第一回投稿分 第三話 中世に銃はありなのか
主人公の妹のアカウント名をアヤに変えました
防具屋で初心者向けの防具を無償でもらった二人は、ヴェンディルの街を歩いていた。
防具はホーリが受け取ったのは丈夫なシャツと丈夫なズボン、彩希が受け取ったのは普通のローブだった。
「あれ? ローブ?」
「うん。私は魔法職選んだから、鎧とか重いものは装備しても旨味はないんだ」
「へぇ……」
彩希の言葉を聞き、ホーリは少し考えた。
魔法職がローブなのはわかる。ただ、自分がもらったのは衣服だ。
武術とはいうが、そのほとんどは前衛のものだ。なら、ガイドラインにそった装備が渡されるなら、当然鎧じゃなければおかしい。
そんなホーリの疑問に気づいたのか、彩希が突然、こんなことを言ってきた。
「武術が不人気な理由のひとつは多分、あらゆる面で柔軟性重視で、パワーと突破力より搦め手で勝利をもぎ取る感じ、だからじゃないかな」
ゲームに熱中しているような人が、目まぐるしく状況が変わるなかで、柔軟性重視の体捌きをするなんて、不可能とまでいかなくとも、不向きではあるでしょ。と、付け足しながらの説明に、話を飲み込みきれない聖也は頭をかく。
「えーっと?」
「つまり、このゲームの戦闘においては、手数重視の搦め手では運動音痴な人ほど難しいってことよ。戦闘スキルの発動には自身の動作が絡むんだから、ボタンひとつ、掛け声ひとつでなんでもできるゲームとは訳違うってことね」
そう。これこそが、夢幻のもうひとつの魅力である。つまり、冒険時における限りない現実性の再現。さすがに生産系については、専門知識が必要という理由で、ボタンひとつでも実行できるシステムが作られているが、戦闘においては何一つスキル実行ボタンがなく、スキル実行ワードも魔法職の魔法でなければほとんどない。いや、実際にはあるが、実行ワードをいいながら、あるいは言ったあとで発動モーションをとらなければならないのだ。
これほどまでの現実性の再現は、今までのどのVRRPGにも存在していなかったため、とてつもない人気を発売前から誇っていたのだ。
だが、それは裏を返せば、悪く言うと運動をしていない人ほど、不利になっていくというわけだが、実はそれの解消策こそが、特定武器戦闘ガイドラインのアンバランスさなのだとか。
単調で分かりやすいモーション、高い攻撃力と突破力。このゲームバランスを崩しかねないアンバランスさが、逆にゲーム全体のバランスを安定させているのだろう。
「んで、柔軟性ある行動を重視しているのに、適正防具が重苦しい鎧じゃ矛盾しちゃうでしょ?」
「……確かに、一理あるな」
「ん。わかればよろしいのですよ、お兄様♪」
「……急に媚入れられてもなぁ」
反応に困る、と受け流しながら、ホーリはNPCの武器屋に向かった。
「……で、なんで俺たちは火縄銃なんて持ってるんだ?」
木製の片手剣装備、頑丈な棒切れを腰に差し、弓と、金属の部分が黒光りする火縄銃を背負いながら、ホーリは彩希に話しかけた。
彩希もまた、木のスタッフと、ホーリの指摘するそれを背負っている。
――武器屋に行って、初心者向けの武器をと注文した。そこまではよかった。
だが、そこでホーリに渡されたのは、頑丈な棒切れと弓、木の矢二百本、マッチロック・火縄式コルク銃、加工コルク弾100+火薬+火縄100発分だった。
どう考えても銃は初心者向けじゃねぇだろ! つか中世の欧州みたいな時代設定に不釣り合いだろ! と、心の中で運営陣に叫びながら、ホーリは彩希に相談する。
「んーと……多分、今の時代設定が、中世だからじゃないかなぁ。銃をもらったのは、多分、武術に含まれる、砲術によるものだと思う」
銃は中性を舞台にしたゲームには珍しく 、あっても不釣り合い……と思われがちだが、それはない。火縄銃も日本の中世末期に活躍した、立派な中世の武器だからね、と彩希は告げる。
すると、ホーリはうがー! と、雄叫びをあげて、
