第三回投稿分 第六話 思い描く理想の遊び方
ヴェンディル西の草原。ここは普通の薬草に加えて特殊な薬草――魔法薬の素材となる、霊草と呼ばれる魔法の植物が生えており、また案内板情報によれば坑道方面……すなわち生産職が素材を集めるにはもってこいの場所があるのだとか。
そんな場所にホーリは来ていた。
理由は簡単、このエリアにあるクエストアイテムの『癒し草』を入手するためだ。
NPCいわく、癒し草は西の草原のとある一角を群生地としているらしいが、フィールドに生えている草は草を採集するための、知識を伴った技能を要するのだとか。
植物採集技能というガイドラインがなくても採集はできなくはない。が、知識を伴わないそれはただの雑草むしりと同然らしい。
「とはいったものの、まずは植物の知識をレベル上げしないといけないなんてな」
そう。癒し草採集には名前やNPCの話から聞くに、植物の知識が必要である。
『ただ採集すればいいわけではありません。きちんとある程度の知識を蓄えて、その蓄えた知識を活用して、どの部分が大切かということを確認してから採集するようにしてください。ただ無造作に採集したのでは雑草同然ですよ』
というのはNPCの話だ。
フィールドに生えている草は植物採集技能がなければきちんとした素材アイテムにはならない。これは、適切な部分を採集しなければ雑草になる、ということだろう。
この条件を満たしていない状態で草を採取しようとした場合、必ず『雑草』となってしまうようで、試しに『癒し草』を見つけて採集しても、『採集技能がないのでどの部分が有用かわからない』と表示された挙げ句、ただの『雑草』になってしまった。
そして、役に立つ部分が含まれていようとそこはやはりゲームである。システムが黒と言えば白でも黒となってしまう。この場合、一度雑草となってしまえば、それはいかなる方法をもってしても『雑草』から変わらないのだ。
かなしいかな、これが未識別アイテムであれば助かるのだろうが、『雑草』は明らかに未識別アイテムではない。
採集技能というガイドラインがないと、まったく話にならないのが『採集』なのだ。
「……ん!? 『麻痺呪詛草』!? 麻痺の呪詛の触媒ィ!? おいおい……こんなのも生えてるのかよ……」
と、ときどき薬草の群生地で意外な(?)発見をすることもあるが、実質草原であるために識別対象に困ることはなく。
ホーリはこつこつと、しかし着実に植物の知識のレベルを上げていった。
それから二十分ほどたった頃だろうか。
「それにしてもいろいろあるなぁ」とか、「これはどんな薬になるんだろうなぁ」などと思いつつも地味ながら意外と面白味のある作業をしていると、
「おや? 先客がいたか」
「ん?」
不意にそんな言葉が聞こえてきた。
「……ん? 先客って、俺が?」
驚いて顔をあげると、そこにいたのは青みがかった銀髪にマリンブルーの瞳という、奇抜な配色をした少女だった。
「えぇ、そうよ。君以外に誰がいる? あ、ちなみに私はβテスターで、恐らくすべてのβテスター中一番セオリーから逸脱したプレイをした経験があってね~……。今日ここに来たのも、『儀式魔法』で使用する魔法陣のアイテムを作成する材料集めが目的なんだよ」
「はぁ……魔法陣……」
突如現れた謎のプレイヤーに戸惑いながら、ホーリはなんとか返答を返し、そしてふと疑問に思った。
なにも聞いてもいないのにベラベラと自身のことを語った少女。今、気になることが二つほどあった。
一つ目は儀式魔法、という単語だ。
言葉から察するにそれは、何らかの儀式をもって発動する魔法のことだろう。そのガイドラインの存在にはうすうす勘づいていた。先程、草原で戦闘中だった少女たちのうちの一人が、『魔法陣が切れた』と叫んでいたのだから。だが、詠唱魔法とそれとの違いはなんなのか、という疑問がそこででてくる。
例え結果が同じでも、過程が違うならば双方にメリットデメリットが出てくる。ホーリにとってはあまり意味のない疑問だが、気にならないかと言えば嘘になる。
そして二つ目は……むろん、この場所で材料集めというからには、当然『ある』のだろう。フィールドに生えている野草などの、植物アイテムを採取するためのガイドライン、『植物採集技能』というガイドラインを。
