第1章 ①
セジ=ディ=ラティスは、アリーシャにとって、友達であり、弟子であり、快く実験に協力してくれる、都合の良い味方でもあった。
ラティス公は、先祖代々変わり者ばかりだとユーティシア人は言うが、現在のラティス公もとてつもない変人で、息子のセジを普通の庶民が通う学校に入れた。
――貴族の学校は派閥があって、どうも好かない。
その、たった一言であったらしい。
当然、反対意見は凄まじいものだったらしいが、結局、セジはアリーシャと同じ学院にやって来た。
アリーシャが八歳。セジが七歳の頃のことだ。
セジはアリーシャより、一歳年下なので、教室は違っていた。
しかし、小さな学院だ。噂が広がるのは早い。
ラティス公の令息が学院に入学したというのも大きく知れ渡ったが、アリーシャの見た目が普通の人とは違うという話も、あっという間に学院中の評判となった。
――そして。
金色の瞳を同級生に揶揄されているアリーシャを、セジは庇って、救ってくれたらしい。……らしい、というのは、アリーシャに当時の記憶がないからだ。
セジは大きくなってからも、このことをアリーシャに主張していたが、別にアリーシャにとっては、瞳の色でからかわれるのは、物心ついた頃から慣れているので、助けられたという自覚がないのも納得できた。
むしろ、アリーシャの金色の瞳に興味を持っていたのは、セジの方だった。
しつこいくらい、色々と尋ねてくるセジにアリーシャは、自分が魔女であることを告白した。
幼いセジにとっては、もう、それだけで魅力的だったらしい。
ラティス公の息子のくせに、アリーシャなどに向かって、真面目な顔で弟子にして欲しい、と申し出てきたのだ。
アリーシャも子供だった。
弟子というその聞き慣れない言葉に心を惹かれたのだ。
何より、アリーシャを先生と呼んで、純粋に慕ってくるセジを突き放そうなんて考えもしなかった。
学校には、次期ラティス公のセジを懐柔しようと、いろんな貴族の子供が姿を見せ始めたが、セジはそういうのを嫌い、アリーシャと一緒にいたがった。
庶民で、しかも魔女の一族であるアリーシャとの交流を、ラティス公は温かい目で、見逃してくれて、アリーシャの両親も、恐れ多いことだと言いながらも、娘の親友として、家族のようにセジと接してくれた。
あの頃、アリーシャは、偉ぶって適当なことをもっともらしくセジに説いた。
セジが真剣に頷くので面白くなっていた。
ある時は、セジを、古文書を参考にして作った未熟な薬の実験体にもして、失神させたりもした。勿論、これは露見してアリーシャは両親から大目玉を食らったが、当のセジはけろっとしていて、ラティス公も寛容に許してくれた。
そんな二人の関係は、何年も続いた。
…………いつか壊れる日が来るなんて、子供のアリーシャは疑いもしなかったのだ。