「混ぜすぎ! 父さん、混ぜすぎだからな? せめて日本の中世なのか欧州の中世なのか、きちんと区別して! てか、なにげにお前も火縄銃もらってたし! 魔法職じゃなかったのか!?」
と、目の前の家族と、今はいない家族に吠えたてるのだった。
「ううん、基本的には魔法職だよ? ただ魔法職は攻略が進むと魔法ガイドラインだけじゃものたりなくなるの。で、その頃になると急に弓じゃ役立たずになっちゃうし、適応できるガイドラインも、ものすごく取得が難しいから、最初の段階でそのガイドライン、砲術を選んだの」
その説明に、ホーリは怪訝そうな顔で聞き返した。
「そうなのか?」
「うん! ちなみに攻略BBSにはね、β版の時のマップ攻略が絡む情報は、一切載せちゃいけないことになってるから、知ってるのはβ版テストプレイヤーだけ」
なんだそれ不公平だー! と、ホーリは再び吠える。
ちなみに銃に詳しい諸兄はわかると思うだろうが【作者はよくわからないです。すみません……】、『中世』というキーワードに当てはまる火器で、火器は火縄銃しかないわけではない。が、もっとも練習期間が短くて済むという条件に合うのは、世界で最初のマッチ・ロック式鉄砲である火縄銃がもっとも合致している。よって、数ある中世の銃のなかから、一番『初心者』向けの武器として火縄銃が選ばれるのは、おかしいことではない、ということを、ホーリは知るよしもない。
――というよりも。
あまりの不公平さに叫んでいたホーリは、先ほどのアヤの言葉のなかに気になる言動があったので、それについて質問する。
「ちょっと待て、さっき、『今の時代設定が』って、言わなかったか!?」
「うん。言ったけど?」
ホーリは、嫌な予感がして、声を震わせながら、彩希に質問した。
「…………もしかして、時代背景って、変わるのか?」
「もしかしなくても、激変するよ? もっとも、確認とれてるのは今私たちがプレイ中の中世的時代と、一つ先の近代的時代、この二つだけなんだけどね」
「……そっかぁ、そういやゲームタイトル自体、時間移動とかしそうなタイトルだったしなぁ」
オープニングでもそんな気配あったし、それなら仕方ないか、とどうにか自分を納得させつつ、ホーリはアヤとともに歩みを進めるのだった。
さて。
そうしたトラブル的な会話を一通り会話を済ませたところで、互いにフレンド登録をして、ヴェンディル付近でモンスター狩りをすることにした。
「……フレンド登録、フレンド登録っと、あった」ホーリはフレンドリストに無事追加されたのを確認しながら、「やっぱりこっちではこっちの呼び名で呼んだ方がいいよな」
「当たり前でしょ? マナーも一緒に携帯、だよお兄ちゃん」
「そういう自分は呼び方変えないのな」
「本名いってる訳じゃないからね」
にしし、といたずらっぽく笑う彩希改め、アヤを見て、ホーリはアヤに手を伸ばして、こう言った。
「じゃあ、よろしく教授願うな、アヤ」
アヤはその手をためらうことなくつかんで、宣誓する。
「もちろん。魔法職だから前衛には立てないけど、私でよければいくらでも」
それは、とても幻想的な光景だった。
当人たちは何気ない動作でやったのかも知れないが、背格好に差のある、どちらも見た目女性のアバターが向かい合って、手を取り合う。中世のような街並みで、宵の月に照らされるなかで行われたその光景は、ともすれば主君と、主君に忠誠を誓う、若くして仕事を得た貴族の少女ように見え、しばし公式BBSはこの話題で持ちきりになったという。そしてそれは、その時偶然、マナーアップ目的の観察業務にあたっていた
、GMの目に留まったという。
――その光景があまりにも幻想的で、ゲームの第一ステージの舞台と非常にマッチしていたために、二人のもとにこの光景のCM利用の許可申請が来たことは、また別の話である。
街の東にある、山道。
ヴェンディリア山道というそれは、入門者山道、初心者山道、初級者山道という、三ランクにわかれているかのような通称を持つ山道で、その通称が示す通り、三ランクにわかれている。