ゲームが始まってまだ二日目。植物の知識などという一見無駄なガイドラインを取得するプレイヤーはそうそういないだろう。にもかかわらず、そのガイドラインの派生ガイドラインに該当するガイドラインを持っているということは、βテスターであるという少女の宣言が本当ならば、この少女はβテストのときに、かなり特殊なプレイをしていたのだろうことが予想できる。
ならば、自身の今のガイドライン構成を見て、どのような反応を示すのか。ホーリの好奇心が、若干ながら刺激された瞬間だった。
とりあえずは軽く挨拶を交わし、作業に戻って識別をしながら、少女の様子をうかがってみる。
少女は、「気にしないで続けてて」と辞すると、自らもまたホーリからあまり距離をとらずにしゃがみこみ、付近の野草を識別する、という単調な作業を始めた。たまに目的となる草が見つかったのか、躊躇いもなく草を引き抜くこともあるが。
しかし、とその引き抜く光景を見て、ホーリは思う。
傍目から見ればそれは、植物採集技能を持っていない自分が、先程試しに採取したときとあまり代わり映えしない様子だった。
本当に採集できているのか、と気になって自身の作業が遅れていることに気づくと、慌てて戻ったが。
そうして概ね十分くらい経った頃だろうか。
不意に、少女の方から声がかけられた。
「ねぇ」
「ん?」
「君は……どんなプレイヤー目指してるの?」
「えぇ? っと、どんなプレイヤーになりたいかって言われても……」
あまりに突拍子のない問いかけに、ホーリは思わず吹き出した。
予期していなかった、というより話しかけられること自体予想の範疇を越えていたことだったので、どう答えればいいのかわからない。
ホーリ自身、『こういうゲームプレイをしたい』と思っているわけでもなし。あらかじめ初期取得候補として決めていたガイドラインもない。
そもそも、『夢幻時空オンライン』のような、ほとんどプレイヤーの好きなようにプレイヤーキャラの成長傾向を決めることができるゲームなど、始めての試みだったのだから、どんなプレイヤーになりたいか、などという質問に答えることのできる回答は、まだだせない。
結論、ホーリは少女の方に向き直ると、こう答えた。
「いや……考えたことないな……。そもそも、RPG自体が初心者だし、夢幻時空オンラインの成長システムは事前に君と同じくβテスターだった妹から聞いていたけど、それでも初めてのMMOがこんなに自由性高いとは思わなかったからさ。未だに……方針は決まってないんだ」
「ふーん……」
少女は数秒間、考えるようなそぶりを見せると、こんなことを返してきた。
「じゃあ……もしかして、ガイドライン設定もおすすめ詰め合わせで?」
「あぁ。『道具の知識』に『武術』、『製作』と役に立つのか立たないのかわからんものが三つある」
ただ、そんな訳のわからなさそうなガイドラインの集まりと言えるキャラクター構成でも変えないのは、それらがどうなるかわからないからだが。
なぎさいわく、このゲームは意外性に集約される――それはつまり、一見して用途不明なガイドラインでも、のちに驚異的な激変を遂げるかもしれない、ということだからだ。
「ん~? んー、まぁ、最近のRPGの常識がことごとく覆されるゲームだからね~、夢幻って。まぁ、私の知る限りでは~……その三つのなかでは製作が最有力かなぁ」
「え? とったことあるんでせうか?」
「うん、あるよあるよー? 事実今持ってるもん」
製作スキルはどんなものかわからない。他に生産系のものがあるのか、またそれを実行する過程で必要になるのか。それらすら不明なため、どんなガイドラインなのか、所有しているホーリとしては知っておきたいところだった。
「ど、どんなガイドラインなんだ、いったい」
だからか、気付いたら詰め寄るような感じで少女に問いかけていた。
「おぉう、がっつくねぇきみ。よっぽひどい構成なのかな?」
「う、いや……残りの二つは化学と魔法薬の知識なんだけど……」
