第二回投稿分 第四話 知識の大切さ
「いつ~…………やっぱ痛覚の再限度も変わんないなぁ。正規版で初ダメージだよ」
今までホーリの牽制によって、攻撃を食らわずにすんでいたが、突然の爆発で三割近く削られてしまったアヤは、そう呟いた。
「痛いどころじゃないって。なんなんだよさっきのは」
突然の爆発に混乱しつつ、ホーリはアヤに向き直る。
「あれはフォクケミストの魔法焙烙玉だよ。焙烙火矢っていう火器の一種に使う弾薬、だったと思う」
「焙烙玉? ……おいおい、まじで入門者向けの山道なのかここ」
アヤの説明を理解したのか、ホーリは驚いた顔をしたあと、不安そうにそう問いかけた。
「うん……でも、今日は運が悪いみたい。この山道で一番強いエネミーといきなりエンカウントなんて」
「……つまり、他はもっと弱いと?」
「うん。あれの半分以下の強さ」
どんなけツイてないんだよ、とため息をつきながら、ホーリは立ち上がって、エネミーが落としていった五つの薬品アイテムに近寄った。
群青色の半透明な液体、透明な液体、瓶のふたを開ける前から異臭を感じる不吉な液体。三者三様ならぬ、五者五様といったところだ。
「治療魔法薬系のドロップアイテムだね、多分。フォクたちの高確率ドロップ品だし」
「治療魔法薬? それってLPを回復する?」
「そうだよ?」
それは先の戦闘で、合計五割近いダメージをもらったホーリには、朗報ともいえる情報だった。
「マジか!」
「うん。とにかくまずはゲットだよ。話はそれから」
いいながら、アヤもフォクガンナーたちが落とした火器を拾っている。
ホーリは嬉々として地面に落ちたそれを拾い、アヤに歩み寄った。
ちなみにアイテム取得時に表示されたアイテム名には、黄色い文字で『群青色に濁った薬液』『ただの水』などとあった。
「……ん? なんだこれ?」
それに首を傾げつつも、ホーリは話を聞くための姿勢をとった。
「話ってなんだ?」
「うん。アイテムの識別について、ね」
「アイテムの識別?」
RPGではダンジョン系RPGでしか聞いたことのない言葉に、ホーリは首を傾げた。これがアニメなら、頭上に疑問符が浮かんでいることだろう。
「うん。お兄ちゃん、魔法薬の知識持ってるって言ってたよね? あと化学の知識も」
「ん? あぁ、あるけど?」
役に立たなそうなガイドラインだけど、それがどうかしたのか? とアヤに問いかけると、
「じゃ、私も経験則で正規版ではその二つを選んだから、実演交えてその二つのガイドラインについて説明するわよ」
アヤは真剣な顔で、口を開いた。
ホーリもその二つは持っているので、真剣にならざるを得ない。
アヤはホーリにガイドラインを開示して口火を切った。
「魔法薬の知識と化学の知識。この二つはβ版テストプレイヤーの間では、四大重要ガイドラインと呼ばれているガイドラインの、四項中二項に収まってるのよ」
「四大?」
「そう。戦闘系、生産系、魔法薬の知識、化学の知識。私たちはこの四つが特に重要としているわ」
ホーリは疑問に思った。知識というからには、情報に関するガイドライン、もしくは効果を高めるガイドラインと思っていたために、それほど重用しはしていなかったのだ。
「お兄ちゃんのガイドライン構成は、私が同情するほど微妙なガイドラインが揃っているけど、少なくとも魔法薬の知識と、化学の知識が混じっていたことについては喜ばしいね」
相変わらずそれ以外には疑問が残るけど、と若干笑いを交えつつも、アヤは話を続ける。
「ようは、それくらい、いえ、正直戦闘系より重要度が高いっていうのが、β版プレイヤー間の意見なんだけど、なんでかわかる?」
「戦闘系よりも? 知識系ってあんまり重要度がなさそうに聞こえるのに?」
「そう。さすがに私も、この点においてはさっきのお母さんの言葉に、賛同できるかな。成長させると回復アイテム作成ができる、っていうこともあるんだけど、それを度外視しても、まだその評価は下せない」
先ほどのなぎさの言葉。意外性が云々の話だろう。
さりげなく言われた重要な情報を心に留めつつ、ホーリはしばらくその場で黙考したが、答えは浮かんでこなかった。
「わからないな」
そして、ホーリはわからない答えを、いつまでも考えるのは苦手だ。嫌いではないが、苦手である。
よって、早々に白旗を上げて、降参の意を示した。
「じゃ、答えあわせだね」
そういって、アヤはホーリにウインクして、説明を再開した。
