卒業
遭遇
「あの子たち、一中生ね」
違法駐輪の山の中に自転車を押し込んでいると、駅前の、病院の入り口近くで五六人固まっている人物を見て母が言う。つられて見ても、落ちるまで落ち込んだ視力では彼女たちが影のようにしか見えない。春休みも学年が一つ上がり、正午の太陽の光がコントラストをはっきりさせる四月のはじめ、ようやく暖かさを持った風がそよそよ吹いて、俺は久しぶりに外出をする気になり、のんびりと自転車をこいで家から二つ駅あるこのY街の総合病院へ来た。
懐かしい制服の一固まり、あらためて目を凝らすと一中バッグと呼ばれるN市立第一中学校のカバンを持っている女子中学生。いまだに一中バッグ、英字でファースト・ジュニア・ハイスクールと大きく書かれている。感触はさすがに忘れたが、あのバッグを開けるときのむっとする匂い。ダークブルーの色をした、荷物を何でも詰め込む大きなバッグを忘却するほど、その後に進学とか仕事だの結婚だの、子どもだの、この脳に詰め込んでいく人生経験を俺はほとんど送っていない。