第8章
緊急事態から数日が経ち、管制塔内にはようやく平穏が戻ってきた。年末の繁忙期は続いていたものの、各々が先日の経験を活かし、より効率的に業務を進めていた。
そんな中、鈴木の羽田空港への着任を祝う歓迎会が少し遅れて開催されることとなった。場所は空港近くの居酒屋「空の縁」で、勤務を終えたメンバーたちが集まった。
参加者は、真奈美、鈴木、内田、三津谷、篠田、そして佐藤の6人だった。テーブルには料理が並び、談笑が始まる中、片山の姿がないことに気づいた篠田が口を開いた。
「片山さん、やっぱり来なかったですね。そういえば、片山さんの歓迎会まだやってませんでした。」
「だろうと思った。」
鈴木が苦笑しながら答えた。その表情はどこか懐かしさを感じさせるものだった。
「片山さん、昔からああなんですよ。人付き合いが悪いってわけじゃないんだけど、なんていうか、飲み会とかにはあまり顔を出さないタイプなんです。」
「そうなんですか?」
真奈美が興味深そうに尋ねると、鈴木は笑顔でうなずいた。
「でも、あの人なりにみんなのことを気にかけてるんです。大分にいた頃も、厳しいけど、本当に困ったときは必ず助けてくれる人でした。」
その言葉に、真奈美は先日の緊急事態を思い出した。厳しい指摘を受けたときの片山の目は冷たくはなく、むしろ背中を押してくれるような力強さがあった。
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歓迎会の中心となった鈴木は、気さくな性格で皆との距離をすぐに縮めていった。
「内田さん、いつも片山さんに突っ込んでますけど、本当は尊敬してるんじゃないですか?」
「いやいや、あの人は突っ込みどころ多いんだよ。篠田だってそう思うだろ?」
突然振られた篠田は、慌てて首を振った。
「えっ? あ、あの……私はまだ片山さんに怒られたことがないので……。」
「それは運がいいな。」
三津谷が笑いながら言うと、篠田もつられて笑った。和やかな雰囲気の中、真奈美は鈴木に話しかけた。
「鈴木さん、先日はありがとうございました。正直、まだまだ私には力不足なところが多くて……。」
「いや、真奈美さんの対応は見事でしたよ。俺も焦っちゃった部分があったけど、あの状況で冷静に動けたのは立派だと思う。」
鈴木の真摯な言葉に、真奈美は少し顔を赤らめた。
「でも、もっと連携を取れるようになりたいです。次はうまくやりましょう。」
「ええ、もちろん。」
二人の間に笑顔が交わされ、そこには互いを認め合い、次に進もうとする前向きな空気があった。
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その後、佐藤がグラスを持ち上げて乾杯の挨拶をした。
「鈴木君、改めて羽田へようこそ。これからもチームの一員としてよろしく頼むよ。」
「ありがとうございます。チームの一員として、皆さんに貢献できるよう頑張ります。これからもよろしくお願いします!」
鈴木が力強く答えると、他のメンバーも次々にグラスを掲げた。
「乾杯!」
その声が店内に響き、笑顔と笑い声が交差していた。
歓迎会は夜遅くまで続き、それぞれの想いが新たな絆を結びつつあった。外に出ると、夜空には星が瞬き、冬の冷たい空気が頬を包んだ。真奈美はその空を見上げながら、心の中でこうつぶやいた。
「私ももっと成長して、片山さんみたいにみんなを支えられる管制官になりたい。」
その願いを胸に、真奈美の決意はさらに強くなっていた。