表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻時空オンライン  作者: シュナじろう
stage0:TUTORIAL
7/12

第二回投稿分 第五話 始めての……

 午後。

 今日は彩希がおらず、聖也一人でゲームを攻略しなければならない。

 一応、ヴェンディリア山道以外の入門者向けエリアを、彩希から教わっている。が、先立つものがないために、回復アイテムすらも購入できないので、その入門者向けエリアでも、かなり厳しいだろう。

 なにかキャラ育成にうまい手はないものか、と昼食を取りながら考えていると、

「ごちそうさま。んっんー、食べた食べた……」

「ん、俺もごちそっさん」

「二人とも、お粗末様」

 すでに最後の一口になっていた。

 彩希はさすがは経験者、健康管理のためなのだろう。すぐには夢幻へダイブインせず、しばらくはリビングで過ごすようである。

「約束って何時なんだ?」

「一時半だね。今一時だから、十五分くらい食休みしてからダイブインするつもり」

「そうか……」

 彩希の回答を流しつつ、ホーリはどうすべきかと考える。

 モンスターと戦いにいくのは論外である。昨日の経験からいくと、例え回復アイテムを固定、あるいはほぼ固定といえる確率で落とすモンスターと戦ったといえ、それがまともな回復アイテムであるとは言い切れない。万が一、まともな回復アイテムが手に入らなかったとして、無駄に(・・・)ならない(・・・・)程度(・・)には持っておく必要がある。少なくとも、回復アイテム作れるようになるまでは。

「さて……どうすれば……」

 と、ホーリがそんな感じて悩んでいると、突然現れた。

「んー? 少年、君はなーにを悩んでいるのかなぁ?」

 不思議な雰囲気を持つ聖也の親の片割れ、西丘なぎさが、聖也を胸に抱き込むような感じで。

 ――実は、いつもこうなのだ。聖也や彩希が悩んでいると、気配を消して、突如何処からともなく抱きついてくる。背後からとか、そんな定位置が決まっていないのだ。

 当然、予期していなかった出来事で、しかも実の母親とはいえど過剰なスキンシップには辟易している聖也としては、

「ぷはぁ! か、母さん! いきなり抱きついてくんなって、いつも言ってんだろー? 暑苦しいから」

 と全力で引き剥がしにかかるのも無理はない話だった。

「また寂しいこと言ってくれちゃって。せっかくGMからのありがたーいイベント情報をあげようと思ったのに」

 だが、そこは聖也と彩希の母。しかも、二人(とくに彩希)が熱くなっているゲームのGMときていれば、その扱い方も弁えきっているものである。

 当然聖也は、

「興味なし」

 断った。即答で。完膚なきまでに、いっそのこと、

「んー、それはそれでなんか清々しいわね。そこまで否定されると」

 と、本来悲しむ側の、善意を否定された方まで清々しさを感じるほどに。

「えー、なんでよー! お兄ちゃん、公平な立場を頑なに貫こうとしているGMからの、ありがたーい助言なんだよ! 何で聞かないのよ!?」

「いや、だからこそだよ。GMだからこそだ。母さん、そういうのはあまりしちゃよくないって。自分達の力で、純粋にゲームをやっている人たちがいるなかでさ。GMの家族だけが、とっても有益な情報をGM本人から聞くなんて、不公平にも程がある。純粋に楽しんでいるプレイヤーのみんなに失礼だ!」

 正論である。情報には絶対的な鮮度がある。集められるときに集めてこそ、意味のあるものだ。それにも、一理ある。が、やっていいことといけないことのボーダーラインくらいは、わきまえるべきだろう。

