表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

独りぼっちになった弱虫

作者: 煌希

「生きていてごめんなさい。」

双子の片割れが殺されてから、いつの間にか口癖になっていた。

普通の人とは違う、血に染まった様なこの瞳。

そして、雪のような真っ白な肌のせいで、呪われた子・忌み子として、育った私達はお互いが心の支えだった。

忌み子である私達は、ずっと森で暮らしていた。人と会う事はない。だから、余計にお互いが依存しあっていた。

ワガママな「私」としっかり者の「君」、全く違う性格だった。

名前の無いことで怒って「君」を困らせたこともあった。

ワガママを言って、ケンカをしたこともあった。

なのに、「私」は、ワガママばっかり言って「君」を困らせてしまった。

「ごめんなさいっ、私が…私が居なくなればよかったのにっ。」

「君」が村人に殺されてから、後悔ばかりつのっていく。

そんなことしても「君」は、戻って来ないのに…。



「私」を守って死んだ「君」。

血だらけになりながら"逃げろ"と言って村人から守ってくれた。

「私」は、何もできなくて、ただ…ただその言葉に従って、大切な双子の片割れを置いて逃げてしまった。



優しい「君」は死んだ。

私の心の一部であり、大切な双子の片割れでもあった。

血まみれの状態で「私」があげたどんぐりのお守りを握って死んでいた。


血まみれの「君」を見たとき、何故だか涙がでなかった。

でも、心にポッカリと穴が開いたようになにも感じなかった。

ただ…後悔や罪悪感が「私」の心の中に降り注いだ。

しっかり者の優しい「君」じゃなく、ワガママな「私」が殺されればよかったんじゃ…。

「生きていてごめんなさい。」

そう呟くたびに、後悔が押し寄せる。

食事も喉に通らない。「君」が居ない虚しさ。

でも、一向に涙が出ない。

罪悪感、悲しい、恐い、後悔、寂しい。

色々な感情が混じりあった。

「君」が殺されてから、沢山動けなくなった。走ることはもちろん、歩くのも辛くなってきた。

でも、いつも気が付くと、「君」が眠っている場所にいる。


「生きていてごめんなさいっ、本当に…ごめんなさいっ。」

いつもと同じように呟く。何回も何十回も。

そして、いつも通りに家に戻るつもりだった。

立って後ろを振り向くと「君」が居た。「私」を見て微笑んでいた。でも、その笑みは私には、辛かった。

「生きていてごめんなさい。生き続けてしまってごめんなさい。」

頭を下げて「君」に謝った。しかし、「君」は困った声で「私」に話掛けてきた。

「もういいんだ。僕は、別に君を責めてなんかないよ。だから、もうやめて…。前を向いて生きて」

"生きて"という言葉に驚き「私」は「君」を見た。

「僕は、一度たりとも君を責めたことも、恨んだこともないよ。だって、僕が君を守りたいから守ったんだよ。だからもう、自分を責めないで。君はもう、十分すぎる位に自分を責めただろ。だから、今度は前に進む番だ。」

「君」は、真剣な顔で「私」を見て言った。

「私」の心は、キャパシティーを超えていた。

恨んでない、責めてない…。その言葉は、「私」の心を洗ってくれる。でも…どう生きていけばいいの?どうしたら…。

「私は、これから…どう生きていけばいいの?君が居ないこの世界で私は…」

自分では、答えが出せなかった質問を問いかけた。

「それは、自分で見つけないと」

困った様に笑いながら「君」は答えた。

「何で…どうして?」

やっぱり恨まれてるんだ…だから…。

と思っていると、「君」はゆっくり近づいて言葉を続けた。

「僕は、もう死んじゃった。だけど、君はこれからも生きていく。苦しい時、悲しい時、君は僕に頼らず、一人で答えを見つけなくてはいけない。自分の人生は、自分で決めなきゃ。 …これからも僕なしで生きなきゃいけない。ワガママな君には、それがどんなに辛く、悲しい事かもしれない。独りで生きることは、辛いと思う。でも、自分で道を掴んで。例え、それが間違っていたとしても、君が選んだことに意味があるんだから。」


「君」のその言葉は、心に開いた穴にスッとはまった。

それと同時に、今まで出なかった涙が湧き出る様に溢れた。

そしてそれは、何処かで認められずにいた、「君」の死という事実を「私」に深く認識させるものだった。

「うん。わかったよ…」

泣き崩れて座ってしまった「私」は、泣きながらも言葉を綴った。

「私…いつも君にワガママ言って、困らせてた。私のために頑張っている君に、感謝すらいえになかった。だから、これだけは言わして…。生まれてきてくれてありがとう。ワガママばっかり言ってしまってごめんなさい。」

今は、まだこれだけしか言えないけどね…。「私」は、「君」に本当に感謝してるんだよ。言葉では、言い表せないくらい。

「君」に向かっていうと、「君」は笑みを溢していた。

「こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう。独りにしてごめんね」

笑っている「君」の瞳には、涙が浮かんでいた。

「私」は、泣くのをやめた。「君」にこれ以上心配させたくないから。

「君」は、座っている「私」の前に立つと寂しそうな色を隠した明るい声で言う。


「僕、死ぬ前に君に伝えたい事があったんだ」

「私も、伝えたい事があるの。」

多分、一緒の事だろう…。大切な「君」に伝えたい。だから、「君」の名前を呼ぶ。


「僕は、フィリアの事が」

「私は、アキレアの事が」

「君」が生きている間に言えなかった、たった一言を君に伝える。

「大好き」

「君」…アキレアのその一言が私に力をくれる。

さよなら。ありがとう、アキレア。

私は、心の底から微笑んだ。すると、アキレアは消えかかりながらも微笑み返してくれた。

そして、消える寸前に

「またね」

と、一言言って笑いながら消えた。

そのとたん、また涙が溢れてきた。


さよなら、アキレア。

さよなら、大切な私の片割れ。

もう、私は大丈夫よ。

一人で生きていけるわ。

だから、もう心配しないで。


さあ、もう泣き止もう。

そして、前に進もう。

涙をふき、立ち上がると、アキレアの眠っている場所を見た。

「ありがとう。私の大切なアキレア。」

そう言うと、家へ向かった。





そうだよ、それでいいんだよ。

それでこそ、フィリアだよ。

さよなら、僕の大切なフィリア。


もしも、生まれ変われるならば…

その時は、また一緒だよ。

大丈夫だよ。また会える。

だって、僕達は何時だって一緒なんだから。


また、出会えるその日まで…

僕は、君をこの広い空からいつまでも、見守るよ







時は過ぎ、数十年後

フィリアは、お婆さんになっていた。

しかし、独りぼっちでは無かった。

夫や子供、孫に囲まれて幸せに日々を送っていた。

そして、いつも通りにアキレアの眠っている場所にお参りしに来たときに、声が聞こえた。

それは、酷く懐かしく、優しい声だった。

「いつもありがとう。大好きだよ、フィリア」

あの時と同じ姿で…同じ笑顔でそう言ってくれた。

まるで、昔に戻った様なー…。

だから、年を取ってしまったけれど、昔の様に心の底から微笑んで言った。

「こちらこそ、ありがとう。大好きよ、アキレア」




END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