やばい嫁に欲しい)
もしかしてこれが一目惚れか……!? などと考える鳳梨を他所に、彼女は口を開く。
「茶の間にご用意させていただきました」
ご案内いたします、と言うと立ち上がり静かに歩き出す。
「……あ、はい!」
名も知らぬ相手に心を奪われ、ふわふわとした感覚のまま、鳳梨は彼女の後についていく。
(……報酬に、嫁用意してもらえるのかな……)
◇◇◇
茶の間からは、味噌の様なもののよい香りが漂ってくる。ぐるぐると鳴る腹を押さえつつ、部屋に入ると囲炉裏の前にお膳が一客、用意されていた。白米、味噌汁、焼き鮭、ゴボウのきんぴら、漬け物が綺麗に盛られ鳳梨の食欲を掻き立てた。
「ささ、どうぞ召し上がってください」
美女に促され、いただきます、といつもしている様に手を合わせ箸を手に取った。
「……はー、おいしい」
鮭と漬け物は程よい塩気でご飯が進む。味噌汁ときんぴらは、大学進学と共に出てきた実家を思い出し思わず目頭が熱くなる。
「今年のお盆はちゃんと帰省しよ……」
鳳梨はぽつりと呟き、味噌汁を啜る。するとそこに村長が現れた。
「桃太郎殿、予定より早く『桃太郎』が届きました。つきましては、その朝食を食べ終り次第出発していただきたいのですが…」
(あ、もう逃げられねぇや)
分かりました、と返事をして味のしなくなった漬け物を噛み締める。鳳梨は少しでも長くこの平和が続く様にと咀嚼の速度を落とした。
次からゴリゴリ進めたい(願望)。
よく分からない点がありましたら、書き直しますのでご意見をいただけると嬉しいです。