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第9章

新年が明け、羽田空港には穏やかな日常が戻ったかに見えたが、その裏では見えない脅威が忍び寄っていた。

ある朝、管制塔の一室で行われたミーティングには、いつものメンバーに加え、不意の訪問者が現れた。佐藤の後ろに立っていたのは、黒のスーツに鋭い目つきをした男――警視庁公安部の倉木和男だ。

「皆、おはよう。」

佐藤が口火を切ると、重苦しい空気が一気に室内に広がる。

「今朝、警視庁から緊急の報告があった。倉木さん、お願いします。」

倉木が一歩前に出て、冷静かつ淡々とした口調で話し始めた。

「警視庁公安部の倉木です。現在、特定の組織が羽田空港のシステムに対してサイバー攻撃を企てているという情報が入りました。もし攻撃が行われれば管制システムや通信が混乱し、空港全体の運用に深刻な影響を及ぼす可能性があります。」

「サイバー攻撃……?」

内田が眉をひそめ、思わず声を漏らす。その言葉に、他のメンバーも驚きと緊張を隠せない様子だった。

「攻撃の規模や正確な日時は不明ですが、これから1週間以内に何らかの行動が起きる可能性があると見ています。我々としてはあらゆる事態に備える必要があります。そのためには、皆さんの協力が必要です。」

倉木の鋭い視線が一人ひとりを見渡す中、片山は腕を組み、黙ったまま真剣な表情で聞いていた。

「我々管制官にできることは、常にシステムの状況を監視し、異変を早期に察知することです。」

佐藤が重々しく言葉を続けた。

「皆、いつも以上に緊張感を持って業務にあたってくれ。そして、何か気づいたことがあれば、すぐに報告するように。」


________________________________________


ミーティングが終わり、真奈美は鈴木と共に管制席へ戻る途中、鈴木が小声で言った。

「サイバー攻撃か……航空業界にまでそんなことを仕掛けるなんて、恐ろしい時代になったな。」

「ええ。でも、空港と乗客の安全を守るためには、できる限りのことをしないと。」

真奈美の表情には強い決意が宿っていた。鈴木はその横顔を見て、少しだけ安心したように笑った。

「頼もしいな。……でも、片山さんも相当気にしてる様子だったな。」

「片山さんが?」

「うん。あの人が腕を組んで何かを考え込むときは、よほど重要なことがある証拠だ。」

その日の業務中も管制塔内には緊張が漂い続け、片山を含む全員がシステムの異常を見逃すまいと、いつにも増して集中していた。


________________________________________


その夜、管制塔内のブリーフィングルームで対策会議が開かれた。集まったのは片山をはじめとする管制官の面々。それに加えて、公安部の倉木、羽田空港長の磯村も参加した。

ホワイトボードには空港システムの概略図が描かれ、片山と倉木が中心となって会議を進行した。

倉木は再び、より具体的な情報を提供した。

「攻撃はこの1週間以内に行われる可能性が高いという情報が入っています。具体的な日付や時間帯、ターゲットとなるシステムについてはまだ特定できていません。」

「その情報の根拠は?」と内田がすかさず尋ねた。

「それについてはお答えできません。」

内田が率直に尋ねると、倉木は淡々と首を振った。

「情報源に関しては申し上げられません。公安の機密情報なので。ただし、ここ1週間以内に何らかの行動が起こる可能性が高いというのが我々の見解です。」

「情報源も言えないってか……。」

内田が納得いかない様子でつぶやくが、片山が低い声で口を挟んだ。

「今は情報の信憑性を疑っている場合じゃない。もし攻撃が起これば、空港全体が混乱に陥る。その前に、やれることをやるだけだ。」

「そうですね。」

空港長の磯村が重々しくうなずき、参加者全員に向かって言葉を続けた。

「羽田空港は日本の玄関口であり、世界に向けた航空の要でもある。我々の責務は、その運用を絶対に止めないことだ。」

磯村の言葉に一同は静かにうなずいた。

「しかし一週間以内…か。」と佐藤が呟く。

「その期間内に、可能な限り準備を整える必要がある。最初の攻撃がどの形で来るかはわからないが、空港システム全体のセキュリティを強化するために、各部署で具体的な対策を講じていこう。」

片山が次のステップに進めるための役割分担を説明した。

「システム監視をさらに強化するため、内田と篠田は設備担当と協力して、異変がないか随時確認してくれ。」

「了解です!」

「三津谷は空港内で情報を管理する部門と連携し、攻撃に備えた最新の情報収集を行ってくれ。」

「了解しました。」

「真奈美、鈴木。お前たちは通常業務を続けつつ、通信状況の変化に特に注意を払え。」

「はい、了解しました!」

「わかりました。」

鈴木と真奈美は力強く返事をした。

「倉木さん、警察側としてはどのような対策を?」片山が尋ねると、倉木はうなずいた。

「警察庁とも連携を取っており、サイバー専門のチームがサポートします。空港内にも捜査員を配置する予定です。しかし、最終的には空港内での対応が肝心です。」

片山は一瞬、緊迫した空気の中で考え込む。しかし、すぐにその考えを振り払い、冷静さを取り戻して指示を出し続けた。

「もし攻撃が始まったら、すぐに連携して情報を共有し、最小限の被害で食い止めることが最優先だ。チームワークを強化して臨んでください!」

会議は夜遅くまで続き、各自がそれぞれの役割を担って準備を進めることになった。


________________________________________


会議が終わった後、真奈美と鈴木は片山の元へ駆け寄った。

「片山さん、私に他にできることはありますか?」

真奈美が真剣な表情で尋ねると、片山は一瞬目を細めてから静かに答えた。

「今は、ただ自分の仕事をしっかり果たせ。それが最も重要だ。」

その言葉に真奈美と鈴木は顔を見合わせ、頷いた。

「わかりました。」

管制塔から見える夜景は美しかったが、その向こうには確かに不穏な影が迫っていることを、全員が感じていた。

「絶対に守ってみせる。」

そう心の中でつぶやき、真奈美は再び自らの席に戻った。

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