50 短大入試
入試当日。試験の出来は良い感触だ。
それよりも会場が遠くて行き来に時間がかかったのが大変で、地元の駅へ着いた時には辺りが暗くなっていた。
改札をぬけると待合室のベンチに人影が見えた。
「遅かったな」
レイ君だ。
まともに話すのは屋上で会ったあの日以来だった。
「遠いんだもの」
「そうだった」
確かにカズ君は今日は用事があって迎えに行けないと謝っていた。だからといってレイ君が来るとは。
「どうして、レイ君が?」
『女の子で大事なのは、吉山さんだけ』
竜岡さんの声が頭に響く。
「カズに頼まれた」
さすがに自主的ではなかったようだ。
「そうなの。ゴメンね」
「…………」
レイ君は黙って立ち上り、一人で歩き出した。
「どこいくの?」
レイ君は駅舎を出て、いつもと違う方向に歩く。
「今日は歩きじゃない」
「車?」
しかしレイ君はまだ教習所に通っている最中だ。ますや商店の車も見当たらない。
「タイヤはついてるな」
小さく呟くと急に足を止めた。
「これ?!」
「そう」
そこには沢山の自転車が並んでいたが一際目立つ自転車があった。
昔の厳つい頑丈な自転車。古いけどきちんと手入れはしてあり、今でも現役だそうだ。一応気を使ったのか荷台には小さな座布団をくくりつけていた。
「俺の自転車はパンクしてた。この方が早いだろ」
ガチャン、と大きな音をたててスタンドをあげる。
「確かに。でも……」
「早く乗れよ。家の人が心配するだろ」
レイ君がそう促す。
「う、うん」
せっかく迎えに来てくれたのだから断わる訳にもいかない。
荷台へ横向きに座り、カバンを抱えた。
「それじゃ危ない。ちゃんと俺に掴まれ」
チラリと振り向くとレイ君は言った。
「え……」
「早く」
今度は顔を見せないが声が苛立っている。
「分かった」
「しっかりと手を腰にまわせ。落ちても知らないからな」
「そんなぁ」
おそるおそるレイ君の言うとおりにした。
「走るぞ」
少しふらついたが無事走り出した。
レイ君は無理にスピードを上げなかったが、息は次第にあがっていった。
「大丈夫? 代わろうか?」
「後ろが重い……だけ……だ」
「失礼ね」
「黙って乗ってろ」
「ハイハイ」
ガタンッ。
小石を踏んだのか少し自転車が揺れた。思わず腕に力が入り背中に顔を当てる。コート越しに伝わるレイ君の体温が温かくて、当たり前なのに不思議だった。
私の頬に触れた指先は、とても冷たかったから。
さすがに自転車は早く、すぐ家に着いた。
一瞬まだ乗っていたい気もしたが、慌てて打ち消す。
自転車を降りたレイ君は一度呼吸を整えるとすぐ涼しい顔に戻った。
「ありがとう。気をつけて帰って」
「今度は軽いから平気だ」
やっぱり素直じゃない。
「週末に今後の事をカズと打ち合わせするから、美紀も来いよ」
いつもどおり独断的で。
「うん、分かった」
レイ君は頷くと自転車に乗った。
「今日はお疲れ様。ゆっくり休みな」
そんな言葉をかけ、何事もなかったように行ってしまった。
どうして不意に優しくするのだろう……ズルイ。