「実はこのゲームはちょっと意地悪なところがあってね。例えば今拾ったアイテムがそうなんだけど、武器と防具、大抵のNPC店売り商品と、識別済みのPC店売り商品。今言ったもの以外は、漠然とした名称の、未識別の状態で出てくるの」
「未識別?」
「そう。ランダムゲットシステムっていうんだけど」
アヤいわく、一部を除く店売り商品と武器防具以外の全アイテムは未識別で、識別時にはじめて、正規取得となるのだとか。そして、識別後の正規アイテムは、一定の範囲内でランダム確定するらしい。
さらに、食物や薬品類には使用期限というものが設定されており、それを過ぎると1ランクの『腐敗劣化』が起こる。ちなみに腐敗劣化アイテムは3ランク存在するらしい。
ここで厄介なのが、その『腐敗劣化システム』なのだそうだ。
「ドロップアイテムの食物や薬品類はね。どんなエネミーが落としていったアイテムでも、腐敗劣化したアイテムが当たることがあるのよ」
それこそまさに驚愕の事実だった。恐るべき再現度に恐れいななき、ホーリは数歩下がって、
「…………えっと、未識別の状態で使って、運悪くそれが当たったら?」
なんとか言葉を絞り出せた。
おそらく、この話を聞けば誰もが一番気になるその点。ホーリがそれを聞くと、アヤは気まずそうな顔をして、こう受け答えた。
「腐敗ランクとアイテムジャンルによるね。でも、少なくとも状態異常の一種、『消化不良』。これだけは絶対に引き起こる。んで、絶対に避けなくてはならない、最悪の状態異常よ」
アヤの口調に熱がこもる。よほど嫌な思い出があるのだろう。
「全レベルと全ステータスが軒並み低下。二日間は75%のレベルとステータスでゲームをしなくてはならないという、劣悪状態異常。しかも、β版テストで劣悪性を訴えて、やっとこのレベル。これはもう悪意の塊ね……」
それを聞いてホーリは、アヤとパーティを組んでいてよかった、と実感し始めた。
と同時に、意外性が云々の話の真意に、初めて触れた気がした。
――このゲームは、つくづくプレイヤーの予想を裏切っている。それが今日の、ゲームの氾濫による展開予測を困難にし、どこにでも新鮮さを感じる要素があるのではないか。
――それに耐えきれないプレイヤーは出るだろうが、ダンジョン系RPGの要素に耐えられたり、むしろ好きな人にとっては食指が向きまくりだろう。
そして、そんなことを考えながら、アヤの話をよく咀嚼して飲み込んだホーリは、数分たって、ようやっと口を開いた。
「ようは、それを見極めることのできる、唯一のガイドライン。回復アイテム一つ使うにも、一切の油断がならない、ダンジョン系RPG並の危険を、唯一回避できる手段だから四大ガイドラインのうちの二つってことか」
「そう。正確には、鑑定士っていうNPCもいなくはないんだけど、一つ辺り50Gかかるから、手間省きとお金の節約、ね。だから、緊急時に腐敗劣化したアイテムを引くのを避ける意味合いも含めて、化学と魔法薬のは最重要なのよ」
なるほど、この分なら、他のガイドラインも相当ひねくれているんだろうなぁ、ならなんとかなるかもなぁ、と思いつつ、
「で、ここまできてやっと解析スキルの識別になるんだけど」
もはやすっかり説明が板についている妹の説明を、真面目に受けていた。
「まず、スキルがどこにあるのかはわかるよね?」
「あぁ」
「じゃ、スキル画面だして」
アヤにそう言われ、ホーリはスキル画面を呼び出す。
スキル画面は自身が取得したスキルがリストアップされており、またガイドライン別、戦闘系、生産系などとフィルタをかけることも可能なようである。
現在の話の流れから、『鑑定系』と判断してそのフィルタをかけてみれば、絞り出されたスキルは初期段階であろうにも関わらず、道具の知識によるものだけでも『器材識別』『小物識別』『がらくた識別』など、結構な数があった。
「今回使うスキルは、『魔法薬識別』に、魔法薬じゃない可能性を考慮して『薬品識別』。あと銃弾もあるから『小物識別』も追加だね。私がまず、さっきのガンナーが落としてった弾薬を識別するから、お兄ちゃんは魔法薬をお願いね」
「わかった」
いうが否や、アヤはホーリに見せるよう、全画面開示を選択したのだろう。アヤの周囲に、ホーリと似たようなリストが浮かんでいるのが見えた。
「識別系のスキルの使い方は、まずはこうやって、アイテムを取り出す。これはもう完了してるから、あとはスキルを選んで……」
