14 初ステージに向けて
まるでお祭の時が夢だったかのように、またいつもの日常へ戻った。
バンド練習を聴きに行ったり図書館で勉強したりする以外、カズ君と出かけていない。
『そんなんでいいの?!』
中里さんが呆れていた。
でも出会ったばかりならともかく、もうずっと一緒にいるのだ。そしてこれから先も一緒なら自分達のペースでいいと思うのだけど……変なのだろうか。
結局夏休み最後の日にあと一度出かけた。映画を見た後、カズ君の希望で楽器店に行った時だ。楽器の事は全然分からないけど見るだけでも楽しかった。
「予定より早くギターが買えるよ」
「文化祭には間に合う?」
「うん。そしたら僕にも演奏を入れてくれるって」
「やったじゃない!」
カズ君は給料日に早速楽器店へ行った。
レイ君のドラムと同じ漆黒のギターは、カズ君によく似合った。
私が見ていた限りではメンバー同士和気あいあいと練習しているけど、始めは音楽の意見がぶつかって険悪な雰囲気になる事もあったらしい。
でも数ヶ月経って、やっと落ち着いてきたという。
「私が居ない時にはそんな事が」
「今まで先輩後輩メンバーだったから、そういう事はあまりなかったからね」
カズ君はその時の事を思い出して話してくれた。意外にも大人しい畑君がレイ君と衝突したようだ。
「飯沼君は『もっとやれ』みたいにけしかけるし……困っちゃったよ」
「でも始めのうちに意見を出し合ってしまった方がいいのかも」
「うん」
「それにしても、カズ君がオロオロする姿が目に浮かぶよ」
「そのとおりさ」
私がそう言って笑うと、カズ君もつられて笑った。
文化祭ではコピーを3曲、オリジナルを1曲演奏するそうだ。
「本来ならドラムは全セット持ち込む必要はないんだけど、俺は自分のが使いたい。でも学校まで運べないんだ」
文化祭直前の練習後にレイ君は不満げに口を尖らせた。
「おじさんは?」
いつもなら、軽トラックで運んでくれていた。
「当日はどうしても用があって、車は空いてるけど手は貸せないって。」
「みんなのお父さんは?」
全員首を横に振る。
「残念ながら、みんな仕事だってさ」
「土曜日だしなぁ」
「うちのお父さんも仕事……あ、でも」
心当たりが一人いた。
「お兄ちゃんに聞いてみようか?」
「徹兄ち……さんに?」
「うん。春休み中に免許はとってるよ」
「そうだったのか」
「だから聞いてみるね」
「あぁ、頼む」
お兄ちゃんもダメならリヤカーを借りて持っていく、と言っていた。どうしても自分のセットを使いたいようだ。
レイ君はもう一組のバンドにヘルプで出るらしく尚更こだわっていた。
家に帰りお兄ちゃんに聞いたらなんとOKだった。ただし「軽トラは運転した事ないからな」と笑っていたけど。
すぐに電話でレイ君に伝えると、珍しく弾んだ声でとても喜んだ。
「OBとして顔を出そうと思ってたし、あいつらの演奏を初めて生で聴けるのだからお安いもんだ」
自分の兄ながら、人がいいなぁと思う。
運搬の心配はなくなり、あとは曲を仕上げるだけだ。