12 夏祭り(1)
カズ君は毎日バイトと野球に忙しいけど、盆踊りの約束を守ってくれた。
私は浴衣を持っていなかったので、ワンピースを着て誕生日のペンダントをつける。
家を出るとカズ君は私のあげたTシャツを着てすでに待っていた。
「お待たせ、カズ君」
「う、うん。行こうか」
他の人から見れば普通のペンダントとTシャツだけど二人にとっては特別な物で、お互いに身に着けていると嬉しいけど照れてしまう。
会場の最寄り駅はすでに人で賑っていた。楽しげな音楽が大音量で流れ、何処からかいい匂いもする。
「やぁ、凄い人だねぇ」
「でも楽しそう」
「うん、楽しみだ。どう行けばいいのかな」
アーケード商店街を中心として屋台があり、それを抜けた先に盆踊り会場やイベント会場があるらしい。
「アーケードを往復すれば大体見られそうだよ」
「そうしようか」
駅のロータリーから屋台があり、すでにそこから盛り上がっている。アーケード入口から奥の方まで更に多くの人が歩いていた。
「はぐれないように気をつけないと」
「うん」
「こんなに人が多くてお店を見られるかな」
しかし一旦中に入ってしまえば、思ったより押し合うような事はなく普通に歩ける。それでもカズ君を見失わないように気をつけた。
途中で買ったアンズ飴を片手に、人の流れに合わせて屋台を見て歩く。
今までカズ君とはあまり暗くなって外を歩く機会がなく、こうして屋台を見ているだけでとても楽しい。カズ君も心なしかいつも以上に口数が多かった。
「ボールの的当てだ。やってみようか。何か狙うよ」
「期待してるからね、野球部さん」
結果は小さな犬のぬいぐるみを当てて私にくれた。
「夕飯食べた? 僕はまだなんだ」
「お仕事だったもんね。焼きそばなんてどうかな」
「いいね。それにしよう」
屋台の事だけでなく学校やバンド、アルバイトの話も尽きなかった。
考えてみたら、ゆっくり話しをする時間も久し振りだったかもしれない。
アーケードを抜けると近くの公園から特に賑やかな音楽が聴こえてきた。ここが盆踊り会場のようだ。
公園の中心では何の曲かは知らないけど色々な年代の人が踊っていて、小さい子供も上手だった。
「美紀ちゃん踊らないの?」
「カズ君が一緒に踊ってくれるなら」
「僕は全然知らないから……あ、1つだけ知ってる」
「そうね。あれなら散々練習させられたじゃない」
あれとは地元の町名を冠した音頭で、小学校の運動会で毎年必ず披露したものだ。
「全然覚えられなくて家でも特訓したよ」
「そういえば私も練習に付き合ったね」
忘れていたけど何となく思い出した。
「美紀ちゃんは一生懸命教えてくれるけど、僕は半泣きでさ」
カズ君はその時の事を懐かしむように目を細める。
「でも出来た時にすごく褒めてくれたのが嬉しかった」
そう言って私に向って微笑んだ。
「…………」
その頃の自分はお姉さんだと思っていたので、得意げに教えたのだろう。
恥ずかしくなった。