01 高校入学(1)
入学式の朝。
真新しい制服を着て、庭で恒例の写真を撮る。高校は明るい紺のブレザーに赤いリボンタイだ。前はこの制服が大人っぽく見えたけど、自分が着てみるとそうでもなかった。
「そりゃあ、いかにも新入学生だからね」
カメラマンのお兄ちゃんがそう笑う。お兄ちゃんも志望校に現役で合格し、大学生だ。
「おはよう」
カズ君が顔を出す。男子は学ランなのであまり変わり映えしない。しかもカズ君は野球部のために坊主頭のままで、もっと変化がない。
「おはよう、カズ君」
昨日も一緒にレイ君の家へ行ったのに、いまだに面と向かうと照れる。
お兄ちゃんがいる手前普通にしているつもりだったけど、ニッと笑ったお兄ちゃんは「後はお若い人達同士で」と言って、家に戻ってしまった。ばれてるのかな。
「えーっと、もう行こう」
「そ、そうね」
二人で顔を見合わせ、足早に駅へ向かった。
学校は電車で2駅隣りにあり、最寄り駅からは徒歩10分ほどだ。
「おはよう、レイ君」
「あぁ、おはよう」
駅に向う途中でますや商店に立ち寄ると、明らかに眠そうなレイ君がいた。
「春休み中、寝起きするのが遅かったからだよ」
「……急に直せるか」
偉そうに言ってレイ君は先に歩き出した。
地元の駅は電車の本数自体が少なく、こんな田舎でも朝は結構混雑する。
「自転車にしようかな」
「部活で遅くなると危ないから電車の方がいいよ」
私の考えにカズ君はやんわりと反対した。
「混んでるっても10分位だろ。電車の方が楽だ」
カズ君の向こう側でレイ君がボソっと言う。
「そうだね。慣れるかな」
「3年通うから大丈夫さ」
結構楽観的なカズ君だ。
次の駅でも更に人が乗ってきたけど、カズ君が庇ってくれたので少し楽だった。お礼を言うとカズ君は黙って微笑むだけだ。
私たちの通う高校は普段『西高』と呼ばれるが、『県立滄海西高等学校』が正式名称だ。
近所に『滄海東高』と『滄海女子』があり、駅は学生で賑わっていた。
合格発表を掲示していた場所でクラス分けの発表があった。
文系・理系の変更がなければ3年間クラス替えがない、とお兄ちゃんから聞いていた。だから3人一緒がいいな、と思いながら探す。
しかし私とレイ君が1組で、カズ君は2組だった。
レイ君は目を細め無言で掲示板を見ていた。
「隣だからまだいいよ」
「うん」
さすがのカズ君も残念そうで、自分に言い聞かせるように言った。
「教室へ行こう」
レイ君はそう言って先に歩き始めた。
「1年生の教室は、この先突き当たりです」
1年生の教室は別棟で上級生が誘導している。1・2組とも2階だった。
2組の入口に着いた時だ。レイ君が不意にカズ君を捕まえ耳元で囁く。それを聞いたカズ君は微妙な表情をした。
「カズ君、帰りね」
「う、うん」
レイ君はお構いなしに1組へ向かってしまったので慌てて追った。
「何て言ったの?」
「美紀に悪いムシがつかないよう見張っておく、って言った」
レイ君はそう言って口元だけ笑った。