 正当にゲームを進めているプレイヤーがいるなかで、ただ一人、GMに答えを聞くという行為に走るなど、卑怯にも程がある行為だ。

 最初こそ、もてはやされることもあるだろうが、いつかは手痛いしっぺ返しが来ることだろう。

 甘やかすGM(ははおや)GM(ははおや)だが。

「あらあらあら、いっちょまえにもう……熱血漢なんだから。誰に似たのかしら」

 聖也は知るかそんなこと、と言いながら、

「まぁ、わからないことは彩希に聞くよ」

「あはは。お兄ちゃんらしいなぁ」

 今度は妹に即答でそう言われ、少し照れ臭くなった。

「ま、確かに腐敗劣化があるお陰で、買いだめによる回復手段の確立は図りづらいし……そもそもまだ先立つものがないし。唯一の救いは、死に戻りでもペナルティなし、かつ直前の状況に応じた経験値とかが手に入ることかなぁ」

「そうなのか?」

 聖也が彩希に問いかける。が、それに答えたのはなぎさであった。

「そうなのよ。運営陣の私が言うのもなんだけど。ほら、夢幻ってさ、私たちが用意しておいた盲点に気づかない限りは、特に初心者の回復手段に関してものすごく厳しいでしょう? で、万が一死亡したとしても、そんな鬼畜システムがある上に死に戻りのペナルティもありじゃ、やってられないだろうから、死に戻りの場合には相応の救済措置を設定してるわけ。もちろん、精神衛生上は敵にやられない方がいいんだけどね」

 なら万が一のことが起きても、損だけはしないのだな、と理解しつつ、しかしと聖也は続ける。

「あー、でもなぁ。それにしたって、魔法職じゃない限りは厳しいにもほどがあるって」

「……うん、それは言えてる。てか、結局、この点についてはβテストの時にさんざん指摘があって、結局は『よく考えて調整をする』っていう回答があっただけで、なにもされてないし」

 思わぬ事実。

 それがぴたりとあう情報を聞いて、聖也は思わず母親をジト目で見る。

 それを受けたなぎさは、

「失礼ね、きちんと手は打ってるわよ。まぁ、打った手のうち一つは、半日ごとの自動更新だから、時間帯が悪いとその修正点を利用するのは無理ね」

 と説明が入った。

「しかし、だとすると色々序盤の回復手段は用意されているけど、確実な手段と言えるそれは見つかってないだけで、探せばあるってことか……」

「そうよ。だれも見つけないだけ。まぁ、要は意図的な盲点に気づかないプレイヤーの責任ね。公式情報にきちんと書いてあるでしょう? 『このゲームはつくづくあなたの先入観を裏切ります。どうか現実を忘れないでください』って。なにもスキルがなければアイテムを作れない、なんてことはないのにね。ま、立場無視して言っちゃうけど、回復アイテムの素材採集のためのヒントが、先着一名様限定で最初の町のなかにあるから、よかったら探してみたら?」

 そういうと、なぎさはさっさと台所へと引き上げてしまった。恐らくは昼食の片付けをするのだろう。

 結局ヒント残していくのな、と心のなかで愚痴っていると、今度は彩希が立ち上がった。

「……じゃ、私はもうそろそろダイブするから。ごめんね、今回はあまり力に慣れなくて」

「あぁ。心配しなくてもいい。……取り敢えず、少し考えてから俺もダイブインするよ」

 それから一言二言交わして、聖也と彩希は別れた。

 その数分後。聖也はリビングで考えをまとめると、自身も彩希に続いてダイブインをした。


   >≫DIVE-IN...