「ふんふん……。そりゃ確かに、ひどいねぇ。今すぐ単体で攻略に役立つようなガイドライン、武術くらいじゃない。しかもそれ微妙なガイドラインとして不遇になってるやつだし」
痛いところを突かれ、言わないでくれ、と批難すると、少女はごめんごめん、と苦笑しながら謝罪をする。
そして、製作ガイドラインの説明をし始めた。
「製作ガイドラインって言うのはね、一度マニュアル動作で作ったアイテムをレシピとして保存するガイドラインなの。んで、レシピとして保存されたものはそれ以降、スキルの『生産系>製作』ってところから簡単に自動作成できるようになるのね。んで、特筆すべきはその汎用性で、例えば薬品系アイテムがなくてもレシピとして保存できることなの」
それを聞いて、おぉ、それはいいかもしれない、と何となくだがそう思えたホーリ。事実、マニュアル動作――手作業で行ってもアイテムの作成はできることがわかったことだけでも有用な情報が聞けた上に、一度手作業で作成してしまえば、あとは簡単作業で作りたいアイテムを作れてしまうのだ。
そしてそれらの情報ははつまり、そういったガイドラインで取得できるようなスキルがなくても、普通に生産はできる、ということを示す。
じゃあ、もしかしたらじきに回復アイテムの生産職プレイヤーになれるかも、と思っていると、
「あぁ、そうそう。回復アイテムでもうけよう、って言う方法があるね。私的見解としては、じきに化学の知識と魔法薬知識の重要性はBBS通じて出回る……そうなれば、薬品や魔法薬系のアイテム生産できるガイドラインにたどり着くプレイヤーも、相当数増えるはずなんだけど……」
という意見と、それに対する見解が言葉を発する前に出された。
心読むな、ありっていいながら内容がむちゃくちゃだとホーリが内心で叫んでいるのをよそに、少女はさらに言葉を続ける。
「だけど、私は君だからこそ、ありだと思う。君のガイドライン構成なら、ありだとおもう。だって、一度治療魔法薬を作ってしまえばあとは製作スキルで簡単に作れる。そして、直に『魔法薬研究・開発』ガイドラインにたどり着くでしょうね。その『魔法薬研究・開発』ガイドラインレベルが高ければ高いほど、作ったアイテムのランクが高くなって、同じアイテムでも効果の高いアイテムができる……。それでも価格戦争は免れないと思うんだけどね……」
そして、そこで一旦言葉をきった。ホーリの様子をうかがうところを見ると、きちんと話についてこれているかを確かめているのだろう。
その肝心のホーリはというと、そのなかに出てきた、一つの言葉にピクリと反応していた。
「価格戦争、か」
そう、価格戦争、である。
同業者が増えれば、当然顧客の独占はできなくなる。現実でもそれは難しいことであるが、しかし少女はそれでも薬品系アイテムの生産職はホーリであればこそ、それはありだ、という。
「安くて、効果が高い。そういうアイテム売ってる店に集客力があるのは確実。当たり前だよね。したての人とベテランさんじゃあ、手抜きしない限り絶対にベテランさんに軍配が上がるもの。きみは私というβテスターと出合い、情報という大きなアドバンテージを得た。見たところ、どういう事情かは知らないけど『植物採集技能』を取得しようともしている。今、きみはまさに、生産職への道が開けているのさ」
有無を言わさないような真剣な目付きで続ける少女に、思わず聞き入っていたが、話が終わるのに気づくと顎にてを当てて、ふんふんと少女の話を吟味し出した。
そして、しばらくして、顔をあげた。
その顔は、心なしか幾分スッキリした顔になっていた。
「まぁ、レシピとかその辺は、自分で探してほしいからあえて教えないけど、『技能』手にいれたら調合器材買って色々試してみ? 失敗しても、しばらくすれば結果はガイドライン取得っていう形で必ず返ってくるから」
「……なるほどな。かなり参考になったよ。ありがとうな、えっと……」
「あ、レーリリアって呼んで」
「あ、うん。レーリリアのお陰で、とりあえず今のでガイドライン構成を踏まえたプレイ方針が決めやすくなりそうだ。ありがとな、レーリリア……」
ホーリが面と向かって謝礼をすれば、少女は熟れたトマトのように赤くなって、