アヤがスキル名に触れ、使用するか否かの確認でYESを選ぶと、アヤの手がほんのりと輝き始めた。同時に、なにやら行動を促す指示がウインドウに表示される。
アヤはそのままフォクガンナーがドロップした四個の弾薬に触れて、その後『終了』と呟くと、流れるような動作でホーリに向き直る。
弾薬は、最初は『ただの弾薬1』『ただの弾薬2』と、本来の名称が違うだろうことしかわからない弾薬だったが、識別後は『フォクの魔法弾』『フォクの魔法散弾』『フォクの魔法散弾』と、明確な名称に変わっていた。
「とまぁ、こんな感じかな」
「なるほど。簡単なんだな。戦闘スキルはいちいち動作起こさないといけないのに」
ホーリは感心して、識別された銃弾に触れていた。
だが、内心ではその銃弾に、微かな違和感を抱いていた。
「じゃ、やってみて」
だが、それがなにかを考える前に、アヤから指示が出てしまい、違和感の正体には気づくことがなかった。
「わかった」
ホーリは先ほど手に入れた魔法薬、『群青色に濁った薬液』『ただの水?』を識別するべく、リストの中から『魔法薬識別』を選び、確認画面でYESを押した。
そして、『解析したいアイテムを取り出して触れてください。スキルは自動発動します。終わる場合は終了、とボイスコマンドを入れてください』という、そのような指示メッセージが表示が出たのを確認してから、目の前の魔法薬に触れた。
すると、魔法薬はその外見を、まるで別のアイテムに変わってしまったのでは、と疑いかねないほどに変わった。例をあげるならば、『群青色に濁った薬液』は、群青が赤くなり、『ただの水』ともう一つ、『甘い香りのする液体』という未識別があったのだが、その二つはきれいに透き通った透明な液体から一変、どす黒く染まりきってしまった。
ホーリがその様子を驚きながら見ていると、突如ウインドウが開き、解析結果が表示された。
『ただの水? はカビが生えた魔力補給薬薬でした。
甘い香りのする液体は腐った治療魔法薬でした。
群青色に濁った薬液は若干強力な治療魔法薬でした』
残り二つは『魔法薬識別』で識別できなかったが、先ほどの説明に『魔法薬じゃない可能性を考慮して『薬品識別』』というのがあったのを思い出し、薬品識別で残りを識別した。
しかし、残り二つも現状ではどうしようもないアイテムだけだった。
その二つのうち一つにはいろいろと言いたいこともあるが、取り敢えずは識別し終わったことを確認し、改めてどんなアイテムだったのかを見て。
「……これはひどそうだ」
しかし、あまりの不作さに唖然。
「え? そんなに? どんな感じなの? ……変な色してる二つは聞くまでもないけどさ」
これほどまでに運が悪いことは今までにあったか、などと思いながら、ホーリは解析結果をアヤに伝える。
するとアヤも残念そうな顔で、
「そっか……それは残念だったなぁ……」
と、か細い声でそう言った。なにせ、たった一回の戦闘で、かなりLPを削られたのに、手に入った五つの薬は、三つもろくではないものが混じっていたのだから、無理はないだろう。
だがしかし、すぐあとで、
「あ! でも、武器のレアアイテムドロップがあっただけでもよかったかな!」
と、アヤは気を持ち直した。
その言葉を聞いて、そういえば、とホーリは問いかける。
「何が手に入ったんだ? なんかの火器っぽいのは見えたんだが」
すると、アヤは、『ん? あぁ、これだよ』と、なにやら操作をし始めた。開いたウインドウがトレード画面ということから、なんらかのアイテムを、所有権付きでホーリに渡そうとしているようである。
「あとで渡そうかと思ってたんだけど、やっぱり今渡しとくね。私と違って、お兄ちゃんは魔法スキルで殲滅、なんてできないんだから。切り札としてとっといて」
そう言いながら、トレード画面を介して差し出してきたのは――
「リボルバーかよ! 一気に近代兵器いってるから!」
さっきの弾薬の違和感はこれかー! と、思わず、突っ込みを入れる。そう、先ほどアヤがスキルで識別した弾薬は、近代的な形状の弾薬だったのだ。そもそも、名前からしてそうではないかという疑念が、あるにはあったのだが。
リボルバーなどの後込め式の銃は少なくとも近代の武器である。もはや時代観の無視を通り越し、全体的な統一感を失わせるような武器の入手時期と場所に、はやホーリは半狂乱状態となった。
すると、それを見たアヤは、やっぱりこうなるか、といった感じでホーリに説明を開始する。