二人が足を踏み入れた北よりの山道は、虫系や突然変異した狐、フォク系をはじめとする、入門者向けのモンスターしか出てこない。が、ドロップアイテムも入門者向けだ。
β版プレイヤーはその知識のアドバンテージがあることから、正規版ソフトウェアの無償配布という特典しかない。つまるところ、β版プレイヤーのアヤでも、再度この入門者向けの山道に入ることになるらしい。
「火よ、弾丸となりて障壁を穿て! ファイアボール!」
アヤの手のひらから放たれた魔法が、フォクの弓兵、フォクアーチャーを穿ち、戦闘不能にさせる。
今、二人の前にはのフォクソルジャー、フォクガンナー×2、フォクアーチャー、フォクケミストの五体のフォクが立ちふさがっていた。
ちなみに突然変異した狐とは言うが、身長が高く、男のホーリくらいに達している。さらにそれぞれの名称から察するとは思うが、武器などをもち、二足歩行をしている。軽く獣人の域に達しているだろう。
「くっそ! やっぱり火縄銃は火縄銃か!」
マッチロック・火縄式コルク銃は命中精度こそ悪いものの、10m程度では外すわけがない。すでに前衛のフォクソルジャーは倒していたが、厄介なのは他の四体だった。前衛が倒されるとすぐに散開し、波状攻撃を放ってきたのだ。
火縄式の銃はその大半が先込め式。故に専門知識が必要とされているためか、装備さえしていれば自動的にリロードされるのだが、やはり時間がかかる。
「これじゃじり貧だな……」
先ほどのアヤの魔法で、フォクガンナーが一体倒されたため、残りは三体になった。
ホーリは牽制のために矢を放つが、アウトドア派とはいえ弓に心得のないホーリには当てるのは至難の技である。
そんな苦しい状況にホーリがぼやく。
「水よ、地底より吹き出し敵を穿て! ウォーターピラー」
と、そこでホーリの牽制によって射撃体勢に入れないでいたもう一体のフォクガンナーをアヤが倒し、残りはフォクアーチャーとフォクケミストの二体になった。
「これが、入門者向けとか、マジ厳しすぎるだろ」
やっと同数になったのを確認(しかもフォク側は二体中一体はアイテムによる回復役なのか、積極的な攻撃はしてこないので実質一体)したホーリは、ここで再び銃に持ち替えて、システムによるリロードを待った。
「β版の時も思ったけど、入門者にはハードルきついなぁ」
ここへ来てやっとまともな言葉を発したアヤも、ホーリと同じような感想のようだった。
しかし、そこはβ版プレイヤー。めげることはなかった。
「このぉ、よくもここまでやってくれたわねぇ」
突然、今まで戦闘に積極に参加してこなかったエネミーNPC――フォクケミストが、悔しそうな顔でそんな台詞を発した。と、その時。
「不味い! お兄ちゃん、伏せて!」
アヤが慌ててホーリに伏せるよう指示を出した。
「はぁ!?」
その剣幕に、ホーリは得たいの知れない切迫感を感じ、本能で従うべきと判断したのか咄嗟に伏せた。
瞬間。
「いったあああああああっ!?」
地面に腹這いで伏せたホーリの背後で、閃光と爆音、突風が吹いた。
次話予告
いよいよ明かされる、夢幻時空の意外性の一端。
「お兄ちゃんのガイドライン構成は、私が同情するほど微妙なガイドラインが揃っているけど、少なくとも魔法薬の知識と、化学の知識が混じっていたことについては喜ばしいね。――正直、戦闘系より重要度が高いっていうのが、β版プレイヤー間の意見なんだけど、なんでかわかる?」
たかだか知識、去れど知識。ゲームだからと食って掛かるプレイヤーは痛い目に遭う!?
「そう。ランダムゲットシステムっていうんだけど」
思いもよらないシステムに、聖也は驚愕一色に顔を染める。
「状態異常の一種、『消化不良』。――絶対に避けなくてはならない、最悪の状態異常よ」
そして、現実味溢れる状態異常、『消化不良』。
「――回復アイテム一つ使うにも、一切の油断がならない」
果たして、その消化不良なる状態異常はいかなるものなのか。
次回、夢幻時空オンライン。
第二回投稿分 第四話『知識の大切さ』お楽しみに!




