05 プレゼント(2)
6月5日は私の誕生日だ。カズ君は特に何も言ってないけど忘れてるのだろうか。
バスケ部は朝練のない日だった。遅刻しない程度にゆっくり家を出る。
「おはよう、美紀ちゃん」
「おはよう……」
家の前に居たのはカズ君だった。
「あれ、朝練は?」
野球部は毎日あるはずだ。
「どうしても早く渡したかったんだ。黙ってたのはわざとらしかったかな」
そう言ってカバンから包みを取り出した。
「美紀ちゃん、お誕生日おめでとう」
「あ……ありがとう!」
やっぱり忘れていた訳じゃないんだ。ホッとしたと同時に自然と頬が緩んできた。
差し出された袋をそっと受け取る。
「開けていい?」
「うん」
丁寧に包みをとり、小さくて少し細長い箱を開いた。
中身は四つ葉のクローバーをかたどったペンダント。葉の部分には半透明で青白い石を使い、シルバーのチェーンがついていた。
「わぁ、綺麗……」
手に取ると朝陽を受けて、キラキラしている。
「これから学校だからつけられないだろうけど」
「うん。でも嬉しい!」
「気に入ってくれて良かった」
カズ君は照れて笑う。
「カズ君が選んだの?」
「最終的に、ね」
お店に行ったものの全然分らず、お店の人がアドバイスしてくれたそうだ。
「これはムーンストーン。6月の誕生石なんだ」
「へぇ……」
実をいうと私はこういう事をほとんど知らない。
「僕も初めて知った」
「なあんだ」
カズ君は正直だ。
「そろそろ行こう」
「そうだね」
カズ君に促され、二人で駅に向かった。ペンダントは大事にカバンへ入れた。
通学途中で買いに行った時の様子を聞いた。
「変な汗かいたよ」
「家に帰ったら一気に疲れが出なかった?」
「うん」
カズ君も同じだと思ったら、少し嬉しくなった。
「私もね、最近そんな事があったんだ。カズ君の誕生日プレゼントを買いに行った時」
「えっ」
私の言葉にカズ君は目を見開いた。
「渡すのは10日、家に帰ってからでもいい?」
「もちろん!楽しみだなぁ」
カズ君はこれ以上ない、というほど満面の笑顔で喜んでくれた。
それを見てカードに書く事が決まった。
教室へ着くと早速中里さんに強制連行された。ちゃっかり竜岡さんも一緒に来ている。
「顔つきからして違うぞ」
「へ、変かな?」
私は両手を頬に当てて少しでも引き締めようとした。
「すっごくいい顔。もし彼氏関係じゃなかったら男子は放っとかなかっただろうに」
腕を組んでウンウンと頷きながら言う。
「ということで、その笑顔の元を見せてもらおうか」
中里さんの迫力に押され、ペンダントを見せた。
「辻村君、ずいぶん頑張ったみたいねぇ」
竜岡さんが包みを見た時点でそう言った。
「どういう事?」
「そこらの雑貨屋じゃなくて、デパートに入ってるお店よ」
「いいお値段するの?」
中里さんもその辺は疎いらしい。反対に竜岡さんは詳しいようだった。
中身を見ると「何万とはしないけど、結構いい物ね」と鑑定した。
驚きとともに、申し訳ない気持ちになった。