「これもやっぱり意外性ってやつなのかもね。このゲーム、亜人系とか妖精系、突然変異の動物系は高い技術力持ってるって設定でさ。確認した限りでは、他のゲームで雑魚キャラとして出てくるゴブリン系なんかも、中盤始めの方のエネミーで榴弾砲バカスカ撃ってくるし。そう言った種族中心の街が二、三ヶ所、確認できたけど、どこも『未来都市』って付くところしか見てないしね」
「だからってこれはないだろ! 少なくとも批判は相次ぐと思うぞ?」
「あはは。多分あれじゃない? 独創性を求めたがゆえの末路」
他にないゲームの属性を突き詰めた結果がこれじゃ、本末転倒だろ、と運営者に向かってぼやきつつ、ホーリは表示させたアイテムの説明を見る。
『妖精の四連リボルバー 耐久力30.0 攻撃力1
自然と暮らすゆえに、早々に高度な技術力を持つに至った、妖精族技術で作られた銃。近代的だが、使用できる弾薬は弱いものばかり。鈍器としても使用できるが、威力が低く、耐久力が通常減少するので推奨できない』
『妖精の銃弾 耐久力- 攻撃力12
妖精の技術力で作られた銃弾。製作ガイドラインを持っていれば作れないこともない。現代的な形状をしているが、打ち出される弾頭は実弾ではなく、魔石を使った魔弾の一種』
「……なるほどね。一見強力そうに見えて、実は魔法の技術が使われているからなんでもありってか?」
「まぁ、でも確かに限度はあるよねぇ?」
「あるに決まってるって。こりゃどうみても限度越えてるどころじゃないけどな」
おそらく他のプレイヤーも、大半は似たようなことを思っているだろう。これはBBSが炎上しそうだと思いながらも、ホーリは鉄砲を妹に所有権つきで返した。
「……え?」
「これはお前が使っとけよ。魔法見たけど、あれは囲まれたとききついだろ。正直このリボルバーは統一性ブレイカーだけど、魔法使いの弱点補正には役立ちそうだからな。四発だけじゃあまり変わんないかもしんないけどさ」
ホーリは先ほどの状況を思い返す。
魔法系のスキルにはモーションは必要ない。しかし、その代わりなのか発動ワードが長く設定されているようである。
そんな制限があるなかで、バランスのとれた団体エネミーに囲まれ、あたふたしているうちに方陣を組まれたらどうなるか。恐らく、今回と似たような状況に陥るだろう。
そういった状況で、魔法系のスキルのそれは致命的だ。それを覆すなにかが用意できなければ、だが――
「あ、それじゃ遠慮なく。お金たまったら弓買おうとしてたんだけど、お兄ちゃんが譲ってくれるなら助かるな」
アヤは心底助かった、という顔でホーリにお礼をいい、素直に受け取り、歩き始めた。ホーリも遅れないよう、ついて歩く。
そして、魔法職って決めたけど、魔法だけじゃ打破できない状況もしばしばあるし、と呟きながら歩くアヤを見て、やはり、とホーリは確信する。
アヤは魔法系のガイドラインの他にたまたま砲術を選んだようだが、実際には選ばなくても、ガイドラインによる補正がなくなるだけで、扱えない訳じゃない。ガイドライン不所持によるペナルティはなく、きちんと武器はその性能を発揮してくれるのだから。
他のゲームにおけるスキルやジョブ、クラスシステムがそうだからと、このゲームでも武器を、自分の戦術を、切り札さえも。すべてを選んだガイドラインに限定しているようではそういった意味で、このゲームは事前準備が非常に重要だ。
砲術や弓術、弓捌きを選ばなかったからと諦めては、仲間を殺しかねない。そもそも、このゲームにおいて、未取得ガイドライン=レベル0のガイドラインで、例え持っていないガイドラインの武器であっても、扱っていればレベルが1になって、取得状態となるのだから、先入観は損しか生まない。
(でも、逆に考えると、統一性こそ台無しにしているけど、初心者でも絶望的に追い込まれたとして、意図的に用意された盲点に気づいて用意しておけば、わりとどうにかなる。という点では救済措置のあるゲームだよな、これ。魔法使いでも剣持って、前衛でバカスカ魔法撃ちながら剣で戦うってのも可能だし。…………うわ、予想したらかなりえぐいな、それ)
そんな感じの、このゲームに対する率直なこ感想を心のなかで呟きながら、ホーリはどうするか、と隣を歩くアヤに問いかけた。
「うーん、やっぱり今日はとことん運が悪いみたいだし、切り上げよう?」
「……だよなぁ」
フォクたちが落としていった魔法薬は、素直に回復アイテムと呼べるものが二つだけ。