 ヴィンデルの街東門からでたホーリは、やはり山の敵に慣れることから始めようと考えていた。

 理由は、アヤの情報を疑うわけではないが、山に一度潜り、中途半端に探索を打ち切ってしまった以上、再度挑戦したいと思ったからである。

 しかしホーリはすぐに山道へといこうとはせずに、まずは昨日の戦闘でステータスになにか変化が起きたか否かを知るべく、ステータスを確認することにした。

 もっとも、戦闘行為は昨日夜に一回行った程度。あまり代わりばえはしていないだろう、という諦観がかなりこもっているが。

「……って、なんだこれ」

 ステータス画面に表記されているのは、総合レベルとLP、MP、あまりゲームに左右しないらしいステータスではあるが、微妙にダメージを左右する基礎攻撃力と基礎防御力。そして、最後に簡単なガイドライン情報が乗っているらしいのだが。

 昨日見たガイドライン画面の情報と、今のステータス画面に表示されている情報に、若干だが確かに差異が生じている。

 その内容は、


ホーリ 男性 レベル1

現在エリア:ヴェンディル・stage1-1、スターティング広場

LP 100/100

MP 85/85

~中略~

グロースガイドライン

道具の知識:レベル1

魔法薬の知識:レベル3

化学の知識:レベル2

製作:レベル1

武術:レベル3


「……いや、なんつーか、ガイドラインのレベル上がりすぎじゃね? まだほとんどなんもしてないのに」

 数値だけ見ればホーリの言うことももっともだが、実際にはこれが普通だったりする。そもそもが始めたばかりなので、レベルアップに必要な熟練度が少なくてすむ。それこそ、知識系でいけば、アイテムの識別を、片手で数える程度の回数を重ねるだけでレベルアップするほどに。

 ホーリはもともとゲーム攻略に際し、ある程度の公式情報は持っていた。主に親から聞いた内容だが、いわく、ガイドラインのレベルはガイドラインに沿った行動で上がるというのも、その中の一つである。

 知識系ガイドラインはいうまでもなく、その知識を有効活用したり、新たな知識を会得する度に熟練度が上がる。つまるところ、識別した結果未知のアイテム入手に至った場合は、追加ボーナスの熟練度がもらえるのである。

 武術系ガイドラインは無論、そのガイドラインに沿った戦闘行為で熟練度が上昇する。そしてその戦闘行為で敵を倒せば、追加ボーナスの熟練度が入り、格上の敵と戦うとさらに追加でボーナスが加わるのだが。

 昨日の戦闘では三つある通常の入手方法のうち、二つしか熟練度入手条件を満たしていないため、このレベルには若干疑問が残るものだった。

 しかし、とここでホーリは考える。確か、もう一つ、熟練度を左右する要素があったではないか、と。

「……もしかすると、これ、『火縄式コルク銃』のせいか?」

 昨日、山道に入る前に、火縄式コルク銃の特性を見ていたホーリは、これしかない思い当たる要素をポツリと呟いた。

 そう、武器による熟練度入手量補正である。

 武器には取扱い難度というものが1から5の五段階で、設けられており、その扱いやすさによって0.75倍から2倍といった感じで倍率が決められている。

 火縄式コルク銃の難度は4。すなわち1.5倍。さらには、特性として『リロードすると熟練度を入手』というものもであった。

 それがどの程度かは図りかねるが、少なくともその後押しがあって、レベルが2も上がっていることには間違いなさそうだ、とホーリは解釈した。


 さて。

 ステータス画面をひとしきり見終わると、準備は万端と言わんばかりに、平原へ足を踏み出した。


 そして数分後。

「はぁ、はぁ、回復お願い!」

「わかった! ってまずい! 魔法陣が切れた! 少し待ってて!」

「まじで!? きゃっ……」

「ファイアシュート!」

「ブフォ…………ッ!?」

 ヴェンディリア山道北……ではなく、ヴェンディル東の平原で、とある三人に少女達が、大きな猪のモンスター・ビッグボアと戦っていた。

 が、よほど強いのか、じり貧ですでに全滅寸前だ。

 そんな光景を、ホーリはただジーっと傍観していた。

 最初、彼は平原に出て、ただのんびりと歩いていただけだった。

 だが、平原に出て暫く歩くと、くだんのとあるパーティ、三人の少女が大きい猪のモンスターと戦っているのが見えたのだ。

 他人が戦っているエネミーを横やりを入れて倒すのはマナー違反だ。

 よって、若干迂回ぎみに歩きつつ、

 ――平原にエネミーなんていたのか?

