死小説
コップの底に繁茂している黴が見えたが気にせずにソーダを飲む。死なないかなと半分期待しつつ、死ぬわけねえだろと半分呆れる。部屋からは汚臭が漂い、ベットに横になった私は汗に染まった掛け布団を手繰り寄せる。慣れてくると意外に癖になってくる、鼻をつく香りがあたりに広がる。カーテンは閉じられていて光は入ってこない。机の上の時計は止まっている。布団の皺に挟まっている携帯を見ないと正確な時間はわからない。正確、なんてないかと苦笑する。笑うと汗が粒になって胸の谷間のちょっと上に滴る。手で水分をなぞって、舐めてみる。しょっぱい。なにか楽しいことはないだろうか。テレビもないし、パソコンはあってもネットに接続されていない。六畳弱のフローリングは下着と紙類と毛髪、ビニール袋でうめつくされている。下着ごしに性器をまさぐってみて、惰性だなと思って手を止めて。なにもない。時間だけが嘘のように過ぎていく。携帯を拾ってメールが来ていないことを確認して、うとうとするだけ。単純な動作を繰り返すだけで、一日はたやすく来てしまう。日記をつけようにも書くことがなくて困る。毎日に変化がまるでない。コンビニまで歩いてソーダとパンを買う。いつもの日課である。さっそくパンを頬張る。欲に溺れている人のようにばくついたら、喉がつっかえて息苦しくなる。困らない程度にはお金はある。両親が残していった遺産。ではない。パートをしてたときの貯金を崩しているだけで、底はもう見えかけている。少しずつ、でも確実に減っていく金。ベットに倒れると、視界が急にぼやけてくる。部屋のなかが別世界のように感じられ、中心にある白色灯が太陽に見えてくる。影になった壁の漆喰まで剥がしてやりたくて適度に黄ばんだ壁のでこぼこを飽くこともなく眺めることができる。便意を催してトイレまで進む道程が遠く感じられる。五メートルもないだろうに。手入れのしてない便器は真っ黒でブラシで擦っても洗浄液を入れてもとれなくなっている。用を終えて簡易台所で水を火にかける。冷蔵庫には数種類の食材が乱暴に置かれている。見た目には変哲もない卵がある。三ヶ月も前に賞味期限が切れたものだ。卵を沸騰した湯に入れて茹でる。尊い生命を無駄にして申し訳ない。誰にも知られることのない小さな命。半年がたって、賃料不払いを訝しんだ家主によって一人の死体が発見される。