識別した五つの薬の内訳は『カビが生えた魔力補給薬』『腐った治療魔法薬』『若干強力な治療魔法薬』『解毒剤(保存料入り)』『普通の工業排水』だった。
「……まぁ、このエリアではフォク系しか回復アイテムは落とさないし、初日のプレイとしてはこんな感じ、かな」
「そうなのか?」
「うん。だいたい、この山道か、ヴェンディル南にある湖畔、左回りコースが入門者コースって言われてるからねぇ」
それは初耳だった。
システムで自動送信されてくるメッセージには、こちらのエリアが入門者エリアと書いてあったために、なおさら疑問を感じるホーリ。
「いったいどんな感じなんだ?」
「獣系と植物系だね。獣系は意識が強い野豚とかの草食動物系」
「注意しといた方がいいやつは?」
「ボルヴィーっていうこのゲームオリジナルの雑食獣、かな。見た目はウサギとチンパンジーを足して二で割ったような感じ、かな。大抵は単体で来るけど、知能が高くて戦闘の気配に敏感って公式設定あるくらいだから、乱入戦は覚悟した方がいいかもね」
それを聞いて、ホーリは具体的な戦略をイメージする。そして、注意事項も考慮して、再考して。なんとか一人になってもいけそうだ、と考える。
「そうか。それなら明日はそっちいってみるかな」
「いいと思うよ? 私はβ版の時から組んでる人たちとか、その知り合いの人たちとやるから、一緒には行けないけど……わかんないことあったら、リアルで相談に乗るよ」
「サンキュー。助かるよ。んじゃ、今日はこの辺にするか」
「だね。ウェイクアップしよう」
そして、二人はほぼ同時に、夢幻からウェイクアップした。
>≫WAKE-UP...
翌日。
聖也が起床して、寝室のある二回からリビングのある一階におり、ダイニングキッチンに入ると、彩希となぎさ、清也がすでに起きていて、自分が最後だったことに気づいた。
「おう、おはよう」
「おはよう、聖也」
「おはようお兄ちゃん」
「おはよ……」
夏休み初日。
聖也の学校でも夏休みの宿題は当然出されている。彩希も中学校で宿題は出されている。
よって、二人は午前中、学業に支障をきたさないよう、親に言われるまでもなく、自律した計画を立てている。
これは昨日、ゲームプレイ中に彩希の提案によって取り決めたことである。
β版がテストプレイされたのは春休みシーズン。無論、彩希も新学年一学期が始まってからは、家に帰ってきて空いた時間を、テストプレイに充てていたらしいのだが。
そういった、春休みの宿題とテストプレイの両方をやっていた経験と、実際にはまりこみかけて、学業に支障をきたしかけた経験があったことから、計画を立てなければ、VRMMORPG中毒になりかねないと言われたのだ。
今まで常識と思っていた内容を、真顔で言われたときには『なにいってるのこいつ』的な顔をしてしまったが、十分にも及ぶ実体験を聞かされた挙げ句、危機感をやっと覚え、現状に至る。そのことを思いだし、
「ま、道理だよな」
と言いつつ、出されている宿題のプリント束に手を出した。
聖也が通っている高校は普通科だ。基本、普通科高校で学ぶべきものしか学ばない。
しかし、実はコース分けがされており、入試時にどちらかを受験して、入るコースを決めることになる。
コースは二つで、やはり普通科高校で学ぶべきものしか学ばないコースと、商業科目を学ぶ商業コースとに分かれている。
聖也の入ったコースは商業コース。つまり、聖也の学校の普通コースで履修科目となっている、物理や生物、地理といった授業の代わりに、簿記や商業技術、情報処理が行われるのである。
無論、かじる程度なので、検定の受験などは必須となっているが、実のところ商業高校よりはそれほど深くはやらない。
聖也がとったプリントは、そのなかで唯一宿題を出された商業科目の宿題、簿記であった。
「やっぱり、面倒くさいのから終わらせるのに限るな」
そう呟きながら、聖也はシャープペンを手に取り、芯を出して宿題に取りかかり始めた。
そして、この日の午前中のうちに、簿記で出された宿題の半数を終わらせた聖夜であったが、その正解率は決していいとは言えないものであった。
因みに、この半数近くまで終わらせたプリント束を、勉強机の上に放置したまま夢幻にダイブインしてしまい、部屋に掃除機をかけに来た母親、なぎさがこれを発見。内容を見て、正確に間違った箇所のみにレ点をつけ、
「これは次の休みは特別講習かな」
と黒い笑みを浮かべたのは別の話だろう。