「あ、いや……もともとは正式配信二日目でこんなとこに来る君が気になったから聞いて見たっていう、私の単なる好奇心だし、ね……。お礼言われるよーなことでも……」
と慌てて辞した。
ホーリはゆっくり首を振り、さらに礼を言う。
「いや。それでも、だよ。レーリリアが俺のガイドライン構成を踏まえて、アドバイスをしれくれてなかったら、きっともっと悩んで、現実でも身の入らない生活になってたと思う。だから、言わせてくれ。ありがとう……」
事実、自身はどうすべきか、この仮想世界でどのように生きていくのか、と悩んでいる状態では、宿題にも身が入らず、はかどらなくなっていたことだろう。
学生が本業なのにそれでは本末転倒過ぎる。
赤い顔のまま、「大袈裟だよぅ」とか細く呟く少女を見ながら、ホーリは再び作業を開始した。
それから十分ほど経ち、ようやっとホーリの植物の知識に目に見えた変化が訪れた。
「お。どうやら植物の知識もレベルが上がってきたみたいだ。一つ前に識別したやつより詳しくなったぞ」
実は途中からレーリリアと話ながらその辺の草を識別し続けていたホーリ。途中から手元がお留守になってはいたが、それでもきちんと熟練度は相当たまっていたらしい。
さらにここ十分の間は手元を留守にした遅れを取り戻そうと作業速度を可能な限りあげたこともあったかもしれない。
「おー、おめでとさーん。ちなみにどんな感じになったのかな? ちょっと識別結果を聞かせてみそ」
レーリリアに促されるまま、ホーリは現在表示されている野草の識別結果を読み上げた。
「『マンドラゴラ ナス科マンドラゴラ属
ナス科の植物。根の部分は猛毒。体内に取り込むと幻覚や幻聴などの症状を引き起こす』だって」
「うんうん、それくらいならレベル5には到達しているはずだよ。もう草むしってもなにも問題ないはずだよ」
その確信めいたレーリリアの言葉に本当かとガイドライン画面を見てみれば、そこには確かに『植物の知識:レベル5』と表示されており、さらに一番下に『New!!植物採集技能』と、点滅アニメーションつきで項目が追加されていた。
それにタップしてそのガイドラインの情報を見てみると、
『植物採集技能:行動制限解除
植物の知識を生かし、植物の有用な部分を採集できる。このガイドラインがないと、植物を採集してもどこが有用なのか判断できず、雑草も同然になってしまう』
とある。
これで、ほぼレーリリアのいっていることが立証された、ということになる。
「うん、本当だ。確かに植物採集技能ってあったよ」
「そうでしょう? これで君も回復アイテムは自給自足できるね」
「……あぁ」
ホーリは一度うなずくと、
「まぁ、自給自足云々はともかく、今はここへきた目的を果たすことにするよ」
そういって、再び地面とにらめっこをし始めた。
ただ、先程と違うのは、先程は植物の知識を高めるためにただ識別しまくっていたの対し、今度は数あるや草の中から『癒し草』を見つけ出すという作業であるということ。
ここには癒し草が至るところに生えているものの、他の草も当然生えている。少し面倒だ。
そこで不意にホーリはレーリリアをチラ見し、そう言えば、とレーリリアと会ってから今までの彼女の動きを思い返してみた。
レーリリアは確かにここに、『魔法陣』の素材を取りに来た、と言っていた。だが、彼女は植物を識別するようなしぐさを示すことなく、それらしき草を見るなりいきなり引っこ抜いてしまう。まるでその草こそが目的の品、と言わんばかりに。
ただ、途中で何度かメニューを操作するような動作こそしたが、『草にただ触わる』という行為はせず、ただひたすら引き抜くだけ。識別するにはその『ただ単に触れる』という行為が必須なのに、だ。
「……識別しなくてもわかるのか?」
気づけば、その疑問は言葉として口から出ていた。
それほど大きな声ではなかったはずだが、しかしその言葉は若干離れた位置にいるレーリリアには聞こえたらしい。
「わかるよー?」
彼女はただ一声でそう答えると、一度その手を止めて、ホーリに振り向いた。
