16 文化祭(2)
体育館に集まってきた2・3年生はお兄ちゃんの姿を見て驚いていた。
「吉山先輩、今日はどうしたんですか!」
「運転手兼運搬さ」
「ええっ!」
後で聞くと、お兄ちゃんは2年連続生徒会にいて去年は会長だったらしい。ついでに西高でもサッカー部の部長だったそうだ。
「へぇ~知らなかった」
「軽く言うけど……凄い事だぞ、それ」
レイ君は額に手を当て呻いていた。
「単に断りきれない、お人好しだと思うなぁ」
今日だって運転手兼運搬役だし、ね。
「ちょっと色々挨拶してくるよ」
お兄ちゃんはそう言って体育館を出ていった。
「俺達もいったん教室に戻ろう」
レイ君の一言で、私達も体育館を引き上げた。
「吉山さんのお兄ちゃんって格好いいじゃん!」
教室に戻ると中里さんが早速声を掛けてきた。いつ見たのだろう。
「えーそうかなぁ」
「あれで格好悪いというなら、世の中の男性ほとんどジャガイモだよ」
「そ、そう……」
興奮してる中里さんは言っている事が目茶苦茶だ。
「紹介してよ~」
「いいよ」
「えっ!」
自分から言ったのに中里さんは驚いている。
「午後からバンドを見に来るから、その時に」
「ええっ、ちょっと~どうしよう……」
急にソワソワしだして、トイレに行ってしまった。
「どうしたんだろ」
「身だしなみを整えに行ったんじゃない?」
いつの間にか隣りにいた竜岡さんが冷静に言う。
まだまだ時間があるけど。
「そんな身構えなくてもいいのに」
「この紹介するっていうのは、名前を教え合うだけとはちょっと違うのよ」
「え?」
「まぁ、吉山さんには分からないか……」
竜岡さんはため息混じりに呟いた。
カズ君にはお昼前にもう一度会った。去年ほどガチガチに緊張してなかったが、落ち着かないようだった。
「年に一度じゃ全然慣れないや。でも今日も上手く歌えそうな気がするんだ」
「ちゃんと聴いてるからね」
「ありがとう」
それからカズ君は、少し考えてから辺りを見渡した。
今いる職員室付近はまるで別世界のように静かだ。
「どうしたの?」
「あの……て、てを」
「て?」
さっきより緊張しているみたいだけど。
「手、をとっ、て欲し……」
区切る部分が変だが、『手をとって欲しい』と言いたいらしい。
私は小さく笑い両手を差し出した。カズ君はおずおずと私の両手に触れる。その手をしっかり握ると汗をかいて冷たい。
「大丈夫だよ」
カズ君の顔を見ると、ちょっと泣きそうなぎこちない笑顔。身長は高くなって頼もしくなったのに小さい頃と変わらない。でも悪い事じゃないと思う。
「ほら、遅いよ!」
午後の体育館でクラスメイトはすでに最前列を陣取っていた。
「ありがとう」
「吉山さんがここに居なくてどうするの」
竜岡さんが場所を空けてくれる。
「ゴメン、ちょっとね~」
私の代わりに中里さんが謝っていた。約束通り、中里さんをお兄ちゃんに紹介していて遅くなったからだ。二人はテニス部の顧問の話で盛り上がっていた。
(あれで良かったのかなぁ)
よく分からないが、後は自分でなんとかするだろう。