親子喧嘩
「なぁハル………。」
「何だよケイ、こんな朝早くから。」
「コーヒー1杯飲ましてくんない?」
「あのなぁ……お前、ここをどこだかわかってるよな?」
「ハルの家!」
俺は自信満々にそう答える。
「喫茶店だ馬鹿!」
口では文句を言いながらも、ちゃんとコーヒーの準備をしてくれている。
ここは『喫茶 BeLiebe』Liebeはドイツ語で『愛』ビリーブって音は英語で『信じる』
だからここは愛を信じる喫茶店なんだ。とは俺の幼なじみでここのマスターをしている佐倉ハルキのお父さんの言葉だ。
なんでもハルのお父さんとお母さんが、ここで出会ったという話らしい。
「おまちどうさま。開店前だから、私物だけど文句言うなよ?」
「サンキュ~。」
ハルが淹れてくれたコーヒーを一口飲む。
やっぱ、美味しいわ。
「で?ケイ、今度はどうしたんだ?」
「え?」
「ケイがわざわざ用もないのに、こんな朝早くからコーヒーせびりに来るわけないだろ。
大方、あまり他人には聞かれたくない相談事か何かがある。だから俺に迷惑がかからないようこの時間を選んだ。
ま、十分迷惑だが。違うか?」
「………まったくその通りです。」
いつものことながら感心してしまう。
なんでハルは俺の考えをここまで見抜いてるんだろう?俺が単純なのか?
だとしたら……俺、探偵失格なのかなぁ…。
「お前の職業選択はあとでゆっくりよそでやってくれ。相談事があるなら今言え。
じゃないと、もう店開けるぞ?」
俺はその言葉に意を決して言う。
「実は………ミーに関することなんだけど…。」
「親父さんと揉めてるやつか?」
「あ………やっぱりハルも知ってたんだな。」
「まぁな…。」
ミーというのは俺とハルの高校のときからの友人である。
高校1年の遠足で3人が同じ班になったのがキッカケだ。
当時、ミーの髪は短く俺は最初、本気で男だと勘違いしていたほどだ。まぁ、今では見違えるほど美しくなっているんだが。
そのミーの親父さんとミーが揉めている原因はお見合いである。ミーの父親が、ミーに自分の会社の後輩とのお見合いをさせようとしたのだ。
ところが、ミーはお見合いを拒否したあげく、今勤めている会社はやめた、これから自分で会社をおこすんだって言い出したのだ。
ミーの家はミーと父親の2人暮らし。つまりは父子家庭なのだ。父親としては、娘には安定を…ということなのだろう。
それでもミーは自分の意見を曲げず、父親と意見が合わなかったので家を飛び出し、今現在はカプセルホテルで寝泊まりをしている状況なのだ。
「悪いが、俺は他人の家のことに口出しする気はないからな。」
ハルはそう宣言する。
「あ、いや……俺が伝えたかったのはその事じゃなくてだな…。」
「じゃ……どういうことだ?」
「それがさ…………ミーの親父さん、どうやら危ないみたいなんだ。もって1ヶ月なんだって……。」
「えっ?ウソ………だろ…?」
「本当……なんだ…。だから、そのことをミーに伝えてほしい。アイツ、俺のメールも電話も無視するけどハルの言うことなら聞くだろ?
だから、頼むわ…。」
「え、あ、ああ………。」
ハルは動揺を隠せない口調で生返事を返す。
「じゃ、頼んだぞ……。」
俺はそういって店を出た。そうしなければ、昨日から我慢していたものが溢れてきそうだったから。
なんの病気かもわからない。なんでかかったのかもわからない。わかるのは、もうすぐ命が尽きるということだけ。
ミーの父親は俺たち……特に、両親を早くに亡くしたハルにとっては本当の父親同然なのだ。
そのショックは計り知れない。
俺は当てもなく歩き始め、少ししてから気が付く
「………あ、コーヒー代払ってねぇわ…。」
それから3日後、ミーの父親が亡くなったという連絡が俺のところに来た。