「まぁ、君がそう思うのも無理ないけど……植物の知識って便利でね。採集技能の取得と同時に『植物探知』っていうスキルが追加されてね。一度識別したものならその『植物探知』で見つけ出せるの。現実でもさ、採取したい植物を探すときはそれらしい植物を探すことから始めるでしょ? 場合によっては図鑑片手に持って」
そういわれて、そういえばとホーリは考えを改める。現実でも確かに、野草やら山菜やらには目的とする植物やそれに近いものを探すところから始める。
「じゃあつまり、採集技能あるなら……」
「いちいち『識別』スキル使って見つけるよりも時間的に得だね」
そういいながらレーリリアは再びキョロキョロと地面を見渡しては若干移動し、おもむろにしゃがんでは手際よく草を引き抜く。
ホーリもそれに倣うべく、スキル画面から『植物探知』を選択してみた。
すると――
「お。なるほど、こういう風に表示されるのか……」
恐らくそれが癒し草なのだろう、一部の草だけが赤く染まり、カーソルが点滅表示された。一目でこれだとわかる。
ひとまずそれを採取する前にクエスト画面を開き、必要数を確認した。
「ん……とりあえずまずは十本か……」
幸い、今いるエリアは癒し草がその半数以上を占めているので、集めるのはそう難しいことではない。
五分とかかることなく、クエスト納品分を集め終わった。
(……よし。癒し草10個、完了……)
目的を達したのならもう今はここにいる必要はない。さっさと町に帰ろう。
そう思い、立ち上がるといつの間にかレーリリアが至近距離に来ていた。
「お帰りかな?」
「あぁ。クエスト納品分集め終わったからな」
「へぇ……君、初めて二日目なのにもうクエスト見つけたんだ」
「まぁね。……ところでレーリリアさんは?」
「私はもう少し採集してから帰るよ」
そう言って、レーリリアは再びホーリから離れていった。
ホーリも早く初めてのクエストの報酬を手に入れたくなり、若干急ぎ足で街へと戻った。
クエストを受けた店にホーリが入ると、店員はちょうど品出しをしているところであった。時刻にして、四時。西陽が眩しく照り、ピークを超えてなお暑いこの時間。ゲームのなかでもその再現がされているため、外はすごく暑い。
だが、店のなかは天井に描かれた魔法陣が空調の設備になっているのか、割りと涼しい空気が上から吹き付けてくる。
カウンターの向こう側で品出しをしている店員話しかけるべくカウンターに近づく。
すると、カウンターに背を向けて品出しをしている店員が振り向き、お決まりの挨拶をかけてきた。
「いらっしゃいませ」
「さっき癒し草の採集を頼まれたものですが」
ホーリは手短に来店理由を告げ、癒し草十個をインベントリから取り出してカウンターに置く。
「依頼された量を採ってきましたのでお渡しします」
店員NPCはこれを見て、
「ありがとうございます。これで少しは品揃えがなんとかなります」
と若干興奮気味でホーリに詰め寄った。
「そうですか。それはよかったです」
「はい。では、お約束の報酬をお渡ししますので、癒し草をいただいてもよろしいでしょうか」
店員のその言葉とともに開く、イベント用のトレードウインドウ。
ホーリが内容を確かめると、受け取り欄にはすでに報酬が表示されていた。
「こ……これは……」
その内容に、ホーリは一瞬、戸惑いを感じた。薬草採取のクエストが、ここまで高い報酬とは思っていなかったからだ。
トレードウインドウ。その受け取り欄には、こうリストアップされていた。
『魔法薬のレシピブック第一巻』『薬剤のレシピブック第一巻』が一冊ずつ、『携行用魔法触媒調合器具』『携行用製薬器具』が一セット、そして『空きビン』が二十本。とても薬草を集めてくるだけではあり得ないクエスト報酬だ。
だが、クエスト条件を思い出すと、あながちこれでも過剰ではないか、とホーリは納得もする。これはゲーム全体を通して一回しか受けられない、いわば『オンリークエスト』なのだから。
だが、これでホーリは誰よりも進んだプレイヤーになることには間違いない。
ホーリは一瞬、そのプレッシャーを恐れ、躊躇うかのように手をさまよわせたが、ごくりと唾を飲み込むと意を決したかのように癒し草をトレードウインドウに乗せた。




