プロローグ
伝説を教えてあげよう。
ここは、かつて暁の女神により光をもたらされたそれはそれは美しい世界だった。
春はピンク、オレンジ、黄色、白の多彩な美しい花々が野原を彩る。
夏は青々とした緑が茂り、木漏れ日が地面で揺れる。
秋は木の葉が色づき、赤や黄色のそれが大地をも覆う。
冬は雪だ。世界を塗り替えるような白は、すべての色を包み込む。
そして再びくる芽吹きの春を、静かに待っているのだ。
しかし、ある日世界は変わる。
天にも届くかと思えるほど空に向かってそびえたつ雪の山に、とある魔女が住み着いた。
そして世界に呪いをかけた。
すべての色が失われ、世界は白黒に覆われる。
太陽が昇り光が当たっても、全体が白みを帯び、広がる景色はグレーへと変化するのみ。
夜を迎えればすべてが黒の闇に閉ざされ、人は室内に篭り、ランプの白さに希望を得る。
そうして、いつしか色の存在を忘れるほどの年月が経ってしまった。
魔女がどうして呪いをかけたのか。本当に魔女がしたことなのか。
真偽のほどはわからない。誰も、正しいことは知らないんだ。
でもね。この世界から美しい色が失われたことだけは真実なんだよ。