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手紙~謎の中身~

「なぁ、ミー。お前、最後に親父さんに会ったのっていつだ?」

 ハルがコーヒーを淹れながらミーに尋ねた。

「………亡くなる前日よ。それがどうかしたの?」

「ハル、それとあの手紙と何の関係があるんだ?」

「そのとき、親父さんと何話した?」

 ハルは俺の質問には答えず、ミーに続けて尋ねる。

「別にこれといって……あ、昔の話を少しだけ。

 でも、結局喧嘩になったわ……今思えば、アレが父さんとの最後の会話だったのね…。」

 ミーの目にまた涙が浮かんだ。

「何で喧嘩になったんだ?」

 ハルはまだ質問を続ける。

「おいハル。もういいだろ?」

「いや、大事なことだ。思い出してくれ。」

「ハル!」

「ケイちゃん、私は大丈夫。

 たしか……私に向かって、癖毛って言ってきたのよ。」

「癖毛って……ミーはストレートじゃないか。」

「そうなの。ストレートパーマも当ててないし。

 それで、ムッとなって言い返しちゃったのよ。」

 ハルはただ黙って聞いていた。

「なんて言い返したかは覚えてないけど、そのあと高校の頃の私の成績の話が出てきたから、馬鹿とでも言ったんじゃないかしら?」

「高校の頃の成績の話?」

 俺が聞き返すと…

「そ。『お前は何であんなに数学が出来なかったんだ。大事だったろうに。』ってね。」

「でも……なんで急にそんな話を?」

「さぁ?私に馬鹿にされたのが悔しかったんじゃない?

 そのあと言い合いになっちゃって、私が帰ったことで事態は収束したんだけどね。」

 最後は泣きそうな笑顔でそう締めくくった。

「やっぱりな。」

 ハルが話をすべて聞いてからそう言う。

「何がやっぱりなんだ?」

「ミーの親父さんは、ミーに、手紙の内容を解くためのヒントをあげてたんだ。

 はい、コーヒーのおかわりおまちどうさま。」

 そう言って、コーヒーのおかわりを俺たちの前に置く。

「どういうこと?父さんが私にヒント?」

「今の話のどこにヒントがあったんだ?」

「うん。

 手紙の右下の部分を見てほしいんだけど。」

 言いながらハルは手紙を俺たちの方へと向ける。

「片仮名で、『サン、ゴ、ナナ、ジュウイチ、ジュウサン…』って書いてあるだろ?」

「……たしかに…。」

「だろ?で、それをよく見ると素数を小さいものから順番に並べたものになっているのがわかるか?」

「…なるほど………。」

「え?そすう?………って、なんだっけ?」

「あのなぁ………。」

 呆れ返るハルに代わって俺が説明する。

「素数ってのは、ある数で、1とその数以外でしか割りきることの出来ない数のこと。

 ほら、5は1と5でしか割りきれないけど、9は1と9に加えて3でも割りきれるだろ?」

「なるほど!」

「ちなみにだけど、詳しくは俺も覚えてないんだけど……1は素数に入れないことになってるんだ。」

「へぇ~そうなんだ。」

「そういうこと。さすがの記憶力だなケイ。」

「ハルほどじゃねぇよ。けど、これが素数の列だとしても……おかしくねぇか?」

「へ?そうなの?」

 ミーが尋ねてくる。

「ああ…。ふつう、素数の列は2から始まるべきなんだ。それにもかかわらず、これは2じゃなく3から始まってる。」

 ハルが俺の言葉に続けて言う。

「そう。つまり、『2』が無いんだ。

 だから、『2』をこの文に足せばいいんだ。」

「足すって………2を足すのか?どこに?」

「数字の2を足してどうするんだよ馬鹿。」

「そっか!日本語の『に』ね?」

 ミーが尋ねる。

「その通り。で、足すところはケイがヒントを教えてくれたよな?

 『素数の列は2から始まる』って。てことは、頭に『に』があるべきなんだ。」

「けどなぁ……。頭に『に』をつけて読むと変になるぞ?」

「はぁ……お前なぁ、何のために数字がわざわざ片仮名で書いてあると思ってるんだよ。」

「片仮名の『二』を連想させるため!」

 ミーが自信満々に答える。

「それもあるけど、これはこの文自体を片仮名にして読めってことなんだ。」

「ってことは……あの手紙は『ニンゲンカラ。』」

 と、そこまで俺が読むと

「お前馬鹿か。」

 ハルに頭を叩かれてしまった。

「いって……何すんだよ。」

「お前さっき自分で言ったよな?

 『1は素数に入れないことになってる』って。」

「だからそれがどうしたんだよ。」

「あ、そっか!」

 ミーが突然手を叩く。

「もしかして、1は含まないから1行目に『二』は要らないってこと……?」

「あ、そっか……。」

「そういうことだよ。」

「て、ことは……

 『ゲンカンカラ

  ニシニニキタ

  ニサンポイッタラ

  ニコメノヒキダシ

  ニアル。』…………そっか!」

『玄関から西に2北に3歩行ったら

 2個目の引き出しにある。』

 これが、ミーの父親が伝えたかったことなのか。

「まぁあくまで俺の推測だけど、ミーの親父さんはミーだけにこの暗号が分かるようにしたかったんじゃないか?そして、わざわざ数学の話をした。」

「父さん………。」

 ミーの目には今日何度目かの涙が浮かんでいる。

「ミー。泣くのはまだ早いぞ。」

「えっ?」

「今から3人で確かめに行こうぜ。」

 俺は、ミーにそう提案した。

「え?でもハルキはお店が……。」

「ん?言ってなかったか?今日は臨時休業なんだ。

 行く用意するから少し待っとけ。」

 ハルはそう言うと店の奥に引っ込んだ。

「ありがとう………。

 ありがとう、ケイちゃん、ハルキ。」


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