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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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1ページで死ぬモブ義姉に転生したが、義弟を1人にするのは後味が悪い。

作者: 有梨束
掲載日:2026/03/14

「イダ姉様っ、死なないでくださいっ…!」

私が最後に見た義理の弟のユリウスは、血のついた顔で悲痛に叫んでいる姿だった。


ここが前世にオタク友達に勧められて読んだ小説の中だと気づいた時は、薄寒く感じた。


どうせなら、好きな小説の中がよかった。

なんでよりにもよって、途中で離脱した本なのか。

オタク友達は、「今人気だから!めっちゃ面白いから読んで!」と布教してきたけれど、私は好きになれなかった。


主人公ユリウス・アボットの一生を描いた物語であり、私は幼少期パートである第一部にちょろっと登場する義理の姉だと気づくのに時間がかかった。

なんせ、義姉は1ページほどしか出てこない。

しかも、出てきてすぐに死ぬ。

そんなことには、気づきたくなかったのかもしれない。


物語を改変したいわけでもないけど、死にたいわけでもない。


ユリウスは、8歳の時にアボット子爵家にやってくる。

父が外で作った子であり、実母が亡くなったことで引き取られる。

そして、継母にいじめられた末、魔力暴走を起こし、たまたま近くにいた義姉を巻き込む。

ユリウスだけは助かり、ここで、私イダは死亡する。

娘を亡くしたことで、自分の行いを省みた継母の方から歩み寄り、新たな家族再生の物語となるのが、この小説の第一部である。


私は、継母とユリウスが仲良くなるきっかけのためだけに死ぬ装置なのである。


継母がユリウスを受け入れるようになるのには、理由がある。

イダが死んでからわかることだが、イダは本当の娘ではないのだ。


子爵夫人は子どもを望むのが難しかった。

それで夫婦で話し合い、孤児院の赤ん坊を養子にした。

そうやって家族3人で暮らしていたところに、ユリウスがやってくる。


夫人は、余所で子どもを作っていた夫に対して酷い裏切りにあったと感じ、その子どもであるユリウスを激しく憎む。

そして、ユリウスをいじめ抜く。

だが、魔力暴走を起こさせたことにより、自分はとんでもないことをしていたんだと反省する。


そして、唯一残った新しい養子であるユリウスに対して、イダという血のつながらない娘も愛せたのだから、ユリウスのことも愛せるに違いないと改心するのだ。


それをユリウスも徐々に受け入れて、以前とは比べものにならない仲良しの3人家族になっていく。


そんなわけで、イダは死んでも血筋としては何も困らなかったわけ。

むしろ、子爵家当主の血が半分入っているユリウスの方が、価値があったのだ。

だから義姉のことは、死んで以降は名前すら出てこない。


どんなに読み進めても、どの登場人物もユリウスのために用意された記号にしか見えなくて、私は気持ち悪いなぁと思っていた。

だから、この小説は好きじゃなかった。

あまりにも、ユリウスに対してご都合主義だったから。


でも、今はそんなことを言っていられない。

もうすぐユリウスが、我が家に引き取られる。

つまり、私も死ぬことになる。

この世界で生きたいわけじゃないけど、だからってみすみす死んだりしない。

…どうにかしなきゃ。


「はじめましてユリウス。私はイダ、よろしくね」

「…はい」

8歳の少年ユリウスは、小説で読んだときの印象よりも弱々しく見えた。


成長したユリウスは、子爵家を継いで、可愛いヒロインや友人に恵まれている主人公だったから、その様子と比べてしまったのかもしれない。

とにかく覇気がなく、ずっと俯いていた。


「…あの、イダ様は、どうして僕と一緒にいてくれるんですか?」

ある日、ユリウスが戸惑った様子でそう訊いてきた。


「えっ、あ〜、せっかくだし仲良くなれたらいいなって」

ニコッと笑って見せたけど、嘘くさくてユリウスに余計に警戒されたかもしれない。


家にいる時は、なるべくユリウスと一緒にいるようにした。

小説の中ではどうだったか記載もなかったけど、とりあえずそばにいる。

といっても、ソファーで横に座っているだけのことがほとんどだけど。

それでも、1人にすると母に痛めつけられるだろうから、少しは抑止力になっているのではないかと思う。


虚ろな顔で私を見上げているユリウスが、痛ましく見える。


この家には信用できる人間はまだいないだろう。

イダが死なないと、家族の歩み寄りもない。

それもあって、私がそばにいるしかないと思っているんだけど。


でも、別に思い入れのあるキャラクターでもないし、そこまで仲良くなりたいわけでもなく、円滑にやりとりできればなぁ、くらいしか思っていない。

私が仮に生き延びられたとしても、子爵家を継ぐのはユリウスだし、私は厄介払いされるか、政略結婚の道具になるかくらいだろう。

そうなった時に、なるべく迷惑のかからない義姉になっておくのが無難だと思っている。


