10 夏休み
バスケの夏季大会予選は初戦敗退だった。
試合内容は悪くないが勝たなければ仕方ない。夏休みは秋季大会に向けて練習だけになり『試合の夏』は呆気なく終わってしまった。
野球部は健闘して4回戦まで勝ち進んでいた。次はタカ兄ちゃんのいる学校と対戦で、私は応援のため野球場へ足を運んだ。
カズ君はまだベンチ入りしてなく応援席だった。
一方のタカ兄ちゃんはエースで、後半からの登板だ。今までの投手よりずっとスピードが早い。
西高はそれまでなら辛うじて塁に出ていたのに全然当らなくなってしまった。そして8回に点を入れられた後はそのまま0点に押さえられ、西高は負けてしまった。
名門高でエースになれる位だから、タカ兄ちゃんは相当な実力だ。
(このままずっと活躍出来るといいな)
以前のように胸が苦しくならず、純粋に応援する気持ちだった。
応援席からマウンドまでの距離のように、遠い存在になってしまったせいなのだろうか。
夏休みに入ると部活はあるものの時間な余裕は出来たので、やっとバンドの見学に行く事が出来た。
「容赦なく辛口批評だから」
レイ君は畑君と飯沼君に私の事をそう言った。
「お手柔らかに」
二人とも笑っている。
「素直に言えって言ったじゃない」
私はそう反論した。
しかし二人はバンド経験者なうえに今までも練習を積み重ねていたので心配は無く、コピー曲はかなり良い感じに仕上がっていた。録音したテープでもそう感じたのだから、実際はもっと良いはずだ。
オリジナル曲もようやく出来上がり、今日から練習するそうだ。
いつもならすぐ全体練習に入るのだけど今回は楽譜が遅くなったので、めずらしく個人練習の時間もとってあった。
「あぁ、そうじゃない。そこはもっと切り込むように」
「うん、分かった」
今はレイ君がピアノでメロディーを弾き、カズ君の歌い方や表現について厳しくチェックを入れている。カズ君は素直に応じて歌いなおしていた。
(自分の気持ちも、あれ位ハッキリ言ってくれたらいいのに)
レイ君は肝心な部分を話さないから抽象的過ぎて分からない事が多い。
あの曲の件もそうだ。何でも包み隠さず話してくれとは言わないが、話すからにはもう少し分かる様にしてくれればいいのに。
練習風景を見ながらそんな事を考えていた。
一通りボーカルのチェックを終えると、いつものようにバンド演奏に入る。私はまた前のように録音を担当する事になった。
録音開始を確認するとレイ君がカウントをとって演奏が始まった。
RIZEの新曲はまだ荒削りだけど、激しくも美しいメロディーはさすがレイ君が作っただけのことはある。カズ君の声が存分に生かされていて、とても良い曲だ。
オリジナル曲の完成がおしたので夏休み中のコンテスト出場は見送られ、RIZEのデビューは9月の文化祭になった。
「それでも結構ギリギリなんだよね。仕上がるかなぁ」
カズ君はそう言いながらも楽しんでいるようだ。