15 文化祭(1)
カズ君は小さい頃よく遊んだ空き地でギターや歌の練習をしている時がある。
「さすがに家じゃ大きな声で歌えないからね」
ギターを弾きながら歌うのも、もう慣れたようだ。
今回のオリジナル曲は前に比べて更にテンポが早くなっていた。当然ドラムの見せ場は作ってあり、確かに『凄い!』と思う。
「レイ君はね、元々才能があるけど……」
練習の最中にカズ君がふと漏らした事がある。
「地味な基礎練習も全く手を抜かないんだ。だから凄いし自信もある」
みんなの前では見せないけど練習内容を聞いてカズ君は驚いたという。
「だから僕は足を引っ張らないように、それ以上練習しなきゃ……と思ってさ」
「全然足なんか引っ張ってないよ」
しかも始めた時期も後で練習の絶対量も少ないカズ君がこれだけ出来るというのは、才能という点ならもしかするとカズ君の方があるのかも知れない。
それを本人に言ったら、笑って否定された。
文化祭当日の早朝。お兄ちゃんはレイ君の家に行き車を受け取った。
「安全運転でいくよ」
「お願いします」
レイ君は助手席に乗り込んだけど、他のメンバーと私は普通に電車で登校した。静まりかえった体育館に足を踏み入れる。
「それで何で私も?」
「今回セットが多いから」
レイ君はサラッと言う。
「お兄ちゃんもいるのに」
「美紀の方が力あるじゃないか」
「お兄ちゃん!」
「はははっ。冗談です」
始発電車で来るはめになって、いい迷惑だ。
「美紀ちゃん、それ重いから僕がやる」
「いいの? カズ君」
「誰も本気で美紀ちゃんが力持ちだと思ってないよ」
「ありがとう」
組上がったドラムは、一緒に置いてある軽音部のよりはるかに立派だ。
「へぇ~レイはこんなの叩くんだ」
初めてそれを見るお兄ちゃんは、改めて感心していた。
「リハ始めて下さい」
しばらくすると担当者から声をかけられた。
さすが高校はきちんと調整するようで音響係の人がいる。
順番がきたが専門の人が聴くのだからと思い、私は体育館の隅に居た。しかしレイ君が近づいて来る。
「もっと前に出て」
そう言ってステージに上がっていった。
「……うん」
ステージ真正面で一人、ちょっと恥かしかったけどそこで聴く事になった。
係りの人達は一瞬怪訝そうな表情をしたが、レイ君は気にせずドラムを鳴らした。その後それぞれのパートごとに音のチェック。それから全体で1曲目の前半部品を演奏した。
「どう?」
レイ君が聞いてくる。
「カズ君の声が完全じゃないけど、大丈夫だよ」
さすがに朝早いうちは声が出ない。
「バランスは?」
「いいと思う」
「じゃあいいだろう……ありがとうございました」
係りの人にお礼を言い、ステージから降りた。
「鳴海はずいぶん吉山さんを信頼してるんだな」
飯沼君が真面目な顔で言った。
「僕と同じ一番レイ君の音を聴いてきてるからね」
何故かカズ君が誇らしげに答える。
そう……音楽ならレイ君が何を言いたいのか分かるのに。