…最悪、もう少し大人になったら、家から逃げ出して平民に戻ったっていいんだし。


ユリウスが私から目を逸らさないので、肩を竦めてみせた。

ユリウスがビクッとしたけれど、構わず近づいて小声で話しかける。


「…本当のことを言うと、いつかユリウスがお家を継いだ時に、邪魔にならない義姉になりたいな〜って思っているの」

その言葉に、ユリウスは目をパチパチさせて、口元に手を当てて同じように小声で返してきた。


「…僕じゃなくて、継ぐのはイダ様では?」

「ううん、私じゃないよ」

「…でも」

「うーん、これは内緒の話なんだけどね。…私、父様とも母様とも血がつながっていないの」

「…?」

「ユリウスと同じで養子なの。だから、血のつながりのない私じゃ継げないんだよ」

またユリウスは目をパチパチさせたけれど、今度は目に生気が少し戻った気がする。


「…あら、こんなところにいたの」

「母様…」

振り返ると、部屋の入り口に不穏さを隠せていない母様が立っていた。

隣のユリウスが、体を震わせたのがわかった。


「…イダ、そんな子と関わっちゃダメでしょ?」

「ユリウスは、私の義弟ですよ」

「あら、私の可愛い子どもは1人だけよ。そんなことを言って、母様を悲しませないでちょうだい」


いつもなら近づいてこないユリウスが、私のドレスを握った。


主人公、頑張ってくれよとは思っちゃいけないか。

まだ、成長前だもんね。

第二部あたりなら、見違えるほどいい男に育っていることだろう。


それに理不尽な悪意に、子ども1人で立ち向かえないよね。


「ほら、イダ。あっちに行ってらっしゃい」

「でもっ、もっとお喋りしたいです」

「…イダ、いい加減にして」

「私、兄弟が欲しかったから、ユリウスが来てくれたの嬉しいんです」

「…それは、私への侮辱かしら」

般若のような母様の顔を見て、口を滑らしたと気づいても、遅かった。


「私への、当て付けに、そんな子を寄越して、イダあなたまで私を愚弄するのねええっ!!!」


…完全に、地雷を踏み抜いた!

子どもが欲しかった相手に、兄弟どうのは言ってはいけなかった。


母様は近くにあった火かき棒を手にして、私に向かって振りかざした。

頭を守ろうとして、背中に思いっきり当たった。

息が詰まる痛さで、私はそのままソファーに丸まった。


「…ぐっ!」

「…イダ様!」

「あんたって子は、あんたって子はっ、このっ、今まで育ててやったのに、仇で返すのかあっっ!!!」

「おく、さま、奥様っ、やめてください、イダ様が…!」

「うるさい!私に口答えするな、私生児のくせにっ!」

「…ばか、ユリ、ウ、ス」

私は痺れた腕を伸ばして、ユリウスの頭を抱えた。


「イダ様…!」

「煽っちゃダメ…、すぐ終わるから、耐えて…」

私の声が掻き消されるように、次の打撃がやってきて、呻きが漏れる。


「ぐはっ…」

ユリウスは何度もこれを耐えて、それで、結局魔力暴走したのか。

これは、継母に復讐しないで、許したユリウスは、すごいな…。

頭の端で、意味なく小説の中のユリウスを見直した。


息が、しづらい…。

私、結局ここで死ぬ運命だったのかもな。


抱えたユリウスの体温だけが確かで、何度も打たれているうちに、意識が遠のきそうになった。


こんな死に方だったかと思った時、自分の下から風が巻き起こっていることに気づいた。


…なに?


「イダ様に、触るなああっ…!!!」

聞いたことない大声と共に、私以外の全てが弾け飛んでいくのが視界に映った。


「うっ」

母様の呻き声が、遠くでした気がした。


これ、魔力暴走…!?

なんで、今ユリウスは叩かれていなかったじゃない。


朦朧としている中、目の前で苦しそうにしているユリウスが見えて、考えるより先に抱きついた。


「…っ!」

「ユリウス、もう大丈夫だから…、大丈夫だよ」

「…イダさ、まっ」

「ふふ、せっかくならお姉ちゃんって、呼ばれてみたかった、な…」

「イダ姉様…」

「うん、そう」

「イダ姉様っ、イダ姉様…!死なないでくださいっ!」

「ユリウス、ごめんね…、何にもできなくて」

「死んじゃ嫌ですっ!」

泣きじゃくるユリウスの周りには、竜巻のように魔力が動いていて、とてもじゃないけど私には止められなかった。


どうしてか、ユリウスだけでなく私も渦の中心にいて、魔力に煽られなかったけど、もう限界だった。


ああ、小説の中のイダも、もしかしたらこんな気持ちだったのかな。


不穏になってしまったこの家に、ユリウスを残していくのは、忍びなかっただろうに。


ユリウスの顔に血がついていて、指先で拭ったけれど、傷は見当たらなかった。


…ああ、私の血か。

こんなに血が出ているなんて、もう痛みもわかんないや。

小説の運命に、抗えなかった、な…。


でも、こんな世界、退場でもよかったか。


そのまま目を閉じる寸前まで、ユリウスが私に向かって何か叫んでいた。





お読みださりありがとうございます!  毎日投稿73日目。

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