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明日のうたが聴こえる2  作者: 人見くぐい
10/59

09 記憶に残る曲

「バンドの新曲は聴けない?」

休憩中に質問した。

「う~ん……」

少し厳しい顔をしてレイ君は首を傾げた。

「いつかまた聴かせてね」

十分に聴かせて貰ったのだから無理をいうのは止めよう。

「そうしてくれ」

「じゃあ、前に聴かせてくれたピアノ曲は?」

「あれか……それなら」

2年前に作った曲を、すぐ思い当たったようだ。

「嬉しい。好きなんだ」

「そ、そう」

何故か焦っているレイ君が取り出した楽譜に、タイトルが見えた。

「DAHLIA? ダリアってお花の? 曲名ついてたんだ」

以前は無名だった気がする。

「…………」

レイ君の動きが一瞬止まったけどすぐに戻る。

「好きなの?」

「ん、そうだな」

「でもどっちかというとレイ君はバラって感じ。咥えてそう」

「どういうイメージだよ」

「えへへ……ダリアも綺麗だけどね」

確かにお家の花壇にはダリアが咲いていたが、曲名にするほど好きとは知らなかった。


レイ君はピアノに向かったけどすぐ弾かずに目を閉じている。

しばらくすると微かな声で呟く。

「……もう届かないけど」

それから目をゆっくり開けて演奏を始めた。

久し振りに聴いた曲は相変わらず素敵だ。しかし進んでいくと少し様子が違ってきた。

元々は繊細なガラス細工のように、温かさと涼やかさを両方感じる曲だった。しかし今は綺麗だけど、ただ冷たく音が響くだけだ。

演奏が終わった後、私は何も言えずにいた。

レイ君も唇をかみ締め下を向いたままだった。



6時を過ぎていたがまだ周りは明るい。それでも私が帰る時にレイ君は送ってくれた。

しかしあの演奏後からまたずっと黙ったままだ。

私の家の近くになってようやく口を開いた。

「コンクールなら落選だ」

そう言って、自虐的に笑った。

「それは……」

「美紀なら分かっただろ。あの演奏が、どうか」

「冷たくて凍えるよう。前とは違う演奏だった」

「もうあの曲を演奏する資格がない、って事」

「どうして? 今日は調子が悪かったんだよ」

「その前の演奏は?」

「……悪くなかった」

あの曲以外、どの曲も素晴らしかった。


丁度その時に家へ着いた。

私はレイ君と向かい合ったが、レイ君は目を合わせてくれない。

「演奏前に言った事と関係ある?」

「そうかもな」

「私にも届かないのかな」

「俺が手に取れないモノを、美紀にはあげられないみたいだ」

そこでやっとレイ君は顔を上げ、寂しげに微笑んだ。

「あの曲は忘れて欲しい」

「それは出来ないよ。やっぱり私はあの曲が好き。私の耳は覚えてるから……例えもう弾いてくれなくても」

「…………」

私はキッパリと答えた。それだけは譲れなかった。

レイ君は一瞬目を大きく見開いたが、すぐに伏せる。

結局それには答えを出さずにレイ君は背を向けた。

「バンドの曲はもうすぐ完成する。聴きに来たらいい」

そう言って歩き出した。

「うん、ありがとう」

レイ君の背中に呼び掛けると、振り返らなかったがレイ君は軽く右手をあげて応えた。

あの曲以外は聴かせてくれるらしい。


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