 などと考えながら傍観しているのだ。

 暫くの間、かなり苦しそうな雰囲気がして、助けに入ろうか否かかなり悩んではいたが、下手に入って、厄介事になったら困るな、と結論を出して、傍観しながら歩くことに決めた。

 そして、ついにその戦闘域から抜けようかというところで、重い足音が聞こえて振り向いた。

 すると、後ろには……。

「うぉ!? こっちに来た!?」

 少女達のうちの一人がかわした猪が、ホーリの方へと突進の方向を修正して向かってきていた。

「あ……」

 傍観していたとはいえ突然の出来事で、ホーリは思わず後ろへと逃げてしまった。

 それは当然、突進中の猪が進む方向でもあり。猪のモンスターと人、どちらが速さで勝つかといえば、猪のモンスターが勝つ。

 つまり、どういうことかというと、

「あ……危なあああああああいっ! 横に避け……ッ!」

「があああああぁぁぁぁッ!?」

 少女のとばっちりを、ホーリはみごと受け取ってしまったのである。

 全身に走る激痛。LPゲージを確認すれば、LPはその一撃で一気になくなってしまったようであった。

 だんだんと視界が暗くなる。そしてアバターを動かせなくなる。完全な、戦闘不能状態である。

 そして十秒くらい時間が経つと、暗くなっていた視界がフッと明るくなった。

 そこはヴェンディルのスターティング広場。

 ホーリはゲームをはじめて二日目にして、さっそく死に戻りを体験したのだった。

「……はは、なんかビミョーな」

 戦闘を傍観していたら、その戦闘相手の攻撃の巻き添えを食らって死亡。なんとも言いがたいその死に戻りの理由に、ホーリはただ苦笑するしかなかった。


 さて。死に戻り直後はデスペナルティというものもなく、すぐに行動を開始できるため、再び山道へ向かおうとしていたのだが。

(……いやまてよ……。いま一度山道に向かっても、さっきの猪と鉢合わせすんじゃね?)

 ホーリは先程の少女達と猪の戦闘を思いだし、その思いを改めた。

 先程確認したステータスを、もう一度確認する。正確にはその所持金だが。

 ゲーム開始直後の所持金はゼロ。これではすべてのプレイヤーは、装備を整えるための金を稼ぐため、金策に走るだろう。これには例外は見られないようである。

 モンスターを倒し、素材などを集めて売りさばくという行動にほとんどのプレイヤーは走るようだが、なかにはフィールドに存在する石や草を集めて地道に稼いでいる人もいる。

 昨日手に入った魔法薬系や薬品系のアイテムのなかには、役に立たなそうなものがいくつかある。

 それらをNPCに売ることでも、雀の涙ほどではあるが資金を得ることができるかもしれない、とホーリは考え、NPCの店が立ち並ぶエリアへと足を運んだ。

 夢幻時空オンラインではNPCに商品を売るとき、その商品ごとに売ることのできる店が決まっている。例えるなら、傷薬や治療魔法薬、魔力補給薬などは薬剤店。ナイフや剣といった刀剣類は刀剣屋や鍛冶屋。鎧は防具屋や鍛冶屋で、衣服などは服飾雑貨などである。

 ホーリは『腐っていても薬は薬なんだし、薬剤店で売れるだろう。工業排水も売れれば御の字』と適当な先入観で薬剤店を探し出した。

 ちなみに、いかにも使えなさそうなアイテム名ということで、ホーリは識別されたアイテムの説明をよく読んでいなかった。

 よって、売ろうとしているアイテムのうちのひとつを除き、そのすべてに『薬剤店では価値を見込まれないようなので売ることはできないだろう』とあったのに気づいていない。

「薬剤店、薬剤店……お、あったあった」

 一般服飾雑貨、冒険者向け服飾雑貨、防具屋、武器屋。昨夜プレイしたときに、武器屋の隣に雑貨屋があり、反対側には薬剤店が立っていたことをうろ覚え程度で覚えていたホーリは、なんとかそれを探し出すことができた。

