13 夏祭り(2)
しばらく踊りを見ていたけど、あまり遅くならないうちに戻る事にした。
「さっきより人がいる」
時間が経って人出が増え、来た時のように左右の屋台を行き来出来る状態ではなかった。
「見失わないようにね。美紀ちゃんは背が高いから分かりやすいけど」
「こういう時は両親に感謝すべきなのかな」
身長165cmは女子として高い方に入るだろう。竜岡さんが少し羨ましい。
それにしても今度は押し合うほど人がいて、カズ君と距離がとても近い。さすがにこれだけ近いとドキッとする。カズ君もそれほど喋らず前に進んでいた。
(あ……)
人が強引に私の前を横切り、間が空いてしまった。
その時だ。突然カズ君は振り返り私の右手をとった。
そのまま手をつなぐと何も言わず早足で歩き出す。強く握る手は熱くて少し汗ばんでいたけど、それはきっと私も同じだ。
こんな風に手をつなぐのは幼稚園以来だろうか。
その時と違ってカズ君の手は大きく、しっかりと私の手を包み込む。
懐かしさや安心感。その他にも色々な感情で胸が一杯になり、目が潤んできた。
一呼吸して私はカズ君の手をそっと握り返した。
カズ君はそれに反応して私の顔を見る。緊張していたのか表情は少し強張っていた。あの告白してくれた時のように。
でも私が笑いかけるとカズ君にも笑顔が戻る。
「もうちょっとゆっくり歩こうよ、カズ君」
「そうだね」
人をかき分ける様に突進んできたがようやくペースが落ちた。
屋台は行きにほぼ見てしままったので、ゆっくりしなくてもいい。しかしこのまま一緒に歩きたい、と思ったのだ。
「これなら離れないね。手を繋ぐのって久し振り」
「幼稚園以来だ。でもそれ以降も美紀ちゃんは一度手をとってくれた」
「そうだった?」
「野球チームでレギュラーに選ばれた時。でも僕は照れくさくて『汚れてるから』って、離しちゃったんだ」
思い出した。あの時私は、汚れなんて気にしないのにと思った。
そうか、カズ君は照れてたんだ。
ただあの頃の私はカズ君を異性として意識してなかったから手をとれたのだ。その温度差は申し訳なくてさすがに言えなかった。
丁度その時つなぐ手にまた少し力が入る。
「だけどまたこうして一緒に歩けるから、いいんだ」
「うん」
カズ君の言葉と笑顔を見たら心が軽くなった。
駅に着くと電車は出たばかりだったので、ベンチに座り待つ事にした。話しをしていたがカズ君は疲れが出てきたらしく眠そうにしている。
「カズ君、休んでて」
「でも」
「私は大丈夫。気にしないで」
「うん。ゴメン」
始めは遠慮してたカズ君も眠気には勝てないようで、やがてウトウトしだした。
時々身体が左右に揺れていが次第に私の方へ傾く。私はそっと肩を貸すと、そのまま頭を預けてきた。
(今日はありがとう。楽しかったよ)
もちろん後でちゃんと言うつもりだけど心の中で呟いた。
眠っているカズ君の体温と重みが心地よい。
私もほんの少しカズ君に寄り掛かかり、夜風を受けながら電車を待った。