08 久しぶりのはなれ
やがてレイ君の家に到着してしまった。おばあちゃんが店の前を掃除している。
「こんにちは」
「あら、おかえりなさい。まぁまぁ、遊びに来てくれるなんて久し振りね」
「あ……」
別に寄るつもりはなく通りかかっただけだったので、一瞬戸惑った。おばあちゃんがとても嬉しそうだったので尚更だ。
「あがれば?」
レイ君はぶっきらぼうに言って、さっさと玄関へ行ってしまった。
「レイったら……ごめんなさいね。よかったら冷たいもの飲んでいって」
「はぁい、ありがとうございます」
おばあちゃんが恐縮するので、気にしてない事を強調するようにニッコリと笑って返事をした。
はなれに行くのは春休み以来、3ヶ月ぶりだ。部屋がひどく懐かしいような気がした。
しばらくするとレイ君がはなれにやってきた。不機嫌そうに口を固く結んでソファーへ音をたてて腰を降ろす。突然気分が変わるのはよくある事なので、気にしなかった。
おばあちゃんからのお茶とお菓子をゆっくり頂く。
「バンドの練習は順調そうね」
返事は期待出来なかったけど声をかけてみた。
「あぁ」
反応はあった。
「生で聴いてみたいな」
「カズに聞いてみれば?」
「リーダーはレイ君でしょ」
「俺は誰が聴こうと構わないけど、周りは野郎ばっかりだぞ」
「今までと同じじゃない」
「いくら呑気なカズでも穏やかじゃないと思う」
「そうかなぁ。聴きに来て欲しいってずっと言ってるよ」
「…………」
そう言ってみるけどレイ君の仏頂面は直らなかった。
少し考えたが、ふと思いついた。
「レイ君は彼女の周りに男の子がいるのが嫌?」
言葉は出さないが、顔がピクリと反応した。
「ずいぶんヤキモチやきだね」
意外なレイ君の一面を驚くと同時に可笑しかったが、笑いをかみ殺した。
「普通なら気にしないが」
渋々といった感じで、レイ君は口を開いた。
「その……新しい奴が、美紀の事を気にしてたみたいだから」
「本当?! 光栄ね」
おどけてみたがレイ君の眉間に皺がよったので、それ以上はやめた。
「その人だって本気でそう思ってる訳じゃないって」
「それは本人にしか分からないだろ」
「カズ君も一緒だし、私達は大丈夫だよ」
私がそう言うとレイ君は大きくため息をついた。
「バンド内で面倒が起こらなければいいが」
「信用されてないなぁ」
「万が一の事があって、カズを泣かせでもしたら承知しないからな」
「私は小さい頃からカズ君を泣かせた事はありません」
「そうだったな」
やっとレイ君が笑った。
それからレイ君はピアノを聴かせてくれた。私が遠慮がちに頼むとあっさりOKした。
今取組んでいる曲やリクエストした曲など……まるで聴かなかった3ヶ月分を取り戻すように、次々と弾いてくれた。
軽やかで華やかな曲。
重々しく切ない曲。
どの曲も聴き終われば胸がジーンときて、思わずため息が出る。
そして真剣にピアノに向かうレイ君は格好良いというか……綺麗だ、と思った。