第5章
田辺の最終勤務を前日に控えた夜、管制塔のメンバーたちは小さな送別会を開いた。
居酒屋の個室に集まったメンバーたちは、それぞれに田辺との思い出を語り、笑い声が絶えなかった。
「田辺さん、いままで本当にありがとうございました!」
篠田が感謝の言葉を述べると、三津谷が笑いながら付け加えた。
「田辺さんの仙台行き、正直寂しいけど、向こうの人たちはきっと喜びますよ。田辺さんには何度も助けられましたからね。」
田辺は笑顔でうなずいた後、真奈美を見つめた。
「山口君、最初に会った時は緊張してた君が、今では堂々と指示を出している。これからも頑張ってくれ。」
「田辺さん……ありがとうございます。」
真奈美の声は少し震えていたが、その目は田辺に対する感謝と決意に満ちていた。
その時、内田がふと疑問を口にした。
「ところでさ、片山さんってあんなに優秀なのに、どうして15年も地方の大分にいたんだろう?」
その場が少し静かになる。篠田や三津谷も、内田と同じ疑問を抱いている様子だった。
「まあ、本人にしかわからない事情があるのかもしれないな。」
田辺が笑いながらその話題を軽く流したが、真奈美は片山のいない空席を見つめながら、少し考え込んでいた。
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送別会が終わった後、真奈美はなんとなく気になり、空港に戻ることにした。夜の静まり返ったオフィスに入ると、片山が1人デスクに向かい、書類を整理していた。
「片山さん、どうして来なかったんですか?」
真奈美が声をかけると、片山は少し驚いたように振り向いた。
「いや、俺は送別会とかそういうの、あまり得意じゃないんだ。」
「でも、田辺さんきっと片山さんにも会いたがってたと思います。」
真奈美の言葉に片山は少し考えた後、小さくため息をついた。
「そうかもしれないな。」
それ以上のことを言おうとはせず、片山は再び書類に目を向けた。真奈美はそれ以上問い詰めることはせず、軽く頭を下げてその場を後にした。
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翌日、田辺の最後の勤務の日がやってきた。見送りの時間、片山が花束を手に田辺に近づいた。
「田辺さん、長い間お疲れさまでした。本当にありがとうございました。」
その言葉はシンプルながら、片山の心からの感謝が込められていた。田辺は花束を受け取り、静かに笑った。
「ありがとう、片山さん。君のような管制官がいるからここは安心だ。山口君や他のメンバーを頼むよ。」
田辺のその言葉に片山は小さくうなずき、真奈美をちらりと見た。真奈美もまた片山の視線を受け止め、しっかりと頷いた。
田辺が去った後、管制塔のメンバーたちは少し寂しげだったが、それぞれが新たな一歩を踏み出す決意を胸に秘めていた。そして片山もまた、これからのチームを守り、導いていく覚悟を新たにしていた。