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色のない世界で・6

 目覚めた時、辺りは小さな花弁で一杯になっていた。俺はゆっくり体を起こした。眩みは今は無い。何が起こったのか、よく分からなかったが、目の前には白い扉がある。


 ここが、魔女の住む部屋なんだろうか。魔女は話を聞いてくれるか。仲間を返してくれるのか。考えでも仕方ない。何が何でも取り戻さなきゃ。


 俺は意を決して扉を開けた。最初は力がいったが、後は内側から押されるように勝手に開いていく。そしてその瞬間、色のついた小さな花が一斉に吹き荒れた。眩しさに目を細めると、見たこともないたくさんの色が流れるように風に乗っていく。


 風を受け流すために顔の前に組んだ腕を下ろそうとした時、俺は自分の腕に色がついているのを見た。慌てて周りを見渡すと、すべてのものに色がある。肌色、緑、赤、黄色、オレンジ……。


「……知ってる」


 これらの色を、俺は知ってる。知ってた。知らないと思い込んでいただけだったんだ。


 やがて、花びらの乱舞が収まり、目の前に広がるのは扉の先にある白い部屋と白いベッド。


「魔女……?」


 問いかけにも何も返事はない。その部屋には、誰もいなかった。


「どういうことなんだ?」

 

 これ以上先には何もない。その一部屋だけが山の景色にそぐわず存在する。俺の後ろにはこれまでの景色がある、けれど今までと違うことは色があること。遠くに見える町には黄色や緑に彩られた田園が広がっている。そして俺の足元には、地面に一面散らばるオレンジ色の金木犀の花。


「この色だ」


 思いだした、俺の目は。眩しい朝日の色。俺は、その色を持つ花弁を握り締めた。


「……希望の色だ」


 その瞬間、太陽が山の裾から顔を出した。光は何もかもを呑み込むように照らす。俺は眩しさに視界を奪われ、そのままその場に倒れこんだ。




 目覚めるとベッドの上だった。ルイが眉を八の字にして俺を覗きこんでいる。え? ルイ? 無事だったのか?


「ノゾム、起きた?」


「無事だったのか?」


 慌てて起き上がると、同じ部屋の中にはアキラもユウもいた。


「アキラ、ユウ」


「大丈夫か? ノゾム」


「どうして……」


 消えた皆が戻ってきたんだ? 失われた色がなぜ戻ってきた?


「どうしてでもいいじゃん。皆無事でよかったね!」


 ユウがいつもの調子で笑う。


「見ろよ。お前の仕事だ」


 アキラは俺の背中に手を回し、立ち上がらせてくれた。そのまま窓辺まで歩く。世界には色がもどっていた、すべてが生き生きと光り輝いている。


「御苦労だったね。ノゾム」


「カイト様」


 いつの間に現れたのか。カイト様が寂しそうな顔で笑っていた。


「色、……俺が取り戻したんですか?」


「さあ、分からないけれど、この世界には色が戻った」


「あの、俺、魔女の住みかでこれを見たんです」


 手の中には、あの時握り締めた金木犀の花が残っていた。強く握っていたからか、色あせている。


「これは?」


「魔女の山は雪の山じゃなかったんです。一面を金木犀の花に覆われた山だったんです。部屋の扉を開けた時、これが吹き荒れながら出てきたんです」


「金木犀……」


 カイト様は、その小さな花びらを手に握りしめた。


「ノゾム、……魔女は、どうしていた?」


 そのすがるような声色に俺は驚いた。こんなに頼りなさそうな人だっただろうか。いつも堂々としていたと思っていたのに。


「いませんでした」


「え?」


「魔女は、どこにもいませんでした」


「……そうか」


 カイト様は、そう呟いて空を見上げる。窓の外の空は青く澄んで、太陽の光はすべてを眩しく照らす。

家の軒先に植えられた花は赤、ピンク、黄色とにぎやかに彩を添えている。


「カイト様」


 ルイが、寂しそうな顔をしてその顔を覗き込んだ。


「……泣いてるんですか?」


 光に包まれた世界は、生きる力で満ち溢れている。モノクロームの世界は、もうどこにもない。






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