11 新たなバイト
西高の最寄り駅に『盆踊り大会』のポスターが張り出された。
私の住む町は小学校の校庭でこぢんまりと行なうが、こっちは商店街なども使った3日間もある大規模なものらしい。
「お祭に行ってみない?」
ある日、バンド練習の帰り道にカズ君が切り出した。
「うん、面白そう」
「何時にしようか」
「それじゃあね……」
まだ少し先だけど、とても楽しみだ。
8月に入ってすぐの事だった。
バンドの練習に顔を出した時、レイ君がお父さんと話しをしていた。
「手伝ってくれよ」
「手をケガしたらどうするんだ?」
「そんなに重いモンは持たせないから」
「米袋で軽いやつがあるのかよ」
「あの……」
おそるおそる声をかけたが話しが中断されたすきに、レイ君は出ていってしまった。
「ごめんなさい」
「いや、いいんだよ」
おじさんはいつもと同じ穏やかな口調で言う。
「人手が足らないんですか?」
一緒にいたカズ君が、おじさんに向って言った。
「そうなんだ。正さんがね……」
ますや商店は家族以外に働いている人が何人もいるのだが、そのうちの一人で昔からいる正木おじさんがギックリ腰になったという。
「1ヶ月位で復帰するから、その間だけなんて新しく来てくれるかな。う~ん」
おじさんは顎をさすりながら唸っていた。
「僕、お手伝いします」
カズ君は何のためらいもなく、おじさんに提案した。
「それはダメだよ」
おじさんは慌てて言った。
「いつもバンドでお世話になってますから」
「全然迷惑してないよ」
食い下がるカズ君に、おじさんは首をふる。
「それなら僕を雇って下さい」
カズ君は深く頭を下げた。
「カズ君……」
おじさんは困っている。
「人を探すなら僕が応募します」
「とにかく頭を上げてくれないかい?」
カズ君の表情はあくまでも真剣だった。
それを見たおじさんは目を閉じて考え込んでしまう。
「ご両親に話を通しておかないと」
しばらくした後、おじさんは目を開けて苦笑混じりに言った。
「それじゃあ……」
「よろしく頼むよ。ちゃんとお給料は出すからね」
こうしてカズ君は夏休み中、ますや商店でもアルバイトをする事になった。お給料は新聞配達と同じだけど、お昼を出してくれるそうだ。
この話しにレイ君は「ふーん」と言っただけだ。
「暑いね。大丈夫?」
私はカズ君と顔を合わせる度に声をかけた。
「大丈夫だよ。色々鍛えられるね」
仕事は倉庫で荷物を運んだり、近場へ自転車で配達したりしているという。
「配達先でも評判が良いのよ」
しばらくしておばあちゃんがカズ君の仕事ぶりをとても褒めていた。野球部仕込みのハキハキした受け答えが好感をもたれているらしい。
「レイ君は何か言ってません?」
「何も……でもあの子、お昼に顔を出すようになったの」
レイ君は休みになると昼夜逆転してお昼でも部屋から出てない時が多かったのだけど、カズ君がいると食卓につくという。その時は楽しげにたわいもない話をしているそうだ。
私より会う機会が多いようで、少し妬ける。