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目標その2:仲間を増やしましょう 壱

「はぁ……はぁ……」


全速力で走り抜け、鳳梨は街を出た。そして、門の近くに腰を下ろした。


できればもっと遠くまで逃げたいが、街から離れればモンスターに襲われる可能性もある。それに蜜柑に見つけて貰えないかもしれない。


(……隠れるしかないな)


息を整えながら、隠れることができそうな場所を探す。あまり複雑なところに隠れれば蜜柑にも気付いて貰えないだろう。適度に身を隠せて、蜜柑は気付いけそうな場所を求めて蜜柑は腰を上げた。


◇◇◇


「はー……っ、はー……っ」


口から血を滴らせながら、粗い呼吸を繰り返す。


(何なんだこいつは…!?)


突如表れた増援に、成す術もない。


「ふふ……、まだ死なれちゃ困るんだよ」


◇◇◇


良さそうな隠れ場所を見つけ、そこに身を隠して暫く経った。呼吸も整い、頭が冷えて冷静さを取り戻した。


(……これは見捨てたに入るんだろうか)


自分のことを守ってくれた蜜柑を置いて逃げ出したことに罪悪感を覚え始める。


(あいつらの目的は僕だった。蜜柑も僕を守るために戦ってた訳だし、あのとき逃げなければ蜜柑の行動は無意味になっちゃってたし……)


しょうがない。あれで正解。しょうがない。と、繰り返し心の中で呟く。


ふと、足元に小さい蜘蛛がいることに気付く。少し、助けてくれたあの蜘蛛に似ている気がする。


「あの蜘蛛みたいに強ければな……」


ぼつりと呟き、その蜘蛛を眺める。

迫り来るモンスターをあの鉤爪で引き裂き、牙で噛み千切る。まさに一騎当千。あまりの惨劇に、二回目以降は目を閉じ耳を塞いでいたが。


「……強ければ……」


再び呟く。そして、何かに気付いた様に目を見開いた。


(……強ければ……? いや、違う。強くならなければいけないんだ)

(僕のやるべき事は、鬼を倒すこと)


(所詮凡人の僕にできることは、努力だけじゃないか!)


仲間に頼るばかりではいけない。弱いからと逃げてはいけない。問題を解決したければ、自分が変わるしかない。鳳梨は、それに気付いたのだ。


「蜜柑さん……今行きます……!」


震える手で刀を握り締め、鳳梨は来た道を早足で戻っていった。



先程襲われた場所に戻ると、そこには誰かが倒れているだけだった。辺りには血が飛び散り、所々壁や地面が抉れている。余程激しい戦闘だったのだろう。

鳳梨は倒れている人物に近づく。


「蜜柑さん!」


ピクリとも動かない蜜柑に動揺する。

慌てて胸に耳を当てる。すると、ドクドクと鼓動が聞こえた。死んではいない。と、安堵する。

次に呼吸を確認した。浅くはあるが息もある。

どうやら気絶しているだけの様だ。


(人を呼んで、病院に連れていかなくちゃ)


助けを求めようと、辺りを見渡すが誰もいない。わざわざ戦闘している場所に近付く物好きなんていないようだ。


この蜜柑から離れるのはいささか不安だが、このままにする訳にもいかない。大通りの方に人を呼びに行こうと立ち上がる。そして、一歩踏み出すと、ズボンの裾を引かれる。


「桃太郎様……」


意識を取り戻した蜜柑によってだった。


「ああああ良かったです蜜柑さぁぁん」


ぶわっ、と涙を流し蜜柑に抱き付く。


「桃太郎様も、ご無事な様で……!」


弱々しくはあるが、蜜柑も抱き締め返した。

互いの無事を確認し、ここでようやく、鳳梨の震えが止まった。



蜜柑を病院に連れて行こうと思っていたが、既に治療されていた。誰がやったのかは不明だがこれ幸いと、そのまま二人は街を出て森の中を進んでいた。

このまま滞在すればまた襲われる可能性があるからだ。


「次の目的地は、巨人の住む渓谷です」

「渓谷ですか……」


道のりの険しさを想像し、鳳梨は溜め息をついた。


「まぁ、僕の怪我のこともあるのでゆっくり行きましょう」

「はい」


蜜柑はかなり広範囲に怪我を負っている様だ。ただ、本人曰く切り傷や痣が多いだけで動けない程のものはないという。

それでも異様に重い荷物を二つも持たせるには少々気が引ける。


「……あの……」


そして、鳳梨は体を鍛えたい。ならば提案することは一つだ。



森を少し進んだ所で、休憩ついでに荷物の整理を行う。戦闘の際にかなり振り回したため、中身がぐちゃぐちゃになっていたことと、鳳梨が自分も荷物を持ちたいと提案したからだ。


「ぅ……」


鞄に半分程の荷物を入れ、それを鳳梨が背負う。確かに重いが、背負えない程ではない。


「大丈夫ですか?」

「はい、なんとか」


試しに近くを歩いてみる。足取りは少し遅くなったが、歩くこともできた。


(これで多少は足腰を鍛えられるといいな)


一方、蜜柑は軽くなった鞄を持ち上げる。実は、大丈夫とは言いつつも、力を入れると肩や腕に痛みが走っていた。だが荷物が軽くなったため、それも軽減された。


「蜜柑さん、日が完全に落ちる前にもう少し進みませんか?」


蜜柑が荷物を置いた所で、鳳梨が話しかける。太陽は傾きかけており、光は少しオレンジ色を帯びている。


「暗くなると視界が悪くなっていろいろと危険です。なので、今日はここで野宿しましょう」


そう言うと、蜜柑は枯れ葉や枝を探し出した。火を炊く準備をしている様だ。


「でも、またあの三人が襲ってきたら……」


鳳梨は不安げな面持ちをしている。


「……それは、ないと思います。彼らもかなりの痛手を負っていましたから」

「そう言われても……」


鳳梨の表情から不安の色は拭えない。


「それに、ここらへんには猪が出るんです。牡丹鍋、食べたくないですか?」

「食べたいです」


蜜柑は牡丹鍋の単語に即座に反応し、鳳梨の表情は期待に満ちている。


「では暗くなるまえに捕まえて来ますね」


昨日までの鳳梨ならば、お願いしますと言って送り出したが今日は違う。


「僕も手伝います!」


これも修行だ!と、力む鳳梨。


「分かりました。お願いします」


蜜柑は嬉しそうに微笑む。


蜜柑が鮮やかな手付きで火を起こしてから、二人で猪狩りに出掛けて行った。

次回、ごはん食べます。

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