07 メッセージ
歩き出すと、カズ君はすぐに話し出した。
「昨日貰ったカードね、家に帰ってすぐに読んだよ」
「そ、そう」
「正直言って……」
ドキッとする。
「プレゼント以上に嬉しかった」
「ホ、ホントに?」
思わず立ち止まってしまった。カズ君も立ち止まり私の目を見つめる。
「もちろん。そう思ってくれるなんて、とても嬉しかった」
カズ君の真剣なまなざしに胸の動悸が収まらない。
「今まで当たり前すぎて考えた事もなかったけど、改めて考えたらそう伝えたくて」
私の答えにカズ君は大きく瞬きをした後、深く息を吐く。そしてはにかんで笑った。
その笑顔を見ると今までの不安が嘘みたいに落ち着く。
そしてやはり書いた事は間違ってない、と確信した。
「そうかぁ、ありがとう」
「お礼だなんて……」
そうは言うものの嬉しくて顔がほころんでしまう。
そしてカズ君の近くにいることをただ願うのではなく、カズ君にもそう思ってもらえるよう頑張らなくては……と思った。
バンドは順調にコピー曲のレパートリーが増えている。でもオリジナルの新曲がなかなか出来ないという。
『音大を受験なら今まで以上の練習が必要だ』と春休み中にレイ君は言っていたので、制作が進まないのだろう。
クラスでレイ君とは以前ほど話しをしなくなり、最近ピアノも聴いてない。
7月に入ってからすぐの土曜日。部活から帰ると、地元の駅で見覚えのある後ろ姿を見かけた。
「レイ君」
「やぁ」
特に驚いた様子もなく軽く返事をする。
追いついた私は並んで歩き出した。
「デート?」
「そう」
「彼女出来たの?!」
冗談のつもりだったのに。
「女子とは限らないだろ」
「えっ!」
マジマジと顔を見つめてしまう。女子に人気があるのに彼女がいないのは……と考えていたら、レイ君がフッと笑った。
「嘘だよ。ドラムの助っ人さ」
「なあんだ」
私は呆れてしまったがレイ君は全くお構いなしだ。
「……あれ? 助っ人?」
前は頼まれても自分のバンド以外では演奏しなかったのに。
「修行みたいなもんか。自分のバンドだけだと、どうしても好きな曲や演奏しやすい曲に偏るから」
「やっぱり違うの?」
「あぁ、違う」
バンドが変われば曲や演奏技術も変わるので色々勉強になる……だから考えを変え、他バンドの助っ人へ出るようしたのだそうだ。
「ドラムも真剣に取組んでいるんだね」
「ん? まぁ……」
私が茶化したのではなく素直に感心しているのが分かったのか、レイ君は照れたように口ごもる。ピアノもあって大変だろうに相変わらず音楽に対して真面目だ。
「でも、そんなに頑張ってて身体は大丈夫?」
「大丈夫だ」
「それならいいけど」
小さい頃から比べたら病弱ではなくなったが、去年の修学旅行で倒れている。本当はまだ心配だった。
「俺より心配しなきゃいけない奴がいるだろ」
「カズ君なら部活で鍛えてるから大丈夫」
「あぁ、そう」
レイ君は目を細めて私を見たが、すぐに視線を逸らしてしまった。
そのまま会話は途切れてしまい黙って歩き続ける。