「さて。どの程度で売れるのやら……」

 売れても雀の涙ほどだろう。そう思いつつも店に入り、カウンターにまっすぐ歩いて、

「すいません、売りたいものがあるんですが」

 というキーワードをカウンターの向こう側にいる、店員NPCに向かって発言した。

 このゲームではコマンドによるNPC対話がない。ワードを言うと、それに対応した返答をAIが行い、一定の基準を満たしたコマンドワードを言ったり、一定の行動をとるなど、特定の条件を満たすとイベントが起こるのである。

 今回のこれも、普通のRPGではただ『アイテムの売買』なのだが、このゲームにおいては『売買取引』という立派な常設イベントなのである。

「はい、何を買い取りましょう」

 実際にありがちな返答をする女性NPC。その容姿は切れ目の蒼い眼に、金髪。整った顔立ちをした、見るからにやり手そうな外見だ。

 このNPCの応対は口調から体の動作まで、全てが現実味に溢れている。

 こんなのが可能なのか、と言いたくなるほどであるが、ここ近年、かなり高度なAIが発展しつつあるため、この程度は寧ろ当然である。

 そして、その返答が終わると同時に開く、アイテムのイベント使用画面。

 ホーリはこれに、昨夜手に入れた『カビが生えた魔力補給薬』『腐った治療魔法薬』『普通の工業排水』をその画面に置き、完了キーを押した。

 すると、カウンターに選択したアイテムが置かれ、

「では、どのような薬品なのか調べますのでお掛けになってお待ちください。あ、よければ店内を回ってはいかがでしょう」

 NPCはそんなことをいいながら、それらを一つ一つ目を細めて鑑定し始める。

 ホーリは言われた通り、椅子に座って待つことにした。

 大体五分くらいだろうか。

 カウンター付近に備え付けられていた椅子に座って待っていると、店員NPCの声がかかった。

「………………はい、お待たせしました。鑑定が終わったのでお知らせします」

「……どうでしたか?」

 これも、ボイスコマンドを入れないと、イベントは先に進まない仕様である、と公式情報にはあった。

 店員は、表情を若干曇らせて、かぶりを振った。

「残念ですが、当店ではお取り扱いできませんね。ただ、鑑定した結果、お持ちいただいた品のうち、『カビの生えた魔力補給薬』『腐った治療魔法薬』『普通の工業排水』は、武器屋にて素材として売ることは可能なようです」

 そして、そう言いながら、ある三枚の紙をカウンターに置いてきた。

「鑑定料として150テルいただければこちらの鑑定書をお渡しできますが、要りますか?」

(おいおい、売れない上に鑑定料だって……? んなのありかよ)

 鑑定、つまりこのゲームにおける正式な用語に直すと識別。しかし、識別はもうされているのに、それをどう活用すればいいのかわからなかったホーリは、持ち合わせがゼロということもあり、当然のごとく、

「いや、売れることがわかっただけでもありがたいです」

 と辞して、店を去ろうとした。

 拒否する意向をボイスコマンドという形で入力した時点で、売買取引イベントは終了となる。イベントに使用されることがなかったアイテムやイベント報酬は自動で回収されるようで、そのまま立ち去っても問題はないらしい。

 さて、店から去ろうとしたホーリであったが、

「あ、お客様、少々お待ちください!」

 しかし突如NPCに呼び止められて、ホーリはなんだとばかりに振り向いた。

「……?」

 後ろを振り向くと、先程応対していた店員が、手に何かの本を持ち、なにかを期待するような目付きでホーリを見ていた。

「お客様にお聞きしたいことがあるのですが。構いませんか?」

「……? ……あ、あぁ、はい!」

 なにごとかと思い混乱しているうちに、ボイスコマンドサインである、『ボイスコマンド(入力例:はい、いいえ、構いません、すいません等)』という表示が出たのを確認すると、これがイベントであると判断する。

「実は最近、冒険者の方が増えてきて、医薬品や魔法薬が不足気味なんです。とくに治療魔法薬の素材、癒し草が不足していて……。あなたは見た限りでは冒険者の方のようですが、色々な知識に興味があるとお見受けします。よろしければ、私が使っていた野草や木々といった植物関連の書物をすべて差し上げますので、取りに行っていただけませんか? 知識を有効活用できる良い機会かと思いますし、無論、書物以外にも、取っておきの、最高の報奨を進呈しますが……」

 イベントモードに入った店員は、ホーリに口を挟ませる隙もなく言葉を紡いでいく。

 あまりにも長いので聞き流してイベントをキャンセルしようかな、と思ったところで、言葉が途切れた。

 やっと終わったか、と辟易しながらどうボイスコマンドを入力しようかと迷っているホーリ。その目の前に、突如クエスト受注確認用のウインドウが現れる。

「うわっと、驚いた。えっと、なになに……」

 突如現れたので若干驚きながらも、なんだきちんとメッセージ出るんじゃないかと心のなかでぼやきつつ、ホーリはそれを読み進めていった。

『ヴィンデル薬剤店の危機! 魔法薬の素材を集めろ

概要 冒険者の増加にともない、治療魔法薬の素材、癒し草が在庫切れの危機に。このままでは住民も冒険者も危ない!

 至急、採集に向かわないと大変なことになる。なんとしても癒し草を手に入れ、この窮地を脱するのだ!

条件1:知識系のグロースガイドライン3つ以上

条件2:売買取引イベント直後

条件3:ゲーム全体を通して一度も発生していない

特殊条件:βテスター以外

成功条件:癒し草を指定された数を集め、ヴィンデルのNPC薬剤店に納品

成功報酬:ヴィンデルの薬剤店で治療魔法薬系の購入制限が開放(全プレイヤー向け)

成功報酬(受託者)1:植物の知識レベル5、採集技能レベル1(進行過程で入手の実質報酬)

成功報酬(受託者)2:???(これがなにかはお楽しみらしい)

クエスト情報は以上です。引き受けますか?

○はい ○いいえ』

(……条件がひでぇ。つか、これβテスターいじめじゃないか?)

 βテスターはその特性上、情報戦において非常に有利点が多い。

 これはそれを防止するためのクエストなのだろうが、それでも、特殊条件としてβテスター以外と明示されるのははっきりいってβテスターへの差別ととられてもおかしくはないかもしれないだろう。

 他にも気になることがあった。それはその報酬である。

 受託者向け成功報酬1の欄はいいだろう。過程で入手、とがあるのだからクエストの途中で必然的に入手するもの、この場合は二つのガイドラインが報酬と十分に呼べるものなのだろう。

 RPGなどでたまにある、基本的にはキーアイテムではあるものの、実際にはゲーム全体を通して有用な効果をもたらす、使用回数無限のアイテムとかのことだ。

 今回でいけば、植物の知識というのはともかくも、植物採集技能というガイドラインは有用だろうと考えられる。

 なにせ、魔法薬の知識と化学の知識は育てれば薬品系を作れるガイドラインに化けるらしいのだから、その時に備えて薬品の材料を自給できるようにしておくのは有効策なはずだ。

「……それに薬草売ればお金になるかもしれないし」

 そうなれば、装備も整えることができる。

 それらの観点から見れば、成功報酬3こそ気にはなるが、現状では全くもって不明なそれを無視しても、十分に受けてしかるべき依頼だ。

「……よし」

 ホーリは決意をしたような顔をし、クエスト情報画面のラジオボタンをタップ、そして決定ボタンを押した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