58 旅立ち
「片付いたね」
「うん」
引越しの準備が終わったところに、お兄ちゃんが顔を出してきた。
「カズがそこまで音楽に入れ込むなんてなぁ」
「始まりはお兄ちゃんが聴いてたテープだったよ」
中学生だったお兄ちゃんが聴いていた洋楽が、バンドを始めるきっかけだった。
「もしアイツらが有名になったら、俺が産みの親だって自慢出来るな」
そう言ってお兄ちゃんは笑う。
「成功するかな」
「大学でバンドやってる奴は何人も知ってるが、なかなか」
「…………」
「2人はそいつらより上手いけど、それだけじゃ売れないだろう。何かないとね」
「何か……」
確かにコンテストで良いバンドは沢山いたけど、その後の活動を聞くバンドはいない。
「その辺の戦略も全部自分達でやるんだろ?」
「他人の指図に従うような人じゃないし」
「俺が手助け出来るのはここまでだ。頑張れよ」
「今までありがとう」
運搬や会場設営……ずっと一緒に活動してくれたのだ。改めてお礼を言った。
「いってきます」
数日後、早朝の玄関で見送る家族に挨拶をした。
引越しの荷物を受け取るために早く出るのだ。
「たまには帰ってこいよ」
「お母さん、お昼頃には着くと思うわ」
両親にそれぞれ言われた。母は荷解きの手伝いで後から来てくれる。
「アイツらによろしく」
お兄ちゃんが耳打ちした。二人も近所な事を隠してはいないが、一応両親へ配慮したのだろう。
二人の引越しも今日だ。ただカズにあまり荷物がないのと、反対にレイの大きい荷物のために車で行く。ドラムと買ったばかりの電子ピアノだ。
「おはよう、レイ」
ますや商店の前に軽トラにレイがいた。
「おはよう」
「早く起きられたのね」
「いや、寝てない」
「大丈夫なの?」
二人で交代しながら運転していく、と聞いていたが。
「始めはカズが運転する」
「それでも気をつけてね」
カズがお店から出てきた。
「美紀ちゃ…いや、おはよう。美紀」
「おはよう、カズ」
まだお互いを呼び捨てるのは慣れない。
「今までありがとうございました」
見送りに来たレイのお父さんとおばあちゃんへ、カズが深々と頭を下げる。バイトは、はなれを使うお礼もあったが自立資金を貯めるのにかなり助かったようだ。
「こちらこそありがとう。それにレイをよろしく」
「ご飯をしっかり食べて、身体を大事にね」
おばあちゃんは涙ぐんでいる。
「どうせすぐ車返しに戻ってくるんだから、そんなのいいだろ」
レイは呆れたように言う。
「今日が旅立ちなんだ。無粋な事は言わない」
お父さんに言われ、レイはふてくされていた。
「出発しよう」
「気をつけてね」
私は電車なので軽トラを見送る。
そしてもう残った二人にもう一度挨拶をしてお店を後にした。
風が強い。電線がヒュウヒュウ鳴り、木々がざわめく。
ライブ会場で、それとよく似た音を聴いた。
私は空を見上げる。
全国各地の会場でそのさざめきの中、彼らの音を響かせよう。
そう誓うと、遠い明日から歌が聴こえたような気がした。
まずはお立ち寄りいただいた方、ご覧いただいた方、ありがとうございます。
『明日のうたが聴こえる2』は58話で完結いたします。
他サイト『フォレストノベル』さんで掲載していた作品の改稿でしたが、1年以上の時間をかけてようやくここまでたどり着きました。
続きの『上京編』は準備中でありますので、興味をもたれた方、掲載の際にはご覧いただけたら幸いです。
人見くぐい




