エピローグ
青い空に、火葬場からの煙が立ち上っては消えていく。海人は喪服のまま、その煙が見える場所で座り込んでいた。着慣れない服装が堅苦しい。指でネクタイを緩めてほっと息をつく。
彼女をまとった空気が、空に還る。見ていると涙が出そうになり、こぼれださないように顔を上に向ける。
「沙耶。君は僕の暁の女神だったんだ」
光をくれた。世界中を照らして暖めてくれた。
「そして白い山の魔女でもあった」
君は僕の全て。世界を一変させることのできる大きな存在。
「今もずっと、あの世界に君はいるんだよ?」
一緒に空に溶けたらいい。呟きも、この愛情も、君を呼ぶ声も。一人じゃないよ。いつまでもずっと一緒だよ。
かすんでいく視界に、願いを込める。
金木犀の季節になったら、毎年花を届けに行くよ。君のお墓に降りかけたら、あのときみたいに笑ってくれるかな。
「僕はあそこで生きるから」
君が見守る、あの世界で。だから頼むよ。
「ずっと、笑っていて」
言葉と共に、海人は歩き出す。歩みは徐々に力を増し、空に駆け出す仕草をした。そうして、彼の影は一瞬で消えた。
*
――物語を聞かせてあげよう。
この世界は暁の女神により光をもたらされた。けれど幸せばかりは続かない。世界は一度色を無くし、暗闇に包まれた。
けれど希望は消えなかった。暁の女神は立ち上がり、再びこの世界に色を戻したのだ。
ここはそんな、力強くて美しい、とても愛おしい世界だ。
子供たちよ。暁の女神が悲しまないように、この世界を大切に守って欲しい。
気持ちは必ず彼女に届く。人を殺めたり傷つけたりはせず、よい行いをして欲しい。人に優しくしよう。そうすれば笑いあえる。
世界を活かす殺すも、君たちの行い次第だ。
僕の大切な彼女が、いつまでも笑っていられるように。
【fin.】
これで完結になります。
最後まで読んでくださった方ありがとうございます。
もしよろしければ感想・ご指摘などいただけると勉強になります。