06 プレゼント(3)
10日の夕方。先に帰宅していた私は家の前でカズ君を待った。今日はせっかくなので例のペンダントをつける。それにそっと手をふれ、カズ君の事を考えていた。
日が落ちて辺りが薄暗くなった頃、ようやくカズ君の姿が見えた。
「ゴメンね。遅くなって」
「さすが野球部」
「あはは……」
カズ君は私の胸元に気が付いたようだ。
「つけてくれたんだ。ありがとう」
「私こそありがとう。結構良い物なんでしょ?」
「よく分からないけど、美紀ちゃんに似合うと思って買ったものだから」
「でもギターのお金が……」
私の言葉に、カズ君は怪訝そうな顔をした。
「もしかして気にしてた?」
「うん。プレゼントに金額の事を言うのはマナー違反かもしれないけど」
しかしカズ君は嫌な顔もせずに聞いてくれた。
「新聞配達は音楽のためだけじゃないんだ」
「…………」
「高校生になったら、自分のこづかいは自分で稼ごうって決めてたからさ」
「おこづかい、貰ってないの?」
「学費とか最低限の分は貰ってるけどね」
穏やかに話すカズ君は、それを全く苦に感じている感じではなかった。
「それは僕が欲しいと思って買った物だから気にしないで」
「う、うん」
いつの間にかカズ君はしっかりしていた。タカ兄ちゃんによろしく頼むように言われたけど全然大丈夫だと思う。
これ以上はかえって悪いので、肝心な事に話を切り替えた。
「お誕生日おめでとう、カズ君」
「ありがとう」
包みの感触で中身に気付いたかもしれない。それでも目を輝かせて喜んでくれた。
「開けていい?」
「いいよ」
中身を取り出す時にカードが落ちてしまった。
「ゴメン!」
慌てて拾ったカズ君は封筒を見つめる。
「今は見ないで!」
書いた時は良いと思ったけど、目の前で読まれるのは恥ずかしい。
「わ、分かった」
私の勢いにカズ君はすぐカードをしまってくれた。それからTシャツを胸の前で私に向けて広げた。
「ありがとう。僕、こういうの好きだ」
思った以上に似合っていてホッとした。
「この夏に着てくれると嬉しいな」
「もちろん着るよ。もったいないけどね」
「ふふっ」
「今度お互いのプレゼントを身につけて、どこか出掛けようか」
少し表情を引き締めたカズ君が、そんな提案をしてくれた。
「うん、いいね」
今まで部活やバンドに忙しくて、二人で出掛けてなかった。
もっと話していたかったけど暗くなってきたので、その日はすぐお別れした。
家で何をしていてもカードを読んだカズ君の反応が気になる。内容はプレゼントを渡した時、素直に思った事だ。
来年も再来年も……一緒に誕生日をお祝いしたい。ずっと一緒に居たい、と。
なかなか寝付けないまま朝になる。ボーッとした頭で家を出ると家の前にカズ君がいた。
「おはよう。元気ないけど大丈夫?」
「おはよう、平気よ」
そうは言っても変に意識してしまって、カズ君の顔をちゃんと見られなかった。
「それなら行こうか」
「うん」
カズ君はいつも